見出し画像

デザインは、センスが大事?


今日は、広告のクリエイティブ ディレクターとして
長く働いている僕の視点から、デザインにとって
何が大切なのか、という考えを書いてみます。


1 手になるな。

広告クリエイターに入門すると、先輩からよく聞かされる
ことがあります。

手になるな。

その意味は、手を動かして作業をすることだけを
目的化するな、ということです。

もう少し詳しく話します

広告制作の仕事は、広告のアイディアを考える
ことが出発点になります。アイディア開発は楽しいと思われがちですが
仕事として取り組むと、それはそれで、辛いものがあります。

なにしろ、アイディアは、ゼロか採用の2択です。
努力賞もなければ、過程を評価されることは、一切ありません。

それに比べて、作業工程では、それなりの時間をかければ
必ず前に進みます。とりわけ、リサイズやデータづくりは、
目に見えて作業が進み、充実感もあるでしょう。

では、アイディアを考えることをやめ、
作業だけに特化して仕事をする、と決めたとしたら、
どうなるでしょうか。

もちろん、人には向き不向きがありますので一概には
言えませんが、最初は「効率的」に思えても、同じような
作業が続くことで、「退屈」に思う人は少なくないと思います。

新しいものを作る、クリエイターという仕事をしているのに
昨日と同じような作業しか待っていない、という状況は
それはそれで、楽しくないのでは、ないでしょうか。

そして困ったことに、作業をする道を選んでしまうと
なかなかアイディアを考える道には戻りにくい、という
ことがあるのです。

アイディアの道は苦労が多いですが、最初は歯を食いしばって
がんばったほうがいい、というのは
僕も多くのデザイナーさんを見ていて同じことを思います。


2 センスで勝負するな。

同じように、先輩がよく口にするのが
「センスで勝負するな」ということです。

まだコンピュータがなかった時代(読者の皆さんは信じられない方が多いかも
しれませんが)は、アイディアのラフ(ビジュアルなどのアイディア)を
手書きでつくっていました。

サムネイル、などとも呼ばれ、サム=親指というくらいですから
ほんとに小さなスケッチのようなものを持ち寄り、
アイディア会議をしていたわけです。

絵の上手下手はありますが、どんなアイディアか
伝わればいいのですから、詳しく書き込む必要もありません。
ラフスケッチを書く時間より考える時間をたくさんとることで
面白いアイディアを考えることに集中していたわけです。

そのうち、Macが広まりはじめると、今のように
イラストレーター やフォトショップでラフスケッチを
つくることが普通になりました。

それはかつてのサムネイルどころか、
A4やA3サイズの立派なラフスケッチです。

すると何が起こったと思いますか?

絵に騙されることが増えたのです。

クリエイティブディレクターは、プロですから
仕上げが上手なラフスケッチであったとしても
アイディアが平凡であれば、ボツにします。

しかしクリエイティブのプロではない、クライアントが
この完成度の高いビジュアルを見ると、気に入ってしまうのです。
アイディアとしては平凡でも、ラフスケッチがいいことで
その平凡なアイディアに決まってしまうのですね。

もっと困るのは、この後です。

デザイナーがデスクトップでつくったビジュアルは
仮のものですから、撮影したりイラストを描いてもらったりして
実際の原稿を制作する必要があります。
ところが、なまじラフスケッチの完成度がよすぎると
現実がそれを超えられない、と言うことが起こるのです。

撮影では、不思議なことが起こります。

本来の撮影とは、カメラマンが被写体やテーマをもとに
どんなアングルで、どんな光で表現するのかを考える場のはずが
「ラフスケッチにどうしたら似せられるか」を悩む場所に
なってしまうのです。

その結果できあがった作品は、ラフスケッチには似ていても
表現としてはパワーのないものになります。仕事としては
「納品」が完了するのですが、せっかくのプロジェクトが
平凡なものに終わってしまう、ことになります。

「センスで勝負するな」という先輩のアドバイスは、
見た目でごまかすな、ということに通じます。

本質的なアイディアをオリジナルで考えることが
最終的には完成度が高く、人の気持ちを動かす表現に
つながる、ということだと思います。


デザインの話は、まだまだ書き足らないことも
多いので、機会をみつけてまた書いてみたいと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?