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冷たい野生

秋になっても暑いままだと油断していたら、そんな人間を嘲笑うかのように急に寒くなってしまった。いつもなら冬の訪れは嫌いではないのが、あまりにも緩急が激しすぎて面食らってしまう。

この寒気で今年各地で大量発生していたカメムシが姿を消してしまった。一般的な殺虫剤も効かず、だからといって力ずくで立ち向かおうものなら悪臭で反撃してくる強敵であったが、とりあえず年内は休戦と見ていいらしい。

それにしても、このカメムシの大量発生は案外重要なことかもしれない。あの小さな虫たちが我が物顔で群れているのに、結局明確な対抗策を打ち出すことができないまま終わってしまった。解決したのは人間ではなく自然の方である。

科学技術のおかげで何となく自然を征服できた気になっていても、どうにもならないことは未だ多いらしい。カメムシくらいなら迷惑くらいで済む。しかし場合によってはもっと危険が増える可能性もあるだろう。

最近だと熊が人を襲う事件が増えている印象がある。こちらは虫と違って駆除するのは簡単ではない。人間を襲撃しなくてはならない状況は熊にとっても健全な状態ではないのかもしれない。原因は異常気象による食糧の減少などがいわれているが、いずれにせよ事前の予測や対策が取れなかったのは私たち人間の失策だろう。

「環境保全」「地球を守る」と普段から心がけていると、つい自然は弱く脆いものだと考えてしまう。それももちろん事実なのだが、こうした荒々しさや傍若無人さを見せる時もあるのを忘れてはならない。

今よりもっと自然に振り回されていた古代の人々は、多くの文明において自然を擬人化してきた。神様として崇められることもあれば、魔物や妖怪のように恐れられたこともあった。

もうこの段階まで立ち戻る素直さは現代人には残っていない。しかし自然の持つ弱さと強さの二面性に対する考え方のヒントとしては役立つだろう。つまり人間関係と同じく、労わりつつも緊張感を持っていく必要があるということである。

冬になれば多くの動物や植物は徐々に活動を控え、忙しくしているのは人間だけになっていく。この独りの期間にこそ、自然との関わりを考え直すいい機会が与えられているのかもしれない。



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