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EP039. 誰よりも努力してきたんだから大丈夫だ!
「今日が最後か。もう少しで終わってしまうんだな…。」
学生生活最後の大会。
この試合を最後に引退する。
頑張ってきた自分を表現する最後のチャンスだ。
これが最後かと思うと、ただならぬ緊張が襲ってくる。
正直言って怖い。
何度も経験していた舞台だというのに、不安に押し潰されそうだ。
恐怖が心を支配する。
最後を意識すればするほどカラダが強ばってくる。
「今まで頑張ってきたんだ。誰にも負けない努力をしてきたんだ。不安なんて感じる必要はないんだ。」
自分に言い聞かせる。
勝てる自信はある。
でも、そんな自信とは裏腹に、どんどん体に力が入って動きづらくなってくる。
この自信は本物なんだろうかと自分を疑ってしまう。
「力を抜け。力を抜け。力を抜け。力を抜け。」
自分に気合いを入れる。
昔から不器用な俺は要領が悪くて、必要なスキルをなかなか自分のものにできなかった。
周りは監督の話を聞いて軽くカラダを動かすだけですぐにコツを掴む。それに引き換え俺はというと、話を聞くだけではいつもピンとこなくて何歩も後れを取ってしまっていた。
俺は人と同じことをしていても上手くいかない。
自分でもよく分かっていた。
だから毎日、人よりも多く練習することを心がけていた。
人より何倍も何倍もカラダを動かして最適な動きを刷り込んでいく。
何も考えずに動かせることはもちろん、考えよりも幾手も先の動きを無意識にできるようになるまで繰り返す。一つ一つの動作が思考とは別次元のものになるまで刷り込んでいく。
だが、努力している姿を見られたくはなかった。
自分が人より劣っていることを認めてしまうようで、俺が不器用なことを周囲が知っていると分かっていてもプライドが許さなかった。
だから朝一番に出かけて誰もいない早朝に一人で朝練をして、大学に人が来る頃には素知らぬ顔をして講堂へと入っていた。
今日がそんな努力を実らせる最後のチャンスなのだ。
次は俺の番だ。
もう後がない。
最後を意識するとまた緊張が襲ってくる。
全身を動かしながら緊張をほぐそうとするが上手くいかない。
最後というのは、そこまで心理的影響を与えるようだ。
心を落ち着かせようと目を閉じる。こういうときは瞑想だ。
誰かの手が背中に触れた。
「お前は…、誰よりも努力してきたんだから大丈夫だ!」
監督が背中をはたきながら気合いを入れてくれる。
出場前の儀式のようなものだ。
「人一倍努力してきたお前が結果を出せない訳がない。分かってるはずだ。お前に足りないのは、自分を信じること。今までの成果をただ発揮するだけで良い。やってきたことをそのままやれば良い。お前の実力には何の不安もない。絶対勝てる。絶対うまくいく。お前なら絶対できる。忘れるな。お前は絶対勝てるんだ!」
すーっと力が抜けていく。
いくら自分で気合いを入れようとしても、カラダは強ばるばかりだったのに、絶対的に信頼している監督の言葉は圧倒的な力を持っている。
「ずっとお前を見てきた。お前ならやれる。自分を信じろ!お前はやれる!」
監督が言うんだから間違いない。
俺は勝てるんだ。
「俺は勝てる!絶対勝てる!絶対勝てる!絶対勝てる!」
心の中で何度も繰り返す。
「毎日毎日、あれだけ頑張ってきたんだ。負けるはずがない。」
審判の笛が鳴る。
入場の合図だ。
「さぁ、行ってこい!勝てる試合だ!精一杯楽しんで来い!」
背中に当てた監督の手が俺を押す。
「お前らみんな見てろ。俺の実力を見せてやる!」
一歩踏み出す。
歓声が会場を埋め尽くす。
絶対勝てる。
俺は絶対勝つ!
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