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短編小説「愛こそはすべて」

All You Need

「おじいちゃんやおばあちゃんに戦争の話を聞いてきてくだい」
小学生だったぼくに出された宿題でした。


殺風景な和室、盆栽だって掛け軸だって置かれていないのに、なぜかアコースティックギターだけがありました。むしろそれしか置かれていないのに賑やかな部屋でした。その賑やかの大半の正体は陽気なじいちゃんであった。
ただ、ぼくの一言で部屋が急に重くなったように暗くズシっと重力が掛かったよように感じました。
「こんな宿題出たんじゃけど、話聞かせてくれん?」

普段、じいちゃんは陽気で酒を僕に飲まそうとしてくるし、冗談で車に乗って轢こうとだってしてくる。常に笑顔でいるあのじいちゃんの顔が一瞬で険しくなった。
「すまんな、戦争の話はしたくない。陽気なじいちゃんのままでいたい。戦争の話は本やインターネットちゅうもんで見て知って欲しい」

ぼくはびっくりした。なんでも教えてくれるじいちゃんだったから今日も色々笑いながら教えてくれるもんだと思っていた。すごく怖くなった。

じいちゃんはポケットから何か取り出し僕の手を取り包むように渡してくれた。
ぼくは恐る恐る、手を開くと、
「その100円で友達にお菓子を買ってあげなさい。その愛と優しさが連鎖すれば戦争なんてなくなるから。少しの愛と優しさがあればいいから。」
泣きそうなのか笑ってるのか分からない感情でしわくちゃになっていた。
その顔を見たぼくは子供ながらにじいちゃんの深い闇を感じてしまった。

その夜、宿題をまとめてると、じいちゃんがギターを持って部屋へ入ってきた。
「一緒に歌おう」
その一言だけを残しギターを弾き始めた。
部屋に置いてあったギターでじいちゃんは良く歌を歌っていた。

じいちゃんがギターの弦を弾くと、

アメリカの国家のようなメロディが流れた。
そう思ってたら、じいちゃんが♪ラーラーと歌い出した。よく聞いてみるとラーではなく小さくブも聞こえる。

英語の歌詞ばかりで意味が分からないけど所々聴こえるラブだけはわかる。
じいちゃんの声は美しいわけではないけどすごく優しく力がこもっていた。
何回かじいちゃんは歌い続けた。こっちもたくさん聴いていると覚えてきた。
ラーブラーブラーブ✖️3は一緒に歌えるようになった。
あと、オールニードイズラブを3回歌うとこもぼくは覚えました。
歌い終わったじいちゃんは泣いていました。なんで泣いているのかはぼくはわかりませんでした。

宿題には「ラーブラーブラーブオールニードイズラブ」とだけ書きました。みんなの前でぼくは怒られました。
あとで事情を話したら、先生は少し涙ぐんで頭をヨシヨシとしてくれました。
なぜ涙ぐんでいたのか、よしよしとされたのかぼくはわかりませんでした。
ぼくにはまだ分からない事だらけみたいです。
でも分からないなりに分かったことは戦争をしたら泣く人がいるという事と愛と優しさが必要なんだってことです。

is Love



じいちゃんがあの時歌ってた曲はビートルズだと知り、それなりに生きてきた。
あのじいちゃんの涙から20年以上経ち、僕達の国は戦争をせずに生きている。平和ボケ真っ只中。


そんな中、北の国が戦争を始めたらしい。
自国への愛、敵国への憎悪、愛と平和、愚痴とヘイト、国が違うからといって敵はではない素敵な心を汚さずどうか、どうか、
拳銃を向けた手を下げて、
悪口をつぶやこうとしたその親指を止めて、
自分の大切な人を思い出して、
どうか少しの優しさを思い出して、
どうか愛を忘れないで。


僕はあの時のじいちゃんの教えを守り、ポケットに100円と少しばかりの小銭が入ってる時は道端で会う少年少女にジュースを奢ってあげてる。不審者と間違われて通報された事はあったけど。

どうか愛と優しさを心に隅の隅でもいいので持って欲しい。
「All You Need is Love」愛こそは全て。





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