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トラウマの遺産に悩む方・支援者たちへのメッセージ——『サバイバーとセラピストのためのトラウマ変容ワークブック』序文公開

発売後約ひと月足らずで、すでに大きな反響をいただいている『サバイバーとセラピストのためのトラウマ変容ワークブック』。
本書には著者のジェニーナ・フィッシャーによる、トラウマサバイバー向けとセラピスト向けの2つの序文が収載されています

まずはサバイバー向けの序文の冒頭部分を紹介しましょう。
トラウマの遺産に悩むサバイバーに知識の力の必要性を訴える,強力なメッセージです。

トラウマサバイバーのあなたへ 
本書の使い方

 本書はあなたのために書かれたものです。
 あなたは,あなたが耐えてきたトラウマ的な出来事に責任がないにもかかわらず,それらの経験から回復するための試練を処理するために,ひとりとり残されています。さらに悪いことに,起こった出来事によって自分がどのような影響を受けているかを理解するための,そして回復を導くための,ロードマップもありませんでした。それこそが本書の目的なのです――トラウマとその影響に関する最新の理解に基づいて,これからの旅の地図と詳しい道案内を提供することこそが。
 30 年前,トラウマ的な体験は,秘密が最終的に明らかにされ,安全で承認してくれる証人に何が起こったのかを語ることで癒されると考えられていました。しかし,当時信じられていたのとは反対に,その過程でトラウマの影響が改善されるどころか,悪化することがよくありました。私は当時,それはとても不公平なことだと思いました。既に受けた苦しみを癒すための試みが,なぜより多くの苦痛をもたらすのだろうか,と。1990 年代頃まで,それが唯一の地図であったため,誰もそうした苦痛について疑問に思わなかったのです。たとえそれがサバイバーを彼らが到達したい目的地へと,近づけるものでなかったとしても。
 トラウマの分野で私が最初に師事したジュディス・ハーマンは,この地図とは別のものを信じていました。彼女は,当事者たちに必要なのは情報だと断言しました。サバイバーたちは,トラウマのあらゆる影響や症状について教育を受ける必要があったのです。彼らは自分の人生や治療について賢い選択をするのに,十分な知識が要るのです。セラピーの受け身の対象であるレシピエントではなく,セラピストと完全なコラボレーターになることが重要である,と彼女は述べています。トラウマの被害者として,彼らは力を失い選択肢を奪われてきています。その解毒剤は知識の力であると,彼女は主張しました。何年も悩まされ,もはやおかしいとも異常だとも感じていない,不可解で強烈な反応を理解する方法こそ,知識の力であると。

次にセラピスト向けの序文の一部を紹介しましょう。
フィッシャーがハーマンとヴァン・デア・コークから学んだ、トラウマ的体験の作用について述べた部分に続くものです。トラウマサバイバーに、図解して説明する意義を説いています。

セラピストの皆さんへ 
本書の,あなたとクライアントの使い方

 このような状況の中で,クライアントに,クライアント自身の症状や反応について教育することがより重要になりました。そのために心理教育では,脳の働きを説明することになりました。クライアントのワーキングメモリーや言語表現能力はトラウマ反応によって損なわれているにもかかわらず,こうした複雑な概念を説明しなくてはならないのです。複雑な情報を単純化し,クライアントが理解できるようにするために,私は試行錯誤の結果,処理する情報を少なくするべく簡単な図を描くことが有効であることを発見しました。
 驚いたことに,ほとんどのクライアントは,私の「簡易脳科学」を理解することができました。また,言葉で説明するよりも絵で概念を描いたほうが,より簡単に集中することができたのです。実際,私が使用した言葉が少なければ少ないほど,彼らにとっては良いようでした!
 そして,同僚から,自分や他の人が使えるように図を共有して欲しいと頼まれたおかげで,最初のフリップチャートを作り,「心理的トラウマ治療のための心理教育エイド(Psychoeducational Aids forTreating Psychological Trauma )」と名付けました。心理教育は共同作業なので見やすく提示する必要があったため,フリップチャートにしました。クライアントとセラピストが一緒に図を見ることができる必要がありました。同じページを見るのに物理的な近さを必要としないように,イーゼルまたはスタンドの上に自立する必要があり,クライアントとセラピスト両方に見える十分な大きさである必要がありました。
 そして10年後,そのフリップチャートの続編として,図をより詳しく説明し,セラピーや家庭などで使えるようにトラウマ反応への取り組み方も提供した,このワークブックが完成したのです。

目 次

トラウマサバイバーのあなたへ 本書の使い方
本書の使い方についての提案
セラピストの皆さんへ 本書の,あなたとクライアントの使い方
ワークブックをクライアントと一緒に使う/相互探求にクライアントを関与させる/フリップチャートまたはワークブックに対する否定的な反応に取り組む/トリガーを,スキルを練習する機会にする
第1章 トラウマの生ける遺産
トラウマの生ける遺産を認識する/トラウマを克服する/トリガーとトリガーされたときの反応を理解する
第2章 トラウマを受けた脳を理解する
三位一体脳モデルと発達する脳/トラウマはどのように記憶されているか/トリガーとトリガーされたときの反応を認識し始めること/トリガーとトリガーされた反応に対処する
第3章 脳はどのように私たちの生存を助けているのか
癒しと思考脳/トラウマ的出来事が終わったと,どのようにわかるのか?/トラウマ後の症状は,私たちのトラウマの歴史をどのように反映しているか
第4章 トラウマ後の対処における課題
トラウマを抱えた神経系を調整するための捨て鉢な努力/アディクションや自己破壊行為の悪循環
第5章 自己破壊的な対処パターンからの回復
トラウマとアディクションを治療するための統合モデル/断酒・断薬/再燃のサイクル/「気づきの脳」の助けを借りる/習慣的なパターンを変えるために気づきの脳を活用する
第6章 トラウマとアタッチメント
アタッチメントはどのように記憶されるか/目と目のコミュニケーション/親密さと距離を許容する/おびえている,そして恐ろしい親による子育て/人間関係におけるトラウマ的なパターンを変化させていく/どこまで許容すべきか?/あなたの内面にいる「幼いあなた」を大切にする
第7章 トラウマに関連した断片化と解離
脳の構造が断片化を促進する仕組み/パーソナリティの解離したパーツたちを理解する/危険が度重なるほど特定の生存に関連するパーツが必要になる/あなたの診断名を理解する/構造的解離の徴候や症状を認識する/トラウマ関連の解離や断片化されたパーツたちに取り組む準備をする/パーツを助けることを学ぶ
第8章 癒しと解決
現在とつながり続けながら,過去を認める/解決への課題を克服していく/「今,この瞬間」に方向づけることを習得する/生き延びたことに感謝する:自由への4つのステップ/トラウマ治療の段階/第1段階:安全と安定化:調整不全の克服/第2段階:トラウマの記憶に取り組む/第3段階:統合と移行/癒しと許し

本書は、サバイバーの自習ワークとしても、セラピストと一緒に進める教材としても非常に優れたワークブックです。

フィッシャー、ヴァン・デア・コークなど20世紀末以降のトラウマ研究で得られた知見を詳細かつ読みやすく記述しており、実践的なトラウマ理論書としても意義の高い一冊です。
トラウマの理解と治療のための書として、治療者・支援者・サバイバーなどのすべての方に手にとっていただければと思います。

☟☟☟ぜひ、よろしくお願いします!☟☟☟

☟ジェニーナ・フィッシャー/浅井咲子先生タッグによる訳書☟

☟訳者・浅井咲子先生による本☟


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