先生の仰せの通り〜ep.14〜
「素敵なホテルですね。」
「凄いよな。」
「うん。豪華です。」
駐車場に車を停めて、ホテルの中へ。
「どこ行くの?」
「え?フロントじゃないんですか?」
「直接部屋に行って大丈夫だから。」
「そうなんですか?」
「うん。ほら、行くぞ。」
「はい…。」
先生がエレベーターのボタンを押した。
「あの。私は階段で…。」
「は?何言ってんの?最上階だぞ。」
「へ?」
<最上階まで階段は無理だよね?>
一気に体が硬直する。エレベーターは苦手。でも、先生に言えない。
「どうした?大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。」
《大丈夫じゃなさげだけど?閉所恐怖症とか?》
「顔色が悪いぞ。」
呼吸を整えているうちにエレベーターが到着した。深呼吸をして恐る恐る中へ入った。先生が最上階のボタンを押す。
「はぁ、はぁ、はぁ〜。」
「どうした?」
だめ。息が出来ない。
「うわっ。大丈夫か?おい。」
チョコは、呼吸を荒くし、意識を失くして倒れた。
目が覚めるとベッドの上だった。嗚呼、私、意識を失くしたんだ。
<あれ?先生は?>
「先生?」
「ここに居る。」
すぐ近くのソファに座っている先生が見えた。
「大丈夫か?」
「はい。すみません。」
「もしかして、閉所恐怖症とか?」
「はい。小さき頃のトラウマです。」
「そうなんだ。」
「小さい頃、隠れんぼをしてて、私捨てられてた冷蔵庫の中に隠れたんです。昔の冷蔵庫って中から開かないって知ってますか?」
「あ〜なんか聞いたことある。」
「それを知らなくて、泣いても叫んでも見つけてもらえなくて。」
「ひどい鬼だな。」
「鬼だった子は、私にかくれんぼしようって言って、私が隠れたのを見届けて、その場から居なくなったんです。」
「は?マジで?」
「その日、鬼だった子は引っ越して行く日で、私にサヨナラを言いたくなくて。私が泣くことがわかっていたから。鬼の優しさだったのに、私が隠れた場所が悪かったんです。」
《マジかよ。こいつの名前なんだっけ?》俺の心がざわついた。
「んで。誰が見つけてくれたの?」
「ごみ収集車のおじさんが中を確認したら、私が寝ていたらしくて、直ぐに警察に届けられて…。数時間しか入っていなかったのに、それからは狭い所や暗い所が苦手になってしまって。」
「そか。それから鬼とは?」
「会えないままです。今、どこで何をしているのかもわかりません。イケメンだったから、きっと今もイケメンなんだろうなぁとか考えちゃいます(笑)。」
「そいつの名前をSNSとかで検索してみたら?」
「名前…あだ名しか覚えてなくて。おーちゃんって呼んでたんですが。それだけじゃ探せません。」
《嘘だろ?》さっきまでのざわつきが確信に変わった。
「そっか…。」
「というわけで、私は部屋で待ってます。」
《俺が、お前のトラウマを作った張本人。なんて言ったら、どんな顔する?俺のこと嫌いになるかもしれないな》
「手、貸してみ。」
「ん?手ですか?」
「手を握っててやる。絶対に離すな。苦しくなったら、しっかり握りしめろ。俺が傍にいる。」
涙が溢れた。だって、おーちゃんからいつも言われていた言葉だったから。先生とオーちゃんを一緒にしちゃいけないことわかってるけど。重ねてしまった。
「先生。ありがとうございます。」
「よし!じゃ〜ドレスを買いに行こう!」
「はい。」
私は支度をして、先生の手を握り、再びエレベーターの前に立った…ぎゅっと先生の手を握り…深呼吸した。
《だめか?呼吸が荒くなってきたな…。》
急に抱きしめられた。
「大丈夫…俺がついてる…。」
先生の腕の中で頷くのが精一杯だった。なんとか意識を保ったまま目的の階まで行けた。
店員「いらっしゃいませ。」
直ぐにVIPルームへ案内されソファに腰掛けた。ドレスは既に準備されていた。
「俺が呼ぶまで誰も入れないで。」
店員「かしこまりました。」
スタッフの人は出て行った。
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