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恋人たちのチョコレート

スイーツになった聖人たちの極めつけともいえるのが、チョコレートの売り上げに世界的に貢献している恋人たちの守護聖人、聖ヴァレンタイン(Saint Valentine ラテン語:ヴァレンティヌス)だろう。
聖人の名前は、ラテン語で"暴力"、"強さ"を意味する「ヴィオレントゥス(violentus)」に由来し、英語の「ヴァイオレンス(Violence)」の語源でもある。聖ヴァレンタインは、サンタ・クロースと共に20世紀後半に世界的に有名になった聖人だが、その実在も疑わしく、なぜ婚約者、恋人たちの守護聖人になったか?の定説もない。聖人の候補も複数いて、3世紀半ばのローマの司教とも、ローマの北テルニの司教ともいわれている。二人の殉教した時代が近いことから両者は同一人物では?という説もある。
近年、2月14日前後にはコマーシャリズムにのった聖ヴァレンタインのイベントがイタリア、フランスなどで開催される。その中でも現在、暫定的に聖ヴァレンタインに有力視されているイタリア・テルニの聖ヴァレンティーノ(Valentino di Terni)ゆかりのイベントと、フランス中央部の恋人たちの聖地ともいえるフランスのサン・ヴァランタン(St. Valentin)村を訪ねた。

テルニ市聖ヴァレンティーノ聖堂(Basilica di San Valentino)では、1月下旬から3月初旬まで聖ヴァレンタインの宗教祭事が催される。しかしこのイべントのハイライトは、2月10日から聖人の記念日である2月14日まで旧市街の中心のヨーロッパ広場(Piazza Europa)で開催される「チョッコレンティーノ(Choccolentiono チョコ村)」だ。チョコレートやケーキの屋台が立ち並び、その前後の週末には、ジャズやクラシックの音楽コンサート、聖人にまつわる劇やヴァンレンタイン・マラソン、マーケットなども開催される。

会場で披露される世界最大のハート型のチョコレート。

ヨーロッパの人たちには人気の、オレンジの皮をチョコでコーティングしたシシリアのチョコ菓子「スコルツェッテ(Scorzette)」の屋台も。ちょっぴり苦味があるスコルツェッテは、まさに恋の味かも?

テルニがあるウンブリア州都ペルージア(Perugia)はチョコレートで有名な都市。ペルージアには「バッチ(Bacci 接吻)」で知られるイタリア最大のチョコメーカー「ペルジーノ(Pergino)」もある。

ヨーロッパではチョコレート以外に花束やアクセサリー、テディベアもヴァンレンタイン・デーの人気プレゼント

恋人たちのツーショット用ラブ・スポットも設営され、会場は甘い❤雰囲気に包まれる。

2月14日は人口約11万人のテルニにイタリア各地から約3万人の恋人たちや訪問者が集まる。ホテルが少ないので、この時期テルニを訪問するなら、早めのホテル予約が必要だ。

聖ヴァレンティーノ聖堂は旧市街の外にある。17世紀初頭、ふるい聖堂の地下から銅の骨壺に入った聖人の聖遺物(遺骨)が発見された。聖ヴァレンティーノの墓の上に8世紀半ばに最初の教会が献堂されていたが、現在の教会は、17世紀前半、その上に築かれた。イべント期間中、聖ヴァレンティーノ教会の本堂への大通リは、❤型のイルミネーションで飾られる。

聖堂の正面左手に置かれている聖ヴァレンティーノの像。記念日の期間中に司教から婚約者たちへの祝福がある。

聖ヴァレンティーノの記念日前に、17世紀末に書かれた戯曲をもとにした町民参加の史劇が、聖堂内を舞台に演じられる。

ローマ帝国時代、兵士の結婚は禁じられていたが、聖ヴァレンティーノは恋人たちの結婚を祝福していたという。

聖ヴァレンティーノは数々の奇跡を起こした。癲癇を患っていた地方の統治者の息子を癒したことから、多くの人がキリスト教に改宗した。

地方の知事は聖ヴァレンティーノを捕らえ、斬首の刑に処した。

一方、フランス中央部、六角形をしたフランスの中心に位置するサン・ヴァランタン村では、町役場主催で2月14日を挟んで数々のイべントが開催される。記念日には、町役場が薄紅色の薔薇の花で作る大きな❤で飾られる。
サン・ヴァランタン村は11世紀頃に築かれた村で、村を作る際にローマの司教だった聖ヴァレンティーノの聖遺物を移葬して教会を建てたことから、聖人の名前で呼ばれるようになった。その聖遺物もフランス革命時に投げ捨てられ、行方不明となってしまっている。

町役場前広場の薔薇の花で飾られたツーショット用❤

記念日には町役場で結婚記念のセレモニーが開催される。

イべント期間中、町役場近くの公民館ではチョコレートなど様々なヴァレンタイン商品が売られる。

フランスの「愛の画家」といわれるペイネのハガキ、ポスターも人気。
サン・ヴァランタン村では、ペイネの絵で切手を発行したこともある。

この日、公民館の会場には特設郵便局が設けられる。
2月14日の日付と"San Valentin"の消印が付くので、多くの人が列を作って投函する。


サン・ヴァランタン村の郵便局の郵便箱。

サン・ヴァランタン村の観光スポットの一つ、日本のブライタル企業の支援で作られた恋人たちの園「ジャルダン・デ・ザムール(Jardin des Amoureux)」。パークのシンボル"愛が成就する樹木"は、「ハートの樹木(Arbre à coeurs)」と命名され、町役場で金属製のハートを購入し、恋人たちの名前を書き込んだ絵馬ならぬ"絵ハート"が鈴なりになっている。

サン・ヴァレンタン村は、オーストリアのサン・ヴァレンティン(St Valentin)村、日本の岡山県の作東町、2017年から熊本の相良村と姉妹町村契約を結んでいる。

ヴァンレンタイン・デーにはサン・ヴァランタン村の仮設レストランで記念ランチの会食パーティもある。


聖人録

聖ヴァレンタイン

Saint Valentine


聖ヴァレンタインという名前の聖人が複数存在したこともあり、聖人の生涯は断定されていない。テルニの聖ヴァレンティーノは、紀元後176年イタリア中央部のイテラムナ(現テルニ)に生まれ、20歳頃にローマの司教によりテルニの最初の司教に叙された。
皇帝クラウディオ二世によるキリスト教徒大迫害の際、269年にテルニ近郊で斬首の刑に処されたとされる。他に347年に殉教した聖ヴァレンティーノ、北アフリカ出身のヴァレンティーノ殉教者も存在し、特定することは難しい。
聖人が恋人たちの守護聖人になった理由も定説がない。
古代ローマ時代、2月に開催されていたルぺルカリア祭で娘たちが自分の名前を書いた札を壺に入れ、その壺の中から男性が札を引いて結ばれたことに由来するとか、2月中旬は小鳥たちが"つがい"になり愛を囁くからとか、聖ヴァレンティーノが当時禁止されていた兵士の婚姻を祝福していたからとか、様々な言い伝えがある。
テルニ市、癇癪、腹痛治癒の守護聖人。

テルニの聖ヴァレンティーノ聖堂で行われた聖人の記念日の特別ミサ。祭壇の下部の聖人の像の聖遺物入れの中に聖遺物が顕示されている。 



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