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【随想】宮沢賢治『さるのこしかけ』

 楢夫は夕方、裏の大きな栗の木の下に行きました。その幹の、丁度楢夫の目位高い所に、白いきのこが三つできていました。まん中のは大きく、両がわの二つはずっと小さく、そして少し低いのでした。
 楢夫は、じっとそれを眺めて、ひとりごとを言いました。
「ははあ、これがさるのこしかけだ。けれどもこいつへ腰をかけるようなやつなら、ずいぶん小さな猿だ。そして、まん中にかけるのがきっと小猿の大将で、両わきにかけるのは、ただの兵隊にちがいない。いくら小猿の大将が威張ったって、僕のにぎりこぶしの位もないのだ。どんな顔をしているか、一ぺん見てやりたいもんだ。」
 そしたら、きのこの上に、ひょっこり三疋の小猿があらわれて腰掛けました。
 やっぱり、まん中のは、大将の軍服で、小さいながら勲章も六つばかり提げています。両わきの小猿は、あまり小さいので、肩章がよくわかりませんでした。

宮沢賢治『さるのこしかけ』(童話集『注文の多い料理店』)新潮社,1990

「突貫」
 楢夫は愕いてしまいました。こんな乱暴な演習は、今まで見たこともありません。それ所ではなく、小猿がみんな歯をむいて楢夫に走って来て、みんな小さな綱を出して、すばやくきりきり身体中を縛ってしまいました。楢夫は余程撲ってやろうと思いましたが、あんまりみんな小さいので、じっと我慢をして居ました。

同上

胡桃のような石膏玉がぱかりと二つに割れたら
銀色の匙とくらげのどろどろしたスープ
そいつをかき混ぜると蘭のような強い香りが立ち
どろどろはさらさらに変わった
穂先が燃えている槍を三本も投げてきた
辛うじて躱したけれど周りは枯れ草ですっかり野火に囲まれた
ぐるりと囲まれたらもうどこを向こうと同じこと
同心円に弱点はない
思い切って真っ直ぐ突っ込む
ちりちりからぱちぱちにぼうぼうはめらめらへ
焼ける臭いと焦げる臭いは違うものだなあ
かき混ぜられて
そして蒸発して
陽炎は透明で湯気は白く
飛び込め湧水のポンド

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