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小説「ルーズ・ルーズ」

バスケの試合ではどちらかが負けるまでゲームが終わらない。陸上レースでは金メダルをもらえるのはひとりだけ。弓を引くときは中った人間だけが勝ち上がる。剣道は相手を打ちのめした方が勝つ。とても分かりやすい。勝ち負けというお話。歴史は勝ち負けの結晶で、勝った人間と負けた人間の成分が複雑に化合して現れる。私はそんなような地盤の上に生きていた。わかりやすいのだから、誰もが、否定したくなる、いっそ目を背けたくなるような、事実、真実。社会人一年生のとき、いろんなセミナーで「ウィン・ウィンの関係」というものを刷り込まれたんだが、そのうち分かった。そんなものはあり得ない。いや、ちゃんとわかっていたはずだ、私は小学生だったのだから。人生の8割の事は小学校で学ぶ。残りの2割は、つまり付録だ。特に意味はない。彼女と私たちに勝者は居ないと理解する過程は、抵抗なく行われた。彼女は死んだ。だから間違いなく敗者だ。私たちは何のおとがめなく生きているけど、いじめをした子供、いじめをした家の家族というものは、一生ついて回る。墨汁の染みたカッターシャツをずっと着ていなくてはならないこと。いじめは始めた時点で負けなんだ。と言うことを、幼い子達に伝えて歩きたいと思うけど、出来ない。いじめっこの話なんて誰も聞きやしない。私は、敗者なのだ。

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