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第1回『なにせにせものハムレット伝』

 文豪シェイクスピアの悲劇をもとに、たあいもない戯曲をつくってみました。寛大なお気持ちでお読みいただき、楽しんでいただけたらと思います。(ブログで書いたものに手をいれ、「決定版」として完成させようと思います。)

今回登場する人物

  ホレーシオ・・・・・・・・・・・ハムレットの親友
  バーナード ・・・・・・・・・・・城の見張り担当の将校
  ハムレットの父の亡霊・・・・・・クマデン王国の先王
  衛兵A ・・・・・・・・・・・・・城の見張り番 
  衛兵B  ・・・・・・・・・・・・・城の見張り番
  森の妖精 ・・・・・・・・・・・・語り手

1幕1場
森の妖精(語り手): どこにでも、ありそうで、なさそうな、田舎の小国クマデン王国。周囲を山にかこまれ、自然と平和を愛するのどかな国。そう、つい最近までは・・・。
 さて、場面は、エルシナノ宮殿の城壁の上、時は真夜中。秋の夜の寒さにこごえながら、見張り役の2人の兵士が、たき火で暖をとっています。このところ、深夜に、あやしい物の怪もののけがでるといううわさが、ひろがっており、夜の見張り番をいやがる者がふえています。しかし、このお気楽な2人は、特別割り増しボーナスとひきかえに、連日連夜、寒さにこごえながら、ふところをあたためています。はて、さて、どんなことが起こりますやら。あとは、見てのおたのしみ!またねー(退場)。

衛兵B: 隊長、起きてくださいよ。隊長、仕事中に寝ないでください。それに、こんなに寒いところで居眠りしたら、お化けになっちゃいますよ。

衛兵A: お、どうかしたか。

衛兵B: 今、寝てましたね。

衛兵A: いや、寝てない。

衛兵B: ぜったい寝てましたよ、よだれたらしてるし。そのよだれ、もう少しで凍ってしまうところでしたからね。まったく、寒いったらありゃしない。超寒い!

衛兵A: うーん、「超」がつくほどかどうかは分からんが、たしかに寒いな。このところの経費削減により、まきの割りあても減ってしまった。たき火の炎にも元気がない。まるでロウソクのようで、ぜんぜん暖かくない。それに、もしこの炎が消えてしまったら、本当に真っ暗になってしまうだろう。おい、ところで、心なしか風がだんだん強くなってきたような気がしないか。やけにタイミングがいいな。いいや、悪い、最悪だ。おい、風だ、突風だ! 火が消えるぞ。なにかで風を防げ、防ぐんだ。なんでもいい。そうだ、おまえのその上着だ。上着を脱いで風よけにしろ。燃やしてもいいぞ。おい、早く脱げ。脱げたら、脱ぐんだ。

衛兵B: そんなこと言ったって、腕がひっかかって・・・。そう簡単には脱げませんよ。女の人から、「脱げ」なんて言われたら、そりゃーもー気合いも入るんですけどね。

(たき火の炎が消える)

衛兵A: おまえが下らんおしゃべりしているから、火が消えてしまった。フー、フー。だめだ、完全に消えてる。しょうがない、もう一回つけるとするか。何か火種になるものはないかな。そうだ、あそこのゴミ箱のなかから、なにか燃えそうなものをあさってこい。昨晩、食べた弁当の箱のなかに、割りばしかなにかあるだろ。

衛兵B: ゴミ箱あさりっすね、おっけー! 真っ暗のなかで、ゴミ箱に手を突っ込むっていうのも、かなりいけてますよね。なんつーか、こー、ぬるぬるするものもあるし。あ! エビフライのしっぽみっけ。身もちょっと残ってるし。大体、お弁当のエビフライなんて、衣が8割、エビが2割なんて場合も多いじゃないですか、でも、しっぽの部分には必ずエビが入ってるんだから、そこを食べ残すなんて、なんてもったいないことをするんでしょうね。おいし! ぷりぷりします。

衛兵A: おい、変なもの食って、腹こわしても知らんぞ。さっさと、燃えそうなものもってこい。

衛兵B: へーい。弁当箱もってきましたー。これは今日のお昼の分で、こっちは昨日の夕食の箱ですね。へへ、臭いで分かります。こっちは鳥の照り焼きでしょ・・・。

衛兵A: (さえぎるように)よし、と。まず、弁当箱をちぎって、丸めて、その上に割りばしをのっけて、準備完了だ! いいか、おれがマッチをすったら、そっと吹くんだぞ。やさしく。そーっとだ。人の耳元に息を吹きかけて、ゾクッ、とさせる時みたいに、そーと、だぞ。いいか、いち、にの、さん! さあ、吹け、吹くんだ!

(衛兵Aマッチを擦る。衛兵Bは衛兵Aの耳元に息を吹きかける。)

衛兵B: ふ~、はぁ~、どうですか。

衛兵A: おい、誰がおれの耳に息を吹きかろと言った!

衛兵B: いや、なんか、そうしろって、言われたような気がしたんですが。お笑いの基本ですし・・・。

衛兵A: ばかやろう、俺たちは軍人だ、芸人ではない! あれが最後のマッチだったんだぞ。まったくもう。真っ暗になってしまったじゃないか。だが、うーん、しかしだな、なぜだか分からんが、なんかこー、少し気持ちが、なんていうか・・・。ところで、おまえ、さっき、寒いと言ったな。おれが暖めてあげようではないか! おまえすでに上着も脱いでおるではないか。さあ、この胸に飛び込んでこい!

衛兵B: やめてくださいよ。仕事中にその気になったらどうするんですか。

衛兵A: 上官の私が言っているのだ。命令だ、さあ!

衛兵B: ああ、や、やめてください。

衛兵A: 冗談だよ。お前が先にふざけたんだからな、文句は言えんだろう!

衛兵B: なんだ、そっか・・・、ちょっと期待したんだけどな。

衛兵A: なに、なんだと!

衛兵B: いやまあ、なんていうか、なにかしていないと、ぜんぜん退屈だし・・・。そうですねぇ、じゃあ、気持ちだけでも明るくなるように、クイズでもしませんか。

衛兵A: ええ? また、めんどくさいことを言う。でも、時間もたっぷりあることだし、まあよしとするか。

衛兵B: それでは、じゃじゃーん、第一問です。テニスで、相手の選手が打った球を、ネット際でノーバウンドで打ち返すことを、なんていうでしょ~うか?スマッシュの方じゃないよ。

衛兵A: ふん、「ボレー」てんだろ。

衛兵B: だったら、もうちょっと難しいやつ。「働けー」というかけ声と反対の意味の言葉は?

衛兵A: うーん、「休めー」か?

衛兵B: 残念、「さぼれー」でした。

衛兵A: 問題にやや無理があるような気がするが。

衛兵B: じゃあ、最後の問題でーす。レトルトカレーの元祖といえば?

衛兵A: そりゃ「ボンカレー」だ。おまえ、亡霊って言葉のだじゃれのつもりだろうが、クオリティが低すぎだ。だいたい、「さぼれー」も「ボンカレー」も、「ボ」と「レ」しか合ってないじゃないか。もっとましな問題はないのか!

衛兵B: ちょっとは楽しい気分になれるかなって、思ったんですがね。それにしても、本当に、毎日、毎日、律儀な亡霊ですね。私なんて、もうすっかり慣れっこになってしまいました。それに、他の兵士たちが嫌がってくれるおかげで、割り増しボーナスまでもらえちゃったりしてますからね。このまま毎晩ずっと、適度に出続けてもらえると、ふところの方はかなり暖かくなりますね。

衛兵A: たしかに、亡霊さまさまだな。ありがたい話だ。

衛兵B: でも、それにしても、寒いですね。(ことさらに強く)バーナーでもあればな~。ドーと火がつくんだけどな。 (強く)バーナーがあれば最高でしょ。ねえ、ねえ、今のギャグ分かりました?バーナードっすよ、バーナード!あの人たちも、そろそろ来る頃ですね。

衛兵A: どうしておまえは、だじゃれなしで話すことができないんだ。そういえば、もう、夜中過ぎだな。(コツ、コツ、コツという靴音が、だんだん近づいてくる。)あ、足音がする。だれかきたぞ。

(ホレーシオとバーナード登場。)

衛兵A: おい、誰だ、名を名乗れ。

バーナード: バーナードだ。

衛兵B: え、なんですって。よく聞こえませんでした。もう一度、お名前を、はっきりとおっしゃっていただけませんか。

バーナード: バー、ナー、ドだ。 ホレーシオも一緒だ。お前こそ誰だ。

衛兵B: えへ、えーへーでーす。バーナード将校様。今、ちょうど、あなた様のお話をしていたところであります。なにを話していたかは秘密ですがね。

バーナード: どの程度の話しをていたかは、だいたいの想像はつくがな。それはともあれ、ホレーシオよ、ここが現場なのだ。

ホレーシオ: 真夜中を過ぎると、このあたりは本当に暗いですね。月でも出ていれば、いいのですが。

衛兵B: 真っ暗で、自分の足も見えないほどですよね。

ホレーシオ: 私が読んだ書物によると、東洋のお化けには足がないそうです。もちろん、信じてなどいませんがね。もしかすると、あなたは近視という病かもしれません。一度、医者に診てもらうといいでしょう。

衛兵B: (小声で)本気にされても困るんだけどな。インテリという連中は冗談を知らない。

衛兵A: (小声で)おまえの言うことがくだらなすぎるからだ。しかも、今のは高度なギャグかもしれない。おれには分からん。

ホレーシオ: それは、さておき、亡霊などという非科学的なものが、この世に本当に存在するのでしょうか。この目で確かめない限りは、とても信じることはできません。

(衛兵Bの背後に、亡霊がひっそりと登場する。まだ、誰も気づかない。)

バーナード: ホレーシオはぜんぜん信じてくれないんだ。うーん、それはそうと、見張り番の君、少しばかり身長が伸びたように見えるんだけど。なんというか、こう、ちょっと大きくなったような気がするんだけど。

衛兵B: へへ、まあね。おれも、なかなか大きな男だから。うつわの大きさとでも考えてくれたまえ。なーんてね。

衛兵A: いや、まて、ちょっとまて、でた、でたぞ。お月様じゃないぞ。亡霊だ!(衛兵Bに向かって)お前の後だ!真後ろだ! 振り返ってみろ!

衛兵B: うそー、いやだよ。なんで、よりによって、そんなところにでるの。怖いよー、振り向けない。動けない。ちびりそう。どうしよう。おかあさーん。

ホレーシオ: (冷静に)うーん、まさに、亡くなった王様の生き写しですね、いや亡霊ですから、死に写しとでも言った方が正確かもしれませんね。

衛兵B: どうでも良いから、なんとかしてよ~。背中が凍えそうだよ。

衛兵A: まあ、落ちつけ。そうさわぐな。危害を加えそうな様子は、いまのところはない。大丈夫だ、多分。ホレーシオに話しかけてもらうから、そのままじっとしていろ。いいか、動くなよ。

衛兵B: まじっすか。それに、いま「多分」って言ったでしょ。「多分」じゃ困るんですけど。

バーナード: (ホレーシオに向かって)亡霊はラテン語しか話さないといわれている。そこで大学出のインテリ、ホレーシオよ、わざわざ君に来てもらったのは、君なら、あの亡霊と話すことができるのではないかと思ったからなのだ。

ホレーシオ: わかりました。試してみましょう。(欧米人が日本語をしゃべるときのような口調で)ちょっと、そこの亡霊様、なにか、言ってみーてくださ~い。黙ってーいたのではな~んにも分からないではあ~りませんか。な~んどもでてくるのですから~、なにか、大~切な理由があるのではないでしょうか。このようにお会いすることができた、せっかくの機会ですので、ぜ~ひお話いただけると~ありがたいと~ぞんじます。ハーイ。

衛兵B: (傍白)うん、さすがは、インテリ。違いますね!なぜか俺にも理解できる、分かりやすいラテン語だ。これがラテンのリズムっていうものなのかな。(亡霊に向かって)あのー、それはさておき、亡霊様、恐れ入りますが、ちょっとだけ、私から離れてもらえると、ありがたいのですが。ほんのちょっとだけで良いんですけどね。

(亡霊、険しい表情で足早に退場。)

ホレーシオ: あなたの言葉に、ひどく気分を害したようです。怒りの表情をうかべ、荒々しい足どりで向こうの方に行ってしまいました。

衛兵B: (急に強気になって)くそー。脅かしやがって。ばか、ばか、ばーか、石ぶっつけてやる。 あれ、消えちゃった。

衛兵A: 亡くなったとは言え、王様の姿をしたものに向かって、石を投げるとは許し難い行為だ、化けて出るかもしれんぞ。

ホレーシオ: そうですね。しかしながら、亡霊というのはすでに死んだ存在です。ですから、「化けて出る」という表現には、やや論理的な矛盾があるかもしれませんね。冗談はさておき、あの亡霊は、このクマデン王国に大きな危機が迫っていることを、伝えようとしているのではないでしょうか。亡くなった先王が、この国の先行きをうれえて、黄泉よみの国からわざわざ、もどってきてくださったのかもしれません。ですから、一刻も早く、このことをハムレット様にお伝えしなくてはいけません。さあ、皆で参りましょう。

衛兵B: え、皆で行くの。おれも行っていいの。行く、行く、行きまーす。やったー。王子様に会えるぞー。

(一同退場)

森の妖精(語り手): 最後まで読んでくださって、どうもありがとー。まだ始まったばかりですが、次回は、いよいよ、我らがヒーロー、ハムレットさまの登場です。ぜひ読んでくださいね。また、お会いしましょう。



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