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建築防災コンサルタント よもやま話vol.7-避難安全検証法、メリットとデメリットについて②-

さて、今回は検証法のデメリットについて書いてみたいと思います。ぜひ前回の「vol.6-避難安全検証法、メリットとデメリットについて①-」と併せてお読みください。

おさらいすると、vol.6では検証法のメリットとして
1.イニシャルコスト、ランニングコストが下がる
2.デザインの自由度が上がる
3.使える空間が増える
4.内装に木が使える
の4つをお話ししました。

少し話が逸れますが私の好きな作家、村上春樹さんの昔の小説に「良い面だけをみて、良いことだけを考えるようにすれば、何も怖くないよ。
悪いことが起きたら、その時点でまた考えればいいさ。」という名台詞がありますが、ビジネスの世界ではなかなかそうも言っていられません。
「コストが下がります!」という良い面だけでなく、悪い面も知っておいたうえで検証法を採用していくことがとても大事になります。

さて、検証法の主なデメリットは大きく以下の4つです。

1.防火設備が増える
2.プランに制約がでる
3.改修や増改築のたびに再計算が必要になる
4.検証法が難解…

1.防火設備が増える
検証法では、対象とする区画や階で火災による煙・ガスが避難上危険な高さに降りてくるまでに避難できるように設計します。
はじめに検討する「居室避難」では、その居室で発生した火災による煙・ガスが降りてくるまでに在室者が避難できることを設計するため、扉や窓などの開口部の防火性能は計算には影響しません。
一方で次に検討する「区画避難」「階避難」では、対象とする区画や階に含まれるすべての火災室で火災が発生したことを想定し、開口部から次々に伝搬していく煙・ガスが、最終出口がある室に到達して避難上危険な高さに降りてくるまでに避難できるように設計する必要があり、伝搬経路となる開口部を防火設備にして煙・ガスを留めてあげる必要があります。そのため検証法を採用する場合は通常のルートAの設計に比べて防火設備が増えます。
たとえば、検証法を採用したスーパーマーケットの売場とバックヤードの間は通常スイング扉が設置されますが、スイング扉は防火設備にならないため、被せるように常開の防火設備を設置する必要があります。

スイング扉に煙感知連動の防火設備を併設した例

2.プランに制約が出る
設計に検証法を取り入れる場合、ルートAのプランのままで計算が成立することはほぼありません。上記の防火設備のように建具や内装の仕様を変更したりするほか、なんらかのプラン上の工夫が必要になります。
おもなプラン上の制約は
・煙降下時間を遅らせるために天井高さを上げる
・歩行距離が短くなるように扉を追加する
・計算次第では階段を追加する
・避難階の直上直下階との間であっても、防火設備による区画が必要になる
などです。
4つめの直上直下階との区画は、たとえば2階をルートAとし1階にルートBを採用して排煙窓を適用除外する場合、2階と吹き抜けでつながっていると1階に排煙窓がないことで2階に上がる煙・ガスが増える可能性がありますが、1階のルートBでは1階の検討にとどまり、他の階への影響は考慮されないため区画が必要となります。

1階の検証法では2階への影響が検証できない

3.改修や増改築のたびに再計算が必要になる
建築基準法の第8条には建物の所有者等は建物を常時適法な状態に維持するように努めなければならない、ということが書かれています。
建物を改修したり増改築する、あるいはテナントビルでオフィスや店舗が入れ替わってプランを変更する場合も、その状態が適法であるようにする必要があります。
そのため、検証法を採用した建物はその都度再計算をおこなって工事を行う前に必要な対策を検討してプランに反映する必要があります。

変更のたびに再計算が必要となる…

4.検証法が難解…
検証法は建築設計者の誰もが比較的容易に取り入れられるように考えて作られた、と聞いたことがあります。しかし設計者の方からは「一度は挑戦してみたが、告示が難しくて時間がない中で自分で計算するのはとてもたいへんだった。」とよく伺います。特に検証に必要な「出口通過時間」と「煙降下時間」の計算は複雑で、プランが大きければ大きいほど計算も煩雑になります。

以上がおもな検証法のデメリットです。
3と4についてはなにかしらの知識・経験が必要で、現在ではやはり私たちのようなコンサルティングにお任せいただく方がよいのではないかと思います。


もう少し詳しい情報は、こちらをぜひご覧ください!
株式会社 イズミシステム設計 - 避難安全検証法とは


バックナンバーはこちらからどうぞ↓

https://note.com/izumi_system/m/m0ea09ddd1411


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