レストランのパティシエ
レストランパティシエは料理人やお菓子屋に比べ注目を浴びる機会はそれほど多くありません。
ただ、優れたレストランには必ず腕のよいパティシエがいることは紛れもない事実です。
これまでの経験から確信しています。
町場のレストランでは、専属のパティシエを雇うことなどほぼなく、キュイジニエ(料理人)が兼任します。ゆえに専属パティシエがいることはグランメゾン(高級フレンチ)の強みといえ、キュイジニエでは到底及ばないプロフェッショナルな技術と知識を全力で菓子に込めなくてはならないのです。
レストランのレベルが高くなるほど料理、デザート、サービスなど、クオリティの高さが求められます。いかなるゲストの要求にも応えなくてはならない。
私たちは、お菓子屋レベルのプティフルール(お茶菓子)やアントルメ(ホールケーキ)、自在な表現のデザートを提供する必要があります。
専属パティシエの存在はレストランにおいて不可欠なのです。
ゲストはレストランへデザート目当てでなくコース料理全体やワイン、さらに店の雰囲気やロケーションを楽しみに来店されます。お菓子屋やデザート専門店とは違うのです。
デザートはフルコースの締めくくり。満腹に近いゲストに対し、味わいのバランス、ボリュームへの配慮が特に必要です。
日本では出されたものは残さず食べる文化があります。満腹のお腹に追い討ちをかけるように食べ物を押し込むことほど辛いものはありません。
最後の一皿を提供するパティシエの役割は、コース料理全体においていかに重要かがお分かりいただけると思います。
かく言う私も、主張が過ぎるとボリュームが出てしまい、牛ヒレのあとはちょっと、、、そんなデザートをプレゼンしてしまうこともあります。その度にグランシェフ(総料理長)にお灸を据えられるのですが。
味わいの配慮、素材の組み合わせを考えてみましょう。
例えばチョコレート。パティシエが愛してやまない食材です。これをムースやガトーショコラにするだけではやや物足りない、かつメイン料理の後では濃厚で食べる手も止まるでしょう。
ここで使うテクニックは酸味の要素を加えること。特にフルーツの酸がおすすめ。ベリー類、柑橘類、パッションなど、チョコレートと好相性です。
このデザート、チョコレートのスフレ、マスカルポーネのムース、チョコレートのソルベがメインのパーツです。とても濃厚そうですが、グラスの底を見てください。ポイントとなるフルーツの要素です。
これはパッションフルーツと苦オレンジをキャラメルで炊いたソースです。単体で食べても美味しくありません。強烈に酸っぱく苦味の効いたソースです。
パッションフルーツの酸味にくわえ、キャラメルとオレンジの苦味もあわせました。癖のあるソースをほんの少量グラスの底にアクセントとしてあしらうのです。食べ進めるうち、チョコレートがソースにあたると味わいが変化し、瞬時にたいらげている、そんなデザートです。
チョコレートと出会うことでこのソースは化けます。このふたつがあわさったときの口いっぱいに広がる香りや味わいがたまらなく大好きです。
”ご飯ですよ!”と言う海苔の佃煮が一番輝くのはほかほかご飯に少量のせ口へ運び、咀嚼した瞬間。磯の香りや調味料のコク、ご飯がどんどん進むはずです。
ご飯があって初めて”ご飯ですよ!”が引き立つのです。
これが味わいのバランス。
デセールは甘味が必ず軸になります。ただ甘いだけだと食べ進めるうちに飽きがきます。組み合わせや技法を工夫しましょう。そしてここで紹介した甘味以外の味覚を取り入れましょう。酸っぱい、苦い、辛い、しょっぱい、渋い、など。
これらの要素を慎重に吟味し一つのデザートができあがっています。
そしてドレッサージュ(盛り付け)のテクニックとセンス。メイン料理の後でも心が躍りかつ食欲をさらに奮い立たせるような美しいプレゼンテーションセンスを。
大切なことは、必ずゲストの目線に立つ、デザート単体を食べるのではなく料理と共存している
レストランパティシエは忘れてはいけません。
ありがとうございました。
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