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大学卒業時には英語しかできなかった純日本人が、マルチリンガルの外資系コンサルとして、外務省に英語のアドバイスをするようになる話(第5回)

アサーティブコミュニケーション」が大事だと、日本のPRファームで働いていた時、研修で聞きました。アサーティブ(assertive)は辞書で引くと、断定的な、言い張る、などですが、もっとニュアンスとしてはいい意味で、「相手を尊敬し信頼しているからこそ、はっきりと主張や感情を伝える」との説明でした。なるほど。

パレスチナのガンジー:ムバラク・アウォド先生

米大学院で、非暴力について学びました。平和を維持したり、創り出したり、紛争を予防したり、緩和させたり、解決したりするためには、相手がいかに力(特に物理的な力、軍事力や警察力)が強くても、相手が間違っていることに対して抵抗するときに使う力(非暴力)に関する考え方です。暴力も非暴力も「力」ときに「権力」で、相手をこちらの望むように動かす力であることには変わりありません。有名な非暴力を使ったリーダーといえば、やはり英国に抗ったガンジーと、人種差別に抗ったマーティン・ルーサー・キング・ジュニアですね。非暴力だけど不服従。

米大学院にいるころは、ムバラク・アウォド先生から非暴力について学びました。「パレスチナのガンジー」とも呼ばれているパレスチナ人の研究者でもあり、非暴力の実践者やNGOの創設者です。彼のNGOでしばらく働かせてもらいました。

中東のパレスチナを支配しようとするイスラエルの武力に対して、暴力ではなく非暴力を使うことをムバラク・アウォド先生が説いて回ったことが、第1次インティファーダという非暴力の大衆運動に発展して、1993 年のイスラエルとパレスチナ解放同盟(PLO)とのオスロ合意につながったと言われています。以下にGoogle見つけたムバラク・アウォド先生のリンクを置いておきます。サムネの写真で選んでます。

過激な暴力や多くの人の死、自分の死の危険などに何度も遭遇してきた方ですが、若い時は暴力に訴えがちな過激派の考え方をしていたそうです。そんな経験をしてきたことをこちらも知っているわけですが、見た目も話し方も怖いくらい穏やかで、微笑を称えていて、話の中に時折ユーモアが混ざるんで、こちらもどっと笑ってしまうんですね。そのゴッド・ファーザーのような見た目と、緊張と緩和が入り混じった雰囲気には、いわゆるオーラがありました。いまだご健在とのことですから、メールでもしてみようかと書きながら思っています。

非暴力と国際派コミュニケーション

さて私は、非暴力の考え方と、良いコミュニケーションや、語学異文化理解のコツには共通点が多いと思っています。

まず、大きな暴力に対して、暴力で抵抗しない。やっても大抵勝ち目がないし、暴力で解決したことは、いずれまた、暴力で問題になるからです。非暴力のクラスで例として挙がったのは、元ボクシングヘビー級3団体チャンピオンのマイク・タイソン氏に抵抗する時には、ボクシングのリングに選手として上がるのではなく、ジャッジとして出向くようにしましょう、でした。それは是非、そうしましょう。汗笑

非人間的な扱いをしてくる相手に対して、こちらを感情や尊厳がある、家族もいる人間として扱うこと求めるために、相手のこともそのような人間として扱うことも大事です。有名なフレーズですが「An eye for an eye makes the world blind」(目には目をは世界を盲目にする)ですね。報復は報復を生みます。ゲームのメタルギアソリッド5で、報復心は報復心を呼ぶ、というのがテーマのひとつになってましたね。終わらない戦争の原因です。

自分の痛みや苦しみを相手に知らせることで、人間としての相手方がこちらを同じ人間として扱うことを求めることも、よくある非暴力の使い方です。ハンガーストライキ(ご飯を食べないこと)は典型例だと思います。

ある女の子の話ですが、テストでいい点を取ったらパパが自転車を買ってくれるはずだったのに、パパが、テストでいい点を取ったのに約束を守ってくれなかったんだそうです(いろいろな事情がパパにもあったんだと思いますが)。そこで女の子は、非暴力に詳しかった近所の人にアドバイスを聞いて、自転車を買ってくれるまでごはんを食べないと宣言した上で、ハンガーストライキに入りました。元気がなくなっていく女の子を見かねて、パパは自転車を買ってくれたそうです。オチとしては、パパも自分の自転車をいっしょに買うことで、その後はいっしょに自転車でお出かけするようになったという話でした。

非暴力を国際派コミュニケーションに応用

これらの非暴力の考え方は、ネイティブや滞在地の文化をよくわかった方との間で生産的なコミュニケーションをする際には、応用できると思います。

英語ネイティブがネイティブに対して話しかけるような速さや言い回しを使っていて、こちらが反応できない時がよくあります。速くて何を言っているのかわからなければ、「ちょっと待って。もう少しゆっくり簡単に言ってもらえると助かります(Sorry to interrupt you. If you could speak a bit more slowly using easier vocabularies for me to understand, it would be quite appreciated)」など、素直に、そしてにこやかに言うことで、相手もストレスを感じなくて済むと思いますし、関係も深まる気がします。

相手が日本語をわかる時、日本で英語ネイティブと働く時などでは、英語日本語を混ぜるのもいいと思います。「...so that's why I need you to do...でしょ?大丈夫?」など最後に日本語を付けると、より言語でも文化でも対等な関係で話せる気がします。あと、相手の名前には、「さん」を最後に付けること。日本人に「さん」なしで呼び捨てたら失礼なのと同じように、日本人以外の名前を持っている方にも当然、日本で話している限りは「さん」付きで呼ぶようにしてます。

南スーダンにいた時、南スーダンの行政施設の名前を言われて聞き返したら、そんなことも知らないのか、と言われたことがあったので、「Do you know コッカイギジドウ?」と聞き返したことがありました。もちろん、ハテナな反応が返ってくるわけですが、「国会議事堂は日本の議会のことだけど、知らないでしょ?同じことかな」と言い返したら、相手も笑ってました。非暴力を使うときには、ちょっぴりユーモアがあるといいです。お水を飲みたくない赤ちゃんが口に入れられたお水を、ママの顔に吹きかけるような感じでしょうか。

力や権力がある相手に対して、暴力ではなく非暴力を使って抵抗して、服従しない方は、アサーティブコミュニケーションを使っていることが多いと思います。相手のことを同じ人間として、尊敬も信頼もするからこそ、こちらも同じように扱ってほしいために、脅すわけでもなく、はっきりと意見や気持ちを伝えること。これは「国際派」の方が、日本語以外の言語を日本以外の文化の下で使って認められていくためにも、必要なノウハウだと思います。

そういう私は、あまり得意ではないです。すいません。どうも自分からも相手からも逃げたり、違う選択肢を探す傾向があります。それも悪くないと思うんですが、もっと嫌味にならないけどアサーティブコミュニケーションができればと思ってます。頑張ります。

さて、米大学院を卒業して、TBSワシントン支局やNGOで働いたりしたあと帰国するわけですが、そのあとはさらに国際的な職場で働く機会に恵まれます。国連開発計画の東京事務所や国際協力機構(JICA)エジプト事務所、そして、在シリア日本大使館でのキャリアが待っていました。

第6回につづく。

(了)

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