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居酒屋韓国 005 -恐るべし南山タワー-

【これは『居酒屋韓国』というエッセイ集の一つの記事になります。韓国で韓国人の友人たちとの交流を通して経験したことや知ったこと、韓国語についてなど色々と書き綴っています。】

 私は韓国にお酒を飲みに、友だちに会いに行くんですが、時に約束の時間が友人の都合で変更になることがあります。それは仕方がないことなので、特に気にすることはありません。それに言っても韓国、海外旅行に行っているわけですから予定が変更になって急に時間ができたとしても、いくらでも暇は潰せます。観光してみたり、ショッピングをしたりと友人に会っていない時もやりたいことは山ほどあります。
 あの時は、当日急に友人の都合でお昼に会う予定が夜に変更になってしまいました。思いもしなかった少し長めの空き時間ができた私は、まだ行ったことのない観光地に行ってから少し買い物でもしようと思いました。ゆっくりと韓国の空気を味わいたいということもあって、ホテルから歩いて行ける場所に行くことに。ソウルの中心地のあたりに南山(ナムサン)という山があり、その頂上辺りにタワーが建っているのですが、そこにはまだ行ったことがなく、ホテルからも歩いて行けるの場所だったので南山タワーを目指しホテルを出発しました。このタワーはソウルの中心地の至る所から見ることができるため、ずっと気になっていたのですが、よく目にしていただけにどんな場所なのか特に下調べせずに、気軽にナビに従って向かいました。
 南山は富士山のような凄く高い山ではないので、舗装され緩やかな登山道が整備されていて、景色を楽しみながらゆっくりと上ることができました。中腹から見ることができるソウルの街はこんな感じです。12月のソウルの空気は冷たく、澄んでいて景色を楽しむにはとても良い環境でした。普段は見る事のない位置からの風景は違う味があって素敵でした。



 しかし、そんなちょっと素敵な時間を過ごしていた私に思いもよらない状況が襲いかかってきます。中腹までは非常に緩やかだった道が急に険しく、要するに急な道になっていきました。ですが、山ですから急勾配になるのは当たり前の事ですし舗装された登山道であることには変わりがなかったので、「ここで引き返すのもなぁ」と思い引き続きタワーを目指すことに。
 ただ……私はこの時に気づくべきだったんです。登れば登るほど山の道は急になってゆくことを。山とは、そういう場所だということを私は失念していました。
 次第により急勾配になる登山道。道は細くなり、人影も少なくなり、景色を楽しむ余裕はなくなり「きっつい」と独り言がでるほどに。さすがに諦めて帰ろうかと考えました。別に絶対に行きたい場所ではありません。時間ができたので、「行ってみようかな」と思った程度です。必死になる必要なんてないんです。そこで本気で引き返そうかと思い、立ち止まって顔をあげた瞬間、目に入ってきたのはケーブルカーです。
 ですよねぇ、ありますよねぇ。どうして私は、山は登るほど道が急になり、そんな場所が観光地ならたいていの場合、頂上に楽に行くための移動手段があるということに気がつかなかったんでしょうか。気がつかなかったにせよ、どうして下調べせずにいってしまったんでしょうか。後悔先に立たず。気がつけば、行くも地獄、戻るも地獄の地点まで歩いてしまったわけです。ケーブルカーを見た時に出たあの溜息を私は一生忘れないと思います。気がつけなかった、下調べをしなかった私自身に深く失望した瞬間でした。なぜ楽しいはずの観光地であんなにもしんどい思いを私はしてしまったのでしょうか。
 悔しかったからなのか、そんなちょっとおバカな自分を乗り越えたかったのか、溜息をついた後、気合いを入れ直して私は再度頂上を目指すことに。ケーブルカーの存在も分かったわけですし、帰りは乗って降りれば良いと思ったのもあったのかもしれません。疲れてしまいましたが、どうにか頂上に到着し、南山タワーを間近に見ることができました。



 苦労の後に見た景色、忘れられるわけがありません。冬の低い太陽の陽射しがタワーを輝かせていました。
 韓国、ソウルの冬なのに上着を脱ぎ、汗ばみながら登った南山。空気の冷たさは、体を冷ますのにちょうど良く、冬であることを一時、忘れたほどでした。そして喉が渇いた私は、ソウルの冬なのにアイスコーヒーを勢いよく飲み干しました。そして、冷たい空気を心地よく感じながら本当にすがすがしい気持ちになり、頂上まで辿り着いたという達成感に酔いしれていました。
 気分があまりにも良くなってしまった私は、何を間違ったのか歩いて下山することに。ですが登るときは急で辛かった道も、下りの時は辛くも何ともありません。そう思って、私は素晴らしい気持ちを胸に歩いて行きました。それが南山を下山し、明洞(ミョンドン)という日本で言う原宿のような場所に辿り着こうかという辺りで足が痛くなりました。皆さんは知っていたでしょうか、足に負担が掛かるのは、登りよりも下りだということを。翌日の筋肉痛を待たずして足が痛くなってしまった私。明洞でショッピングをするつもりだったのですが、ホテルに直帰。友人との待ち合わせの時間までベットとお友達に。
 その顛末を友人に話すと、「普通は歩いて登らないよ」と笑われてしまいました。あげ国の果てに、「ケーブルカーがあるの気づかなかったの?」と言われてしまう始末。「もちろん気がついたよ。……途中だったけど」と言葉にしなかった思いが頭の中をよぎったのは言うまでもありませんでした。
 何が起きるか分からないのが海外旅行です。下調べはしっかりしてから行くべきですね。皆さんもお気をつけ下さい。よく目にするだけに簡単に行けるだろうと思ってしまう場所、恐るべし南山タワー。全ては自業自得なのですが。

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