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扇風機とストーブ

春の終わり
扇風機を出してストーブを仕舞う
また夏か
秋の終わり
扇風機を仕舞ってストーブを出す
またすぐ夏が来る

気がつくと
いつも季節は過ぎている
人間は繰り返しの動物だ
たまには
冬まで待ってもいいだろう

イングランドの草むした丘陵で
環になった巨大な石の列が
立ちつくしていた
数えきれないほどの夏至と冬至を
蓄積しているのか
その石柱の中に

墳丘の広場では
首飾りをした兵士の埴輪が
馬をひいて退場し
泣きはらしたような眼をして
鎧をまとった兵士や
合掌をした土偶たちが
立ち上がって踊り始める

影は
冬が来る前に
新しい光の通路を準備せよ
夕焼けは
夏が来る前に
約束をひとつ置いて行け

ストーブを点検する
フィルターに詰まった埃を取り除く
扇風機を段ボール箱から取り出して
組み立てる
夏が来る
追憶は忘却よりも素早く
記憶を更新せよ

 (詩集『フンボルトペンギンの決意』第2章「風と光」より)


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