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クワガタクライシスー在来クワガタを侵食する見えない危機ー



1.初めに

 おはようございます。こんにちは。こんばんは。IWAOです。今回は、クワガタが抱える外来種問題の一面について解説します。夏の時期が終わり、涼しくなる時期になりました。秋は、カブトムシ・クワガタの時期の終わりでもあります。そのような時期だからこそ、カブトムシ・クワガタにおいて気を付けてほしいことを書きます。今回は、クワガタの「外来種」としての脅威について紹介をします。よろしくお願いします。

2.クワガタとは何者か

 まず、クワガタの分類上での立ち位置について説明します。クワガタは、クワガタムシ科「Lucanidae」に属する甲虫の総称になります。皆さんがイメージするクワガタは、オスとメスで姿、形が違う「性的二型」が多いと思われますが、マダラクワガタのように必ずしもオスとメスで姿が違うものばかりではありません。
 また、形態的な面でも特徴があり、代表的なものだと、「腹板」「触覚」になります。「腹板」では、見かけ上の腹板が5~6節になること「触覚」では、基部となる第1節が長く、第2節以降と肘状に屈曲して接続されていることが挙げられます。

図にするとこんな感じです。
(*筆者作成)


クワガタの触覚の大型模型です。
(*めっちゃ昆虫展にて撮影)

 クワガタというとライバルとしてカブトムシが挙げられますが、分類的には、カブトムシとクワガタは、別物です。カブトムシは、コガネムシ科カブトムシ亜科に分類され、クワガタムシ科とコガネムシ科の祖先が分岐したのは、ジュラ紀中期頃と考えられています。つまり、分類的には、科という属よりもさらに上位の所で両者は、分岐しているため、親戚なようで遠い存在になります。そして、クワガタの武器は、大あごである一方、カブトムシの角は、頭部の皮膚が変形してできたため、両者の武器の発生学的な由来は、根本的に違います。また、クワガタの場合、幼虫は、主に朽木を食べるが、カブトムシは、腐葉土を食べるように生態にも違いがあります。ここで記述したこと以外にも、両者を比べた際に違いは多く見つかると思います。

3.ヒラタクワガタ大国日本

 皆さんに、日本にいるクワガタというと何をイメージするでしょう?多くの人が、「オオクワガタ」、「ヒラタクワガタ」、「ノコギリクワガタ」、「ミヤマクワガタ」、「コクワガタ」の計5種類をイメージすると思います。各クワガタでも、地域や場所によって違い、亜種関係にあります。その中でも、日本の自然の豊かさ、生物多様性を象徴する存在として私が注目したのが、「ヒラタクワガタ」になります。日本に生息するヒラタクワガタとは、どのようなものがいるのか、それぞれの種類にどのような違いがあるのかをここで説明します。
 まず、質問になりますが、日本にヒラタクワガタは、何種類いるでしょうか?

我が家のホンドヒラタです。
ヒラタクワガタは、めちゃくちゃ気性が荒いのですが、私は、嚙まれたことがありません。
つまり、この子は、私の前では大人しいです。

 上記の質問の答えは、「12種類」で、全て亜種関係にあります。すべての国産のヒラタクワガタを見たわけではありませんが、顎の太いもの、細くて長いもの、内歯の位置が基部の手前から顎の中間…などと様々な種類のものがいます。

サキシマヒラタです。
(*国立科学博物館にて撮影)
ホンドヒラタです。
(*国立科学博物館にて撮影)
スジブトヒラタです。
(*国立科学博物館にて撮影)

 五箇先生の研究もあり、日本と世界のヒラタクワガタの系統関係、系統樹もできています。(*ここからの説明は、五箇公一氏の著作と論文を基に作成します。)
 
五箇公一氏は、ミトコンドリアDNAのチトロクロムオキシダーゼの塩基配列の変異を調べ、日本産のヒラタクワガタの遺伝的分化を明らかにしました。その結果が、下の図になります。

日本国内に生息するヒラタクワガタの系統樹です。
(*「クワガタムシ商品化がまねく種間交雑と遺伝的浸食」 7頁を基に筆者が作成)
国産ヒラタクワガタの系統樹になります。
(*国立科学博物館にて撮影)

 日本のヒラタクワガタの遺伝的分化の特徴は、まず、ダイトウヒラタが、最初に分化した系統になります。大東島が、他の島よりも早くに孤立化し、そこにたどり着いたヒラタクワガタも独自の進化を遂げたためと考えられます。このダイトウヒラタを別にした場合、日本のヒラタクワガタは、「ツシマヒラタ」をルーツとする系統とその他の系統に分かれることになります。

こちらがダイトウヒラタです。
島しょ化の影響でしょうか。思っているよりも小さいなと感じます。
(*国立科学博物館にて撮影)

 ツシマヒラタ系統は、「ゴトウ」「イキ」が含まれ、これらは、「チョウセンヒラタ」の系統になります。つまり、朝鮮半島から日本へ南下してきたということを示唆します。また、ツシマ系統の地域個体群は、遺伝的距離が近いため、分化が最近起きたと考えられています。その上、ツシマヒラタ系統は、九州地方北部の広い範囲と山口県の一部に「自然分布」していることが分かっており、ホンドヒラタと生息地が被っている地域も見られているそうです。さらに、ホンドヒラタとこのツシマヒラタ系統のヒラタ両者の形態を持つ個体が採取されていることが報告されているため、ホンドヒラタとツシマヒラタ系統で、「自然下での」交雑が起こっていると考えられます。
 九州北部のヒラタクワガタの交雑を調べた際、ミトコンドリアDNAで遺伝的変異を調べた際、ツシマヒラタ系統とホンド系統に分かれるそうですが、核DNAで遺伝的変異を見た場合、対馬・朝鮮の系統、五島列島、壹岐、日本本土のホンド系統の系統に分かれ、対馬海峡が、地理的障壁になっているとのことです。
 その他の系統は、沖縄、奄美諸島、本土の系統になり、こちらの系統は、地域ごとにまとまっています。アマミ、タカラの「北琉球」、トクノシマ、オキナワ、オキノエラブの「中琉球」、サキシマ、タイワンの「南琉球」、ホンドとハチジョウの「本土」の系統へと分化しています。琉球地方にヒラタクワガタが、来たのは、更新世初期の約150万年前~200万年前と考えられ、この時期は、南西諸島が大陸と地続きで、陸橋の水没・分断と再形成が繰り返されていたと考えられます。よって、「北→中→南」の順で、ヒラタクワガタの分化が起こったと考えられます。

 しかし、その他ヒラタクワガタの系統では、不思議な点があります。それは、「何故、ホンド系統のヒラタクワガタは、南琉球(サキシマ、タイワン)の系統に近いのか?」ということです。地理的な移動を考えた場合、北琉球の系統に近くなるのに、何故、最も遠い南琉球の方に近くなるのでしょうか?これについては、現状分かってないらしく、五箇氏は、流木などによる漂着、または、人為分散なども絡まっているのではないかと記述しています。
 私は、「流木」によって本土へたどり着いたと考察しています。ヒラタクワガタは、湿気の強い環境好む上、産卵された流木が海に流されてもその中で幼虫が生きており、取ることができたとの話を聞いたことがあります。琉球列島から日本列島にかけて、黒潮があり、ヒラタクワガタが、何らかの形で流木くっつき、日本本土に流され、定着したのではないかと考察しています。また、考古学で、縄文時代の植物利用についての研究がされており、「二次林」の利用が想定されています。現代でいう「里山」です。縄文時代から、里山が作られ、利用していたと仮定するならば、人間が、非意図的であっても日本全土にヒラタクワガタの生息地を創出し、拡散することの一助になったのではないかと考察しています。

(「縄文時代の植物利用の復元画製作」より引用
 リンク先:https://rekihaku.repo.nii.ac.jp/records/313)

*下記のリンク先で、関東の下宅部遺跡から縄文時代時代では、どのようにして植物、森林の資源を使用していたのかが分かります。これを見むと「里山」にあたる内容だと思われます。

東京都下宅部遺跡の水場遺構材から 復元する縄文時代後期の森林資源利用 (jst.go.jp)

上の動画から見つかったクワガタの幼虫になります。
(*ぼくさんは、種類が分からないらしく、育てて観察するそうです。何の幼虫か、楽しみです。)

 以上が、日本のヒラタクワガタの説明になります。日本にいるヒラタクワガタは、大まかに「朝鮮半島から南下したもの」と「琉球列島から北上したもの」の2通りがあることが分かります。ただ、日本のヒラタクワガタのルーツは、複雑であり、一言で表現することが難しいものであることも同時に分かります。私の感じた日本のヒラタクワガタの魅力は、「大きく強い」ではなく、日本の地理と歴史を反映し、その地域での適応、進化の表れにあるのではないかと思います。また、日本で、ここまで多くのヒラタクワガタに会えるのは、十分すぎるくらいに贅沢なことだと思います。日本のヒラタクワガタを大切にしていきたいです。
*私は、でかくてスマートな顎を持つ「ツシマヒラタ」が、日本のヒラタクワガタの中では、一番好きで、絶対に飼育したいです。他にもサキシマヒラタ、スジブトヒラタも飼育に憧れています。

日本のヒラタクワガタのまとめ図になります。
(*筆者作成)

4.世界のヒラタクワガタ         ー日本のヒラタクワガタの位置づけー

 五箇公一氏は、日本のヒラタクワガタのみならず、世界に分布するヒラタクワガタに関してもmtDNAの変異を調べ、世界のヒラタクワガタの系統図を作成しました。それが、下の図になります。

(*https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/18/10-11.html  
図9アジア域に生息するヒラタクワガタ地域系統(亜種)の分子系統樹を引用)

 外国産のヒラタクワガタは、祖先種となるアルキデスやユーリケファルスなどを別として、大まかに「北方系」と「南方系」の2系統に別れるそうです。南方系は、パラワン、セレベス、スマトラ、ダイオウなどで、フィリピンからスンダ列島に生息するものになります。南方系は、島に生息するものが中心になりますが、島ごとに固有の遺伝子組成を持つことがわかっています。北方系は、アジア大陸に生息するもので、日本のヒラタクワガタは、ほぼすべてが、ここに含まれます。五箇公一氏が、この研究をされていた当時は、中国、ネパールでのデータが不足しているという欠点はありますが、ヒラタクワガタの系統や拡散において以下のように説明しています。

世界のヒラタクワガタはかつて氷期にスンダランドと呼ばれる大陸で派生し、北と南の2方向に分布拡大し、南の個体群は、その後の海進による島嶼の成立と共に分断され、分化を果たした。一方、北の個体群は、北進を続け、朝鮮半島経由および南西諸島経由で日本列島にたどり着いたと考えられる。いわば日本のヒラタクワガタは世界のヒラタクワガタの末裔ともいうべき位置にある。

(*「クワガタムシ商品化がまねく種間交雑と遺伝的浸食」 10頁を引用)

 この記述からは、世界のヒラタクワガタは、地球の歴史を反映し、分化することでローカルな存在になりました。その遺伝子プールの存在は、貴重な存在になります。一方、日本のヒラタクワガタについても世界のヒラタクワガタの中での位置づけを説明してます。日本のヒラタクワガタは、地理的に見ても最も北上し、多様化した個体群であると言えます。そういう意味でも、日本のヒラタクワガタの価値は、何物にも変えられないくらいに大きいものだと思います。
 
以上の記述から、世界のヒラタクワガタにも日本のヒラタクワガタと同じように地理と歴史を反映し、その地で適応するように進化したこととその過程に大きな価値がある存在であると言えます。
*世界のヒラタクワガタなら、私は、パラワンオオヒラタが一番好きです。ツシマヒラタが気に入っている理由も同じく、大きくスマートな体系とアゴです。
*また、私が感じていることでもあり、多くの人が感じていることでもありますが、ツシマヒラタの顎の形は、パラワンと似ているということです。ただ、系統を見た場合、ツシマヒラタとパラワンオオヒラタは、大きく離れています。何故、似た顎の形に進化したのでしょうか。たまらなく不思議です。

5.日本のクワガタに迫る危機と脅威

 ここからは、クワガタを飼育することで発生する問題について説明していきます。私も、過去にアトラスオオカブト、現在は国産のカブトムシ、オオクワ、ホンドヒラタを飼育しています。私は、数ある中のカブトムシやクワガタの極一部のみを飼育していますが、日本には、「何百種類」、「万単位」でカブトムシやクワガタが、世界から輸入されています。多い時には、1年で100万匹とも言われているほどです。その上、外国のカブトムシやクワガタは、大量にブリードもされ、販売もされています。つまり、日本は、カブトムシやクワガタの「超大量消費国」であるということです。外国産の生物を飼育することそのものは、悪いことではありません。しかし、外国産のカブトムシやクワガタを飼育することによって発生する問題が、過去10年も前から提起され、実際に確認もされています。ここでは、ヒラタクワガタの研究で分かったことを紹介します。

・ダニとの共生

 カブトムシ、クワガタの飼育の経験者なら、誰もが頭を抱えたことのある「ダニ」についてです。ヒラタクワガタにもダニは付きますが、クワガタにくっつくダニは、どこにでもいるダニではありません。つまり、クワガタのによってくっつくダニに違いがあります。その違いは、種ごとに対応し、ヒラタクワガタの場合も例外ではありません。
 クワガタにくっつくダニは、「クワガタナカセ」と言われるダニになります。日本産と外国産から検出されたダニのDNA変異を調べた際、ヒラタクワガタの産地別で遺伝的に異なるクワガタナカセの系統があることが分かりました。よって、クワガタナカセにも多様な遺伝子の変異があるということを示す結果になります。また、下の図のヒラタクワガタとクワガタナカセの系統の対応関係に注目してほしいです。クワガタナカセは、ヒラタクワガタごとに独自のDNAを持っていることが分かります。これは、ヒラタクワガタとクワガタナカセの「共進化」を示しています。つまり、ヒラタクワガタとクワガタナカセは、「種ごとにどのように対抗するのかなどの関係性を築いた」ということです。

(「外来昆虫の引き起こす問題--外国産クワガタムシの輸入をめぐって」 145頁を引用)

 クワガタナカセが、多様な変異を持っていることは、当然素晴らしいことではありますが、同時に、これは、「日本の在来のクワガタへの脅威」でもあります。それは、「外来種を持ち込んでしまっている」ということです。私は、外来種によって引き起こされる問題は、「生物同士の関係性の破壊」だと考えています。非常に長い時間で、生き物同士が、どのように獲物を捕まえるのか、または逃げるのか、はたまた、どのようにして自分の利益のために生き物を利用するのか…などと生き物同士は、関係性を築いています。特に、捕食される側にとって捕食者からの防御の対抗手段は死活問題です。外来種自身は、これまで築いた関係性の利害関係者ではありませんし、当然、在来種は、突然入ってきた外来種に対して、有効な対抗策をすぐに立てることはできません。つまり、在来種は、外来種に対して一方的にボコボコにされるだけです。外国産のクワガタナカセを日本産のヒラタクワガタにくっつけた場合、簡単に増える事例が確認されたそうです。この事例から、日本のヒラタクワガタが、外国産のクワガタナカセに一方的に体液を吸われ、最終的には、死んでしまうだけの個体が多く発生するのではないかと予想されます。
*私は、過去のブログで、外来種とは何者で、どのような問題を引き起こしているのかについて記述しているので、そちらを読んでもらえると外来種の問題が理解できます。

・交雑

 今回のブログで、私が最も説明したいことと一番の脅威と感じているのが、「交雑」になります。ヒラタクワガタは、国産のものから外国産のものすべてが、亜種関係にあるものの世界のヒラタクワガタの系統樹を見た場合、種によっては、分岐の年代がかなり前のものがいることが分かります。しかし、五箇公一氏の研究では、タイ産のヒラタクワガタと日本のヒラタクワガタで交雑されたと考えられる個体見つかったそうです。
 タイ産のヒラタクワガタと日本産のヒラタクワガタの遺伝的・地理的距離は、かなり遠いのですが、両者の交雑とその進行具合を考えた場合、深刻な事態になります。ヒラタクワガタの系統同士での交雑具合、雑種の形態や適応度、妊性などは、どのようになるのかが研究されました。
 日本のヒラタクワガタのオスとスマトラオオヒラタのメスを交配させた場合、30個近くの卵を得ることができ、それらは孵化することから成虫になることまで可能でした。これだけでなく、その雑種(F1雑種)同士の妊性調査した際も、卵が得られたことも確認されました。このことから少なくとも2代目(F2)までは増殖可能と言えます。
 日本産と外国産同士だけでなく、外国産同士での交雑も実験されました。パラワンオオヒラタとスマトラオオヒラタの両者での交雑を行った際、交雑が可能な上、両者に似ない大あごを持つ個体が誕生したことが確認されました。以上の研究からヒラタクワガタは、遺伝的に地理的に離れた系統間でも容易に雑種を作ることが可能であることが示されました。これらは、ヒラタクワガタが、これまでの歴史で作ってきた進化の歴史や多様性を容易に壊してしまうことが示唆される結果になります。

上の図のクワガタが、交雑個体になります。
(*「外来昆虫の引き起こす問題 —外国産クワガタムシの輸入をめぐって」 142頁図4より引用)

 雑種ができてしまうことに対して、あまり危機感を持たない人、何が問題なのか、よくイメージできない人がいると思います。「遺伝子が混ざることの危険性」について次の章で詳しく解説したいと思います。

6.交雑は何が問題なのか?

 交雑というと「遺伝子汚染」などを結びつける人が多く、生態系を破壊することとしてよくないことと思う人が多いと思います。しかし、交雑そのものは、決して悪いことではありません。
 まず、他の種同士での交雑は、自然界では普通に発生しています。クワガタで有名な例だと、オオクワガタ(♂)とコクワガタ(♀)が交雑することによってオオコクワという雑種が生まれています。コクワガタのようにストレートだが、内歯はオオクワガタのようになる個体です。以外にもオオクワガタに近い種は、コクワガタでギリギリ生殖隔離ができてないため、できることです。

 このオオコクワ以外にも交雑は起こっており、その一例にかつての琵琶湖では、普通種として生息していた「サンネンモ」という水草は、「センニンモ」と「ササモバ」という2種を元としてできた交雑種になります。また、琵琶湖では、琵琶湖をより利用し、琵琶湖へ進出したために分岐したと考えられるホンモロコやイサザは、その分岐したまた別のタモロコやウキゴリと自然下で交雑することも確認されています。琵琶湖以外でも、植物でもかなり交雑が起こっていること、サンゴも7割が交雑しているなどの話も聞いたことがあります。
 上記のように交雑そのものは、自然界で特別な現象として発生しているわけではありませんし、悪いことでもありません。ましてや、日本のヒラタクワガタでも、上記で説明した通り、ツシマヒラタ系統とホンド系統が、九州北部で「自然下で」交雑しています。
 ここまでの説明で、交雑は「何故、何が問題か」が理解できると思います。それは、「人為的な要因で」交雑したものを「自然界に離すこと」が問題です。つまり、人為交雑が管理されてないことが問題です。交雑は問題であると考えている人たちの問題点も言葉は違えど、ここにあります。

・民族主義、人種差別と生物の交雑の混同

 しかし、この人為交雑を「全く問題がない」や「生物多様性を高めて非常にいいことである」という妄言を吐くクソ詐欺師どもがいるらしいです。そういうことを言っているであろうクソ詐欺師どもは、「生物多様性まして、遺伝子多様を守る意味がなく、ただの価値観でしかない。」「遺伝子多様性の保護は、ナチズムと同じ」などとそもそもの生物や生態系に対しての基本的な理解すら全くできてないカルト尊師様らであると、私は、一切疑っていません。ただ、遺伝子多様性は、何故、守らなければならないのかを最後にこの妄言に反論と予想される影響という形で、そして、ヒラタクワガタにも絡めて説明します。
 多分ですが、このクソ詐欺師達は、遺伝子多様性を王や皇帝の血筋・血統、民族のようなまとまりと全く同じもの、つまり、「純血主義」のようなものと捉えているのではないかと考えていると思います。ナチズムもですが、大東亜共栄圏(これ、厳しいですが…)や王や皇帝の血筋・血統のどれも共通する点があります。それは、「自分たちの正当性を主張する」ということです。
 
例えば、アドルフ・ヒトラーは、『我が闘争』にて、ドイツ人(*ここでは、アーリア人)について以下のように記述しています。

・・・われわれが今日、人類社会について、つまり、芸術、科学および技術の成果について目の前にみいだすものは、ほとんど、もっぱらアーリア人種の創造的所産である。・・・(中略)・・・アーリア人だけがそもそもより高度の人間性の創始者であり、創始者であり、それゆえ、われわれが「人間」という言葉で理解しているものの原型を作り出したという、無根拠とはいえぬ帰納的推理を許すのである。・・・(中略)・・・
 もし、人類を文化的創造者、文化支持者、文化破壊者の3種類に分けるとすれば、第一のものの代表者として、おそらくアーリア人種だけが問題となるに違いなかろう。・・・

アドルフ・ヒトラー (著) 平野一郎 (訳) 将積茂 (訳) 『わが闘争(上)』 413頁より引用

アーリア人種がより劣等な民族と混血した場合、その結果としてかならず文化のにない手であることを止めてしまったということを示している。

アドルフ・ヒトラー (著) 平野一郎 (訳) 将積茂 (訳) 『わが闘争(上)』 407頁より引用

 他にも、日本について「外国との接触がなくなると日本の発展はなくなってしまう」であったり、「日本の文化は、欧米諸国によって今の文明力を持っている」などと見下した記述が確認されています。これらの記述から、ドイツ人、特に、アーリア人が、いかに優れた人種であるかを説明しているのかが分かると思います。また、以上のことからいえることは、下のこのアニメの超有名な名言と同じです。

・人為交雑の問題点

 ここから、人為交雑による問題点について解説していきます。まずですが、「遺伝子多様性を守る」意味は、上記のような「日本の生き物が、外国のものよりも強くてかっこよく、優れているから」という「優越感」があるわけでは決してありません。その生物が、「どのようにその地に来て、生態系にどのような役割を持ち、他の地域のものとどう違うのかを大切にする」ことにあります。つまり、「生物の進化の過程とその結果と今の生態系における役割を守ること」に主眼があります。しかし、本来その場にいなかった生物が持ち込まれ、交雑することで、遺伝子レベルでの違いがなくなってしまうだけでなく、最悪、「その場の生物が絶滅することや生態系をぶち壊すこと」にもつながりかねません。
 交雑で最も恐れていることは、「妊性を持たなくなること」、つまり、子孫が残せなくなることにあります。これは、実際に日本で発生しています。日本でトマトの受精を行うために北海道では、セイヨウマルハナバチが導入されていますが、このセイヨウマルハナバチ(♂)が、在来のマルハナバチの新女王(♀)と交尾を行っても、卵は孵化しません。このような交雑は、北海道の自然下で30%の個体で確認されたそうです。その上、在来のマルハナバチでないと受精できない在来の植物もあります。つまり、これらの事実から、在来のマルハナバチが不妊個体が拡散することで、個体数を減らし最終的には絶滅し、在来のマルハナバチでなければ受粉できない植物も共倒れになるというシナリオが予想できます。
 上記のシナリオをヒラタクワガタで当てはめた場合、外国産と国産のヒラタクワガタが、交配しても卵は生まれないため、日本のヒラタクワガタは、減少し、地域によっては絶滅します。ヒラタクワガタの幼虫は、空気中の窒素を固定する能力をもっていることが示唆されており、コクワガタの場合、アセチレン還元能で、窒素固定を行っていることが分かっています。これができなくなる場合があります。つまり、森の分解者としての役割を果たせなくなることを意味します。
 私が、交雑で恐れていることが、もう一つあり、それは、「異系交配弱勢」になります。この「異系交配弱勢」は、「他の個体群との交雑によって、その環境で生きてくための遺伝子が薄められてしまう」というものです。日本のヒラタクワガタは、最も北上した個体群と先程、説明しました。ただ、日本で生息するには、最も大切な能力があり、「いかにして冬を乗り切るのか」が最も大切です。熱帯系のヒラタクワガタが、越冬する能力を持っているとは限りません。外国産のヒラタクワガタとの交雑により、日本のヒラタクワガタの越冬に関わる遺伝子が失われてしまった場合、日本のヒラタクワガタが、冬を乗り越えられずに絶滅することに繋がりかねません。
 
上記の2パターン以外でも、考えられる脅威は、たくさんあります。もう一例だすとなると、「行動が変わること」が考えられます。オキナワヒラタは、リュウキュウノコギリクワガタの活動が、盛んになる時期の前後で活動が活発化するため、リュウキュウノコギリクワガタとの競合を避けようとしています。本土では、ミヤマクワガタとノコギリクワガタが、カブトムシの活動時間帯を避けるようにその前後の時期に活動していることが、確認されています。行動は、「遺伝子で決まっているとは限りません」が、遺伝子が変わることで、行動が変わってしまった場合、まして、外国産との交雑個体は、「雑種強勢」により、繁殖力や競合力で、本来の個体よりも強い個体になってしまっている場合があります。そのヒラタクワガタにとって利益になっても他の個体が、これまで獲得していた利益、ここでは餌場を奪い取ってしまうことに繋がりかねません。遺伝子が変わり、行動が変わり、それまで在来の生物と作り上げた関係性をぶち壊すことになってしまうということが予想されます。
 ここまで、私が記述してきたことは、仮定が前提の話になります。ただ、遺伝子汚染の危険で厄介な所は、「見えない、予測できない時限爆弾でありつつ核兵器級の威力を持つ」可能性があることです。よって、遺伝子汚染による問題が発覚した時には、もう手遅れだったということもおかしい話ではありません。まして、交雑が在来の生物に対して、どのような悪影響を及ぼすのかを予測するのも、困難です。交雑の問題は、絶対に野外に逃がさないように管理をすれば、まずは、防げる問題です。他の生き物でも外に離してはいけないと言われていることがありますが、それは、クワガタにおいても同じです。必ず守りましょう。
 また、外国産のカブトムシやクワガタが野外で確認されるだけでなく、国産のカブトムシやクワガタですら、本来の生息地ではない所で確認されています。北海道や沖縄のカブトムシは、顕著な例ですが、2003年の段階で、兵庫県と静岡県でサキシマヒラタのmtDNAが、富山県からはツシマヒラタのmtDNAが検出されています。かなり前からじわじわとクワガタの遺伝子を汚染していることを示唆する話です。知られてないだけで、クワガタの遺伝子がぐちゃぐちゃにかき乱されている可能性があります。

*交雑の問題は、クワガタだけではありません。特に、京都のオオサンショウウオが、深刻な事態になり、純粋な日本のオオサンショウウオが絶滅しかけています。詳細は、下記のブログを参照して下さい。私は、日本のヒラタクワガタは、京都のオオサンショウウオほどの事態にはなっていないと感じます。しかし、このような事態には、絶対にしたくないです。

*遺伝子汚染による危機について詳しく書かれた文献があります。かなり詳細なことが記述されているので、ご覧になるといいと思います。

7.まとめ

 以上が、日本のヒラタクワガタに内在する危機になります。私は、特に、淡水魚が好きで、カブトムシやクワガタのよりもそちらに関係する文献の方をよく読んでいます。それに比べるとカブトムシやクワガタの「外来種」としての問題は、あまり触れられていなく、詳しく知られていない気がします。
 
最近、NHKによって、サタンオオカブトを中心とする南米のカブトムシに対する過度な需要が問題であることがやっと報道されました。この話は、ナショナルジオグラフィックで、日本のカブトムシに対する異常なほどの需要としても紹介されています。メディア関係が報道の少なさが、悪いわけでは決してありませんし、1回報道したから、世の中が大きく変わるとは限りません。しかし、世間が、カブトムシやクワガタの「外来種」としての認識の薄さは、大きな問題だと感じています。カブトムシやクワガタが引き起こされている問題は、もっと啓発されるべきだと思います。また、私達も外来種の問題は、カブトムシやクワガタ以外で必ず触れる話です。その時に、カブトムシやクワガタにおいても同じことが言えると関連付けることが大切だと思います。

 ヒラタクワガタが大きな地理的・遺伝的隔離を超えて交雑が可能というのは、将来的に大きな危険になると思います。今は、外国産のヒラタクワガタの飼育が規制されていませんが、管理をいい加減にしてしまうと、日本のヒラタクワガタの脅威になり、最終的には、特定外来生物に指定されることもおかしくはありません。このような事態には、絶対にしないよう、日本のヒラタクワガタへの危険性を知らなければならないと思います。

外国産のクワガタは、要注意外来生物となっています。
外来種としての危険性があることを示します。
(*国立科学博物館にて撮影)

 しかし、今回は、日本や外国のヒラタクワガタとは、何者かについても紹介させていただきました。外来種としての悪い部分だけでなく、どのような出自であったり、生態や形態を知ることもできる内容になったと思います。どのような進化を遂げ、今のヒラタクワガタになったのかを考え、感じてみてはいかがでしょうか。また、違った魅力が、国産からも外国産からも感じることができると思います。
 私は、カブトムシと同じく、クワガタも最も北上した個体群であるため、日本の厳しい気候に適応したクワガタにとても魅力を感じました。その上、様々な地域に分化して適応しました。日本という国が、生物が多様で豊富な国であることが、ヒラタクワガタからも反映されていると感じます。日本のヒラタクワガタを守っていきたいと思います。

 以上になります。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。また、このブログを記述するにあたって参考にした文献を求めました。是非、ご覧ください。

8.参考文献

・私が特にお勧めする一冊

 五箇公一氏の『クワガタムシが語る生物多様性』をお勧めします。クワガタに関する内容だけでなく、生物多様性全般の話、グローバル化によって引き起こされる生物への悪影響などが、詳しく書かれています。初学者には、分かりやすく、玄人には、より深く勉強できる著作です。是非、ご覧ください。




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