見える景色。(2019/1/27)
土曜日が、おもしろい。
午前中に川崎市の中学校の部活へ、午後は付属中の部活へ行く生活である。
この両校は『中学女子 ソフトボール部』というカテゴリーは同じだが、練習頻度や練習体制、所属部員の性質やチーム目標に至るまで、異なることの方が多い。
同じことは、ただ1つ。
中学生ならではの素直さと純粋さ。
それゆえ、両校の選手への、自分のアプローチというのは、大きく変わる。
午前と午後で『自分』が別の人間のような感覚がするから、おもしろいのだ。
今日はとても印象的な日だったから、時間を追って記録に残そうと思う。
午前は、川崎オープンという大会に帯同させて頂いた。
8時に着くように出向いて、選手たちと一緒にアップをとる。
とは言っても、大した指導をするわけではない。
私自身、試合当日にあれこれと指摘されると、どうしても不安な気持ちが掻き立てられ、パフォーマンスが上がらないような気がするからだ。
一緒にキャッチボールをして、トスをして、体を動かす。
監督さんに、試合前アップは一任されているため、自分が段取りを組んで進める。
ノックも同様、基本的には「OK!」「ナイス!」を連呼しながら、試合に向けて、選手達自身が気持ちを上げられるように努める。
中学生は非常に素直だから、捕れないミスが続くと、首をかしげたり、困った顔をして静止したりなど、目に見えて分かるリアクションをしてくれることが多い。
それを受けて、私は初めて、具体的なアドバイス、口出しをする。
例えば、グローブでボールを弾くミスが多い選手には、
「ボールがグローブに当たっているということは、グローブを出す位置は正しいのよ、そこからあと一歩。そのまま、自分がボールに寄っていくだけで入るから!何も変えない、寄っていくだけ!」
と、声を掛ける。
このアドバイス内容は、厳密に言うと正しくないかもしれない。
しかし、私がここで大切にしていることはアドバイスの内容ではなく、声のトーンと言葉選び。
極めて明るく鼓舞しながら、"肯定"と"限定"を強調する。
「正しい」「そのまま」「何も変えない」と「寄っていくだけ!」
自信を持ってもらうためのエッセンスを加えるような感覚である。いわゆる「仕掛け作り」だ。
そんなこんなで、ベンチ入りの時間がやって来た。
今日は副顧問の先生が不在だったため、代わってベンチ入りをした。
中学時代も大学時代も現役の時は、ほとんどの試合に出場していることが多く、私は「ベンチから」試合を観るという経験を、あまりしたことがなかった。
コーチを務めるようになってからは、ベンチ裏から選手への声かけ等はできるものの、ベンチの中から見るグラウンドは「見える景色」が違うということを、私は、今日初めて知った。
いつもは、後ろから聞いているベンチメンバーの必死の声援が横から聞こえ、
選手の試合中の様々な会話が耳に入り、
監督さんのつぶやきをメモすることができる。
指導者の特権を、存分に感じさせてもらったような気がした。
監督さんのつぶやきを聞きながら、色々質問させて頂いて今日得られたことは大きく2つ。
①チャンスメイクの仕方
②「勝負するため」のベンチワーク
非常に興味深い話だった。野球・ソフトボールならではの戦術の奥行きを感じた。
ふと思ったことは、練習方法やメニューというのは、情報が溢れたこの時代、自分がアンテナさえしっかりと立てていれば新しいことを得るのに困らない。
ただ、このように「実戦で勝つための監督脳」というのは、たとえ自分が監督という立場になってからでも、自力で得られるものに限界があるように思う。
一連の『流れ』がある試合を、部分抜粋しながら言語化して説明することは難しい。そう考えると、前述した「監督脳」を得るためには、やはり、「勝てる監督」に師事するのが手っ取り早いだろう。
今がまさに、その環境である。
それに気付くことができた今日、監督さんに会う日には必ずや、何か新しい「監督スキル」を得るべく行動しようと、これからの目標を置いた。
そうして、大会会場をあとにして、午後からの付属中の練習に向かう道中で、「勝てる指導者」と「勝てない指導者」の違いを考えた。
競技に対する知識の差はもちろんだが、例えばもっと上位大会のレベルで考えたときに、「全国大会出場を掴める指導者」と「いつも関東大会止まりの指導者」。
言わずもがな、両者ともに、非常に優秀な競技知識を持った指導者であろう。
ただ、勝たせられるような指導者になったところから、さらに毎試合ごとに自身の「ベストな監督脳」をアップデートしていくことができるかが、分かれ目なような気がする。
そうだとすると、その「ベストな監督脳」はどのようにしてアップデートされていくのだろうか、、?
この一連の思考を今の自分に置き換えてみた。
「ベストなコーチ」はどのように更新されていっているのか?
ソフトボール技術向上のための知識を得ることに関しては、本やYoutubeを活用しながら注力しているつもりだ。
自分自身が大切にしている「言葉」や「信頼」というものについても、同じことが言える。
ただ、自分の指導って選手達にとって「ワンパターン」のものになってるんじゃないかと、そんな気がした。
自覚している指導雰囲気を言葉にするなら『どことなく優しい、陽気な指導』。(選手と自分との認識に齟齬があったら悲しいが。。。笑)
そこで、昨シーズンまで現役だった中学生部員に聞いてみた。
「今のコーチ陣に足りないことは、何だと思う?」
分からないときは、聞くに限る。しかも、教えられる立場にあった『中学生』から話を聞くことができるのは、とても参考になるし、何より「あ、もっとがんばろ!」と、自分を奮い立たせる力となる。
引退した彼女達が『見える景色』というのもまた、私自身の新たなベストを作ってくれる大切な要素になる。
現役時代の自分達の部活の雰囲気と比べてもらい、コーチ陣の取り組み方を比べてもらい、絞り出してもらった答えは「刺激がない」という言葉だった。
あーーー。とてもよく分かる。
素直にそう思った。
自分が心のどこかで感じていた「ワンパターン」と通ずるものがあるように感じた。指導する側の自分が、自身でそのように感じていたなら、尚のこと、選手のみんなは心のどこかで、同じ事を考えていたに違いない。
罪深い時間を過ごしてしまったことを悔いたのも束の間、ならば、今日これからの練習を刺激的にしてやろうと奮起することに繋がった。
ワンパターンを感じていた『どことなく優しい、陽気な指導』というのは、自分自身が必要だと考えている、『勝つために必要な厳しさや拘りを抑圧』しながら、賢い選手が揃った今のチームの長所を伸ばしていくべく、選手達が『選手自身の頭で考えて、上手くなっていくことを目指したもの』だった。
プレイヤーの考えを尊重すること、
そして「肯定して褒める」ことで、
自信を持ち、上達に繋げてもらうことを意識していた。
上述した、川崎の中学生の「試合前練習」を「普段の練習」でやっていたような感じである。
これまではチームの雰囲気に自分を合わせにいっていた。
今日はそうではなく、本来の自分を少し開放し、
「彼女達がこの練習で得られるはずの練習効果を、全力で得ようとしているか」にフォーカスして練習を進めた。
当然ながら、その練習は熱を帯びた。
意図を持って練習に取り組めていない選手や同じようなミスを続け改善策が自力で見出せていない選手は、全体練習を一時的に抜けて別メニューを課し、ポジション競争が少ないことに甘んじているように思ったら、危機感を抱かせるべくコンバートもした。
おそらく、今日の練習の中で彼女達が『見た景色』も、また、新しいものであっただろう。
本気の勝負をするなら多くの人たちが見る、景色。
そこには、褒められるだけではなく叱責があって、
頭をフル回転させた必死さがあって、
ミスへの恐れを持ちつつ上手くなるための挑戦が必要なのだ。
ただ、だからこそ、「誰のための部活なのか」ということはしっかりと念頭に置いた上で、勝つためのベストなコーチ像を模索することが、常に必要であり続けるだろうと、私は思う。
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