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思考のしおり

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いろんな分野にわたって考えたことをまとめています!
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#エッセイ

大人になる方法について

古本屋に寄って『蝿の王』を買ってきた。ほら貝を吹くまでの導入の部分でさえ、情景が目に焼き付くような鮮烈さを持っている。古典のひとつに数えられるような作品なので、その後の展開はおおよそ頭に入っている。しかし、もし何も知らずに読み進められた出版当時はかなりの衝撃を与えただろう。 大人になる、というのは何なのだろうか。これを書いている私は20代で、子供ではないが成熟した大人というには若すぎるかもしれない。この半端な人々には青年という表現が使われることもあった。もっとも、最近はあま

冷たい野生

秋になっても暑いままだと油断していたら、そんな人間を嘲笑うかのように急に寒くなってしまった。いつもなら冬の訪れは嫌いではないのが、あまりにも緩急が激しすぎて面食らってしまう。 この寒気で今年各地で大量発生していたカメムシが姿を消してしまった。一般的な殺虫剤も効かず、だからといって力ずくで立ち向かおうものなら悪臭で反撃してくる強敵であったが、とりあえず年内は休戦と見ていいらしい。 それにしても、このカメムシの大量発生は案外重要なことかもしれない。あの小さな虫たちが我が物顔で

1日ゲームできても、5分勉強できないとき

無駄な努力をし過ぎている。ゲームやSNSにおける努力がこれにあたる。別にプロゲーマーやインフルエンサーを生業にする予定はないのだが、なぜあれほどの熱意を持つことができるのか自分でも疑問に思うことがある。 一方で必要だとわかっているのにできないこともある。1日に数十分でもランニングをすれば健康や体型もよくなるはずだ。数分でも勉強すれば外国語が話せるようになるかもしれない。しかしこちらにはなぜか意識が向かず集中力も湧いてこないのである。 これほど不思議なことはない。自分で意味

いい文章とはどんなものか

名文を書きたい。これは腰を据えて文章を書いた経験のある人なら誰でも考えることである。「プロが教える文章術!」などといった本が書店に溢れていることはそれを証明しているが、新刊が出続けているのを見ると決定版はまだらしい。 そもそもどんなものが「よい文章」なのかということも明確ではない。起承転結や5W1Hが大切だとも言われるが、確かにこれは一理ある。長い時間をかけたであろう文章でも、構成が悪く何を言いたいのかがわからないというものもよく見かける。情報伝達という意味ではこれは重要と

AIを使ってローマ皇帝ネロを現代に呼び出してみた

人類に不可能はない。数年前まで夢物語だったようなこともいつの間にか当たり前になっていたりする。人工知能もそのひとつである。ほんの少しだけ工夫をすれば、SF映画に出てくるような雑談できるAIを作ることも可能である。 そこで今回は実際に会話できるAIを作り、そこにローマ皇帝ネロの設定を組み込んでみた。これで擬似的に偉大な第五代皇帝に謁見することができるだろう。 使用したプログラム 専門的な知識のない方もいるかと思うので、今回はプログラムについては簡単に触れるにとどめる。これは

AIと文章力を競ってみた

人工知能の発展はめざましいもので、現在では人間のものと見分けのつかないような文章を作成するものまで登場しました。公開されている言語モデルを借用すれば個人でもこのようなAIを使うことが可能です。 今回は専門的な話題よりも実際に出来上がった文章に注目していただきたいので、プログラムのリンクのみを掲載しておきます。こちらからColabのページを閲覧できます。 元になる文章について私は以前エンタメと芸術の関係について文章を書いたことがあります。今読み返すと色々と不足はありますが、

眠れないときに読む本たち

いつまで経っても寝付けないという経験は誰にでもあるものだと思うが、眠気を待つまでの間にちょうどいいのは読書である。テレビなどのように余計な神経を刺激する心配もなければ、酒のように健康を害する恐れもない。 ところで、私は眠くならない理由は大きくふたつに分けられる。ひとつは何かを考えてばかりいるときであり、もうひとつは1日を終えるにはどこか物足りないと感じるときである。 考え事が終わらない日のお供は堺屋太一の『豊臣秀長』と決めている。これは豊臣秀吉の弟であった秀長を題材とした

あのトンボは早すぎた

6月のはじめ、そろそろ梅雨入りするかどうかという時に、道でトンボが死んでいるのを見つけた。まだトンボを見かけるような季節ではないし、セミもまだ鳴いていない。成虫になる時期を間違えているような気もする。 ひと目でトンボだとわかるくらい綺麗に形を保ったまま息たえているところを見ると、体の調子もどこか不完全だったのかも知れない。年中働き者のアリ達は既にこの不幸な亡骸を片付け始めていた。 生物学に従うならば突然変異が何らかの変化を促し、このような季節外れの事故を生み出したのだろう

人類最古の流行語大賞

その時代が実際にどんなものだったか、ということを正確に読み取ることは困難です。自分の過去ですら案外思い違いが起きるのですから、ましてや時代全体の把握など難しくて当然だと言えるでしょう。 一方で流行りというものはその時の雰囲気や状況を反映しているという点で一つの指針になります。問題があるとすれば、それが「流行」である以上は定着しにくく、記録しなければ消え去ってしまう危険性があることかもしれません。 時代を表す流行語日本でよく話題になる「流行語大賞」はこの点において貴重な資料

月曜日は土曜日に始まる

題名のこの言葉はキリル語圏の慣用句です。同名のSF小説から取られたもので「日曜日がないほど忙しい」というような意味です。忙しいことの表現はどの言語にもありますが、楽しい週末を取り除いてしまうという発想が面白い一節です。 外国語を学ぶ一番の楽しみは、より多くの人と会話を楽しめるということでしょう。しかし違う考え方に触れるということも大きな魅力の一つです。外国語にはその土地や文化が育んだ独特の概念がしっかりと存在しています。 たくさんの翻訳も手がけていた森鴎外は次のように述べ

20代の読書論 - 「自己投資」か「幸福」か

この文章は一種の「読書論」と言えるかもしれません。すでに読書についての記事や本は多くあります。ショウペンハウアーの『読書について』や、最近だと読書猿さんの『独学大全』が有名ですね。(余談ですが、このふたつは対照的な態度が見られると思います。) 上に述べたように偉大な先人の著作があるのは重々承知ですし、それらの恩恵もかなり受けているのですが、今回自分なりに考えをまとめておきたいと思います。読者の方々の考える素材にしていただければ幸いです。 読書の定義ここで一度「読書」の定義