「イレーヌと漂いつつ」(7)
私が起きたときにはお母さんはもう仕事に出かけていた。「取材で遅くなります。私の分の晩ご飯は必要ありません」という書き置きが机の上にあった。スマホ全盛時代の中で書き置きなんて古典的だったが、お母さんの字は溌剌としていた。部活動で休日もいろんな土地を飛び回る学生を思い起こさせた。それって本来は私の姿じゃないか。私は何をしている? 学生である私は10時まで惰眠をむさぼって、今学生の模倣である母親の書き置きを見ている。お母さんは退化してしまったのか。お母さんが本当になりたい自分って