見出し画像

【ショートショート】君はレジ☆スター

僕は手を止め、君を見る。

今日の仕事を悠然とこなす君。その顔はいつでも明朗だった。

君を月曜日に見た。
君を火曜日に見た。
君を水曜日に見た。
君を木曜日に見た。
君を金曜日に見た。
多分、土曜日にも見たはずだ。

課せられた単純な連続作業。永遠のスパイラルに没頭する君。

傲慢な店長に対する君。その華麗なる作り笑い。

幼稚な先輩に対する君。相手の急所をつく見事なご機嫌取り。

不機嫌な客は無実の君を罵る。反省する伏し目は至高。

君は朗らかな悪態をつく。不条理と遊び戯れる君。

その目に宿っていたのは諦めだろうか? 
否。君は巨大な腕でとりまく世界を抱擁していた。

君は世の富豪よりも人生を楽しむ。君はアイドルでもなければ、得点王でもない。けれど、僕は君を羨む。

君は今日もレジに立ち、あらゆる世間の喧騒を見下ろしている。
冷厳かつ高貴な目。
その小さな空間こそ、君にとっての神聖で完全なる小宇宙。

君は不撓の労働者。
君は不敗の社畜。
君は不屈のレジスター。

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?