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居酒屋韓国 006 -カカオタクシーは私を乗せて-

【これは『居酒屋韓国』というエッセイ集の一つの記事になります。韓国で韓国人の友人たちとの交流を通して経験したことや知ったこと、韓国語についてなど色々と書き綴っています。】

 日本にいても、楽しくお酒を飲んでいるとついつい飲み過ぎてしまうことがあります。私の場合は記憶を無くしたりなどはないのですが、ついつい帰るつもりだった時間を過ぎても飲んでしまったりします。それが、韓国に行って久しぶりに会う友人たちとお酒を飲むとなると当然、少し無理をしてでも一緒にいる時間を多くします。簡単には会えないので。
 そうすると、当然終電も終バスもなくなってしまいます。始発まで一緒にいることもあるのですが、友人たちも仕事があったり予定があったりするので始発が走り出す前に帰路につくことになることも。その時はもちろんタクシーで皆さん帰ることになります。同じ方向なら乗り合わせて帰るのですが、私は大抵の場合は一人でタクシーに乗ることになります。何故かというと、私はホテルに戻るので観光地のど真ん中に向かいます。そんな観光地のど真ん中に住んでいる地元の人はそうそういないので、一人でタクシーに乗ります。最初の頃はちょっと心細く不安でしたが、慣れてしまえばあっという間にホテルに到着しますし、道もなんとなくではありますが、覚えてくるので安心して乗ることができるようになりました。
 そんな韓国で時々乗るタクシーなんですが、一つ忘れられない思い出があります。
 あの時もいつものように楽しく友人たちとお酒を飲んでいました。ただいつもと違い、友人の友人、初対面の方も数名一緒にお酒を飲んでいました。韓国の場合、初対面の方と一緒にお酒を飲むことが珍しくないというか、いつの間にか人数が増えていたり、気にせずフランクに仲良くなってくれるので、初対面の方々とご一緒させてもらう機会は少なくありません。ですから、友人とお酒を飲みに行った韓国で友人が増えて帰ってくるなんてことはよくあります。そうやって会いたい人たちが増えていきます。本当に素敵な出会いが多い国です。もちろん、そういうのが苦手な方もいらっしゃると思いますから、そういう方には面倒な文化だと感じるかもしれませんね。
 さて、話を元に戻します。そんなふうに出会った初対面の私にも彼らは本当に良くしてくれました。たくさん話をしてくれましたし、韓国についていろいろと教えてくれたりもしました。笑い合いながら、過ごした時間は本当に早く過ぎて行きました。そして、それぞれが帰路につくために店を出てタクシーの相談を始めました。誰と誰が一緒に乗るのか、どっちの方向に行くのか、日本でも見ることができる光景です。私は「今日も一人かな」と思ってちょっとはずれた場所でみんなの会話が一段落するのを待っていました。そんな私にその日に初めて会った彼が近づいてきて、私が泊まっているホテルの名前とホテルの場所を聞いてきました。「たぶんいないと思うけど、一緒に帰る人を探してくれるのか。優しいな」と思いなが彼にホテルの場所を伝えました。彼は微笑んだ後、他の友人たちの元に戻っていきました。
 まあ、観光地を回って帰る人がいれば一緒に帰れますが、先にも書いたようにそういう人はなかなかいないので期待しないで待っていると、ホテルの場所を訪ねてきた彼が私を呼びました。私が彼の元に寄ると、道の方を指さして「あのタクシーに乗って」と一言。タクシーは私たちの前に止まり、友人たちは私をタクシーに乗せてくれました。私はみんなとの時間を振り返りながら、「タクシーに先に乗せてくれるなんてみんな優しいな」と思いながら窓から見える風景を楽しんでいました。そこであることに気がつきます。

「ホテルの場所、言ったっけ?」

 タクシーはホテルに向かう正しい道を走っていました。私はお酒と慌ただしくタクシーに乗ったせいで伝えた事を忘れたのかな、と思いました。楽しい時間とお酒は冷静さを奪うこともあるので、思わぬところで忘れ物をしたり、こういったうっかりをしてしまうこともあるのでそれほど疑問には思いませんでした。そして、タクシーはホテルの前で止まりました。タクシーから降り時には当然、料金を払います。私も当然、料金を払おうとしました。そうするとタクシーの運転手さんは、「必要ない。アプリで払ってもらっているから」と。
 その瞬間、私は色々な事に納得しました。彼はアプリでタクシーを呼び、料金も払ってくれたのです。アプリでタクシーを呼ぶときに事前に目的地もアプリで入力してあったので私がホテルの場所を伝えなくても私はホテルまで行くことができたわけです。
 その彼とは、その日に会いました。初対面だったんです。初対面の私のタクシー代を黙って出してくれるなんて本当に驚かされました。そして、本当に感謝しました。
 彼とは今でも連絡を取り合い、予定さえ合えば韓国で会うようにしています。彼がどうしてそこまでしてくれたのか今でもその理由は謎ですが、これが韓国で出会う事のできる「情」の一例です。こんなふうに素敵な「情」を持った友人に出会いたくて私は韓国に行っているのかもしれませんね。
 翌日、その彼と一緒にいた昔からの友人から連絡が来て「タクシー料金、払わされたりしてないよね?」と詐欺まがいの行為に合っていないかまで心配してくれました。本当に素敵な人たちです。そして韓国にはカカオタクシーというアプリがあってタクシーに乗るときに使うと便利だということを教えてくれました。その時はまだ日本でタクシーアプリが一般的でなかったので、カカオタクシーがもの凄く進んだアプリだと感じたことを覚えています。今では私のスマフォにも入っているカカオタクシー。そのカカオタクシーのアイコンを見るたびにそんな素敵な思い出を思い出しつつ友人たちが元気かなと思いを巡らせています。
 慣れないと少し不安な乗り物のタクシーもアプリと素敵な思い出のせいで今では欠かせない乗り物になっています。

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