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成長する。チャンスはまた、必ず来る。DF黒宮渉【Voice】

地元いわき市出身の黒宮渉選手。身長184cmとフィールドプレーヤーナンバーワンのサイズと、アグレッシブなプレースタイルを武器とする入団2年目のディフェンダーが、今の思いを語ります。

▼プロフィール
くろみや・わたる

1998年生まれ。鹿島アントラーズノルテ→明秀学園日立高→作新学院大
2020年いわきFC入団


■J3屈指のFWに競り勝ち、価値を上げる。

作新学院大4年の昨年夏、手薄になっていた守備陣のテコ入れもあり急遽、いわきFCに合流。球際の激しいプレーとヘディングの強さを武器にチームを支えた黒宮渉選手。今シーズン、特に印象的な活躍を見せたのが、天皇杯福島県予選決勝・福島ユナイテッドFC戦でした。

「あの時は試合に向けて、サッカーに没頭できました。充実したメンタルで戦いに臨むことができましたね」

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福島ユナイテッドFCの3-4-3に対抗し、いわきFCは今シーズン初めて3バックを採用。田村雄三監督は3バックの中央に黒宮選手を抜擢しました。課されたタスクは、相手のエースストライカー、FWオリグバッジョ・イスマイラ選手のマーク。イスマイラ選手は身長188㎝のナイジェリア人FW。昨シーズンはJ3の33試合で13得点を挙げています。

「スターティングメンバー入りが決まったのは、確か試合の3日前だったと思います。これは来た、とうれしかったですね。J3屈指のFWに競り勝つことができれば、自分の価値を上げられるから。

しかも試合前日に知ったのですが、イスマイラ選手は同い年なんです。これはなおさら負けられない、と。ただ、これだけ背の高いFWとマッチアップするのは初めて。試合がどうなるのか、なかなか想像つきませんでした」

実際に対峙すると、独特の迫力があったそうです。そんなイスマイラ選手に対し、黒宮選手は「とにかく嫌がることをしよう」と考えました。

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「イライラさせればイケる。そう思い、容赦なく当たりに行きました。ただし正面衝突ばかりでは分が悪い。べったりとくっついたり、いったん離れてから強く当たりに行ったりと、状況によって守り方を変えて揺さぶりました。開始2分ぐらいでだいぶ興奮していたので、これはハマったな、と思いましたね。

ただ、手足が長くリズムが独特で、ここは絶対届かないだろう、という所にも足が伸びてくる。やりにくさはありましたね。でも自分のストロングであるヘディングの競り合いで負けなかったので、大きな自信になりました」

イスマイラ選手を最後まで封じ込め、チームは2対0で勝利。見事、天皇杯への切符を勝ち取りました。この結果で、おそらく多くのファンが「この活躍で、今まで控えに甘んじてきた黒宮選手が、JFLのリーグ戦でもスタメンの一角に入ってくるだろう」と思ったに違いありません。しかし、現実はそう簡単ではありませんでした。

■3年間ともに戦ってきた仲間達を、裏切りたくなかった。

地元・いわき市出身。小学1年でサッカーを始め、6年生の終わりで東日本大震災を経験。一時的な避難は経験したものの、幸い、身内や友達も含めて大きなダメージはなかったそうです。中学時代は鹿島アントラーズのジュニアユースでプレー。当時はボランチでプレーし、高校からはCBでプレーしています。

「アントラーズのジュニアユースは鹿島、つくば、ノルテの3つがあります。僕は日立にある鹿島アントラーズノルテでプレーしていました。練習がある日は学校を早退させてもらい、電車に乗って日立まで通っていました。当時はボランチでしたが、背はそれほど高くなかった。伸びたのは高校に入ってからですね」

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高校進学とともにいわきを出て、茨城県にある明秀学園日立高校へ。寮生活を送りながら、サッカーに打ち込みました。サッカー部の1年上には、現在、高知ユナイテッドSCレンタル移籍中の吉田知樹選手がいました。高校2年生の時、地元いわきに新たなサッカークラブが生まれることを知ります。

「Jリーグを目指すクラブが地元にできることに驚き、いつかプレーしたいという気持ちも生まれました。吉田選手が入ったこともあり、いわきFCの動向には常に注目していました」

高校を卒業し、作新学院大に進学。宇都宮に住み、サッカーに没頭しました。卒業したらプロ選手になりたい。その中で、地元のいわきFCも大きな選択肢でした。願いはかない、大学4年の6月、入団が内定。そして、その後のある日のこと。黒宮選手は大学の監督に呼ばれ、決断を迫られます。

「いわきFCが、予定より半年早くチームに合流してほしいと言っているが、どうするかと言われました。最初は驚きましたし、戸惑いました。関東リーグへの昇格戦など目標にしていた大会も残っていたので、まずは大学での活動を全うしてから入りたい、という気持ちでした」

当時のいわきFCはディフェンダーに退団選手が相次ぎ、CB陣のテコ入れが急務でした。黒宮選手は進路に悩み、いろいろな人に助言を求めました。

「鹿島のジュニアユースのチームメイトに、現在アントラーズで活躍する上田綺世選手がいます。彼は大学を辞めてアントラーズに入ったので、電話で相談に乗ってもらいました。彼も『上のレベルに行けば確実に成長できる。どうせ入ると決めたのだから、行くなら早い方がいい』というアドバイスをもらいました。

多くの人の助言で、気持ちはいわき入団へと傾いていきました。唯一引っかかっていたのが、3年間ともに戦ってきた大学のサッカー部の仲間達と別れなくてはいけないこと。彼らを裏切るような気がして、抵抗がありました。

みんなに話すと『行くなよ』と止めてくれました。僕ももちろん迷いました。でも最後は心を鬼にして『やっぱり行く』と気持ちをはっきり伝えました。考え抜いて出した答えだったので、みんな最後は尊重してくれて『頑張れよ』と送り出してもらえました」

黒宮選手はサッカー部を退部。宇都宮から故郷・いわきへと戻ってきました。

■本当にやっていけるのか、と不安に。

昨年7月末、チームに合流。プロ選手としてのキャリアがスタートしました。しかし練習を重ねるほど、大学時代とのレベルの違いを痛感させられます。

「球際の激しさは、チームの戦い方にフィットしたと思います。でもスピード感や身体の使い方、技術はまったく違いました。ヘディングやフィードなど、大学時代に得意だと思っていたプレーが上手くいかない。今まで勝っていたヘディングでなかなか勝てなくなり、ボールを持つとあわててしまったりと、悪循環でした。

展開するサッカーも大学とはぜんぜん違いました。特に最終ラインの高さ。いわきFCは後ろの選手もどんどん前に出てラインを高く取ります。大学では上がらない状況でも、どんどん上がっていく。本当にやっていけるのか、と不安になりました。

練習もきつかったですね。合流してしばらくは毎日ヘトヘト。身体が重たかった。幸い、食事や洗濯などを親が助けてくれたので、どうにか乗り切れました。実家にいなかったら、コンディションを崩していたかもしれませんね」

初出場は8月に行われたヴェルスパ大分とのJFL第17節でした。当時のいわきFCは、新型コロナウィルス罹患者と濃厚接触者が出たことで活動を一定期間停止するなど、難しい状況にありました。十分な練習を行うことができず、コンディションを上げられない中、チームは大分まで遠征。迎えた初めてのリーグ戦は、1対4の厳しい大敗で終わりました。

「相当緊張しました。センターバックの左で先発し、周囲の選手達に引っ張ってもらいどうにかプレー。でも大量失点で負けてしまった。『自分のせいじゃないか』『ここからチームはどうなっちゃうんだろう』と不安になりました」

負けを引きずる暇もなく、試合はやってきます。チームは8月下旬にDF小田島怜選手を補強するも、CB陣は連携を深める間もなく試合を重ねていかざるを得ませんでした。チームは第18節でFCマルヤス岡崎に勝利。大敗から立ち直ったかに見えました。しかし翌19節でホンダロックSCに敗戦。勝ち負けを交互に繰り返し、浮上のきっかけをつかみ切れません。そんな中、黒宮選手は徐々にチームにフィットしていきます。

「昨シーズン、最も印象的な試合は11月のHonda FC戦です。JFL 4連覇中のチームだけに本当に上手くて、他のチームとぜんぜん違いました。でも、普段にはない緊張感が楽しかったし、自分の能力が通用した部分も多くありました」

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チームはHonda FC戦を引き分けて復調のきっかけをつかむと、J3昇格圏内入りへの一縷の望みに懸けて、松江シティFC、MIOびわこ滋賀に連勝。しかし第29節でヴィアティン三重と引き分け、最終節でテゲバジャーロ宮崎に敗北し、昇格はなりませんでした。

これらの試合のピッチに、黒宮選手の姿はありませんでした。充実したパフォーマンスを見せられたHonda FC戦で、負傷してしまったからです。昇格を懸けた終盤戦、チームに貢献できなかったことには、大きな悔いが残りました。

「2021年こそ、本当の中心選手としてプレーする。後ろからチームを盛り上げ、みんなでJ3に上がる」

黒宮選手はそう心に誓い、今年のシーズンに臨みました。

■成長できるなら、ポジションにはこだわらない。

今年のシーズン、チームはCBを重点的に補強しました。徳島ヴォルティスから奥田雄大選手、京都サンガF.C.から江川慶城選手、大学日本一に輝いた東海大のキャプテン・米澤哲哉選手が加入。守備陣の層が厚くなり、スタメン争いはかつてなく激化しました。そんな中、黒宮選手は負傷で出遅れてしまいます。

序盤、チームが勝ち星を積み重ねていく中、出番なし。リハビリを重ねて徐々にコンディションを上げ、4月24日の第6節・F.C.大阪戦で初めてベンチ入りし、5月5日の高知ユナイテッド戦で交代出場。これを、天皇杯福島県予選での活躍へとつなげました。

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しかし、今年のチームは甘くありません。イスマイラ選手を抑え込んだ翌週のJFL第9節・FCマルヤス岡崎戦。黒宮選手はスターティングメンバーから外れ、ベンチスタート。そして、試合に出場することもありませんでした。

「マルヤス戦前の練習で、いいパフォーマンスができなかった。イスマイラ選手を抑えてスタートに定着したい思いはもちろんありました。そのためには翌週の練習で、ユナイテッド戦のパフォーマンスを続けなくてはいけなかった。本当の信頼を得ることができず悔しい。自分の精神的な弱さがはっきりと見えました。

今年のポジション争いは本当に熾烈です。自分だけではなく、結果を出しても簡単にスタートで出られない。甘くないですね。大事なのは結果を出し続けること。もう一度アピールして、頑張っていきます」

今年のCB陣は新入団の3人に加え、ともに昨年の守備陣を支え、ケガから復調してきた小田島怜選手、2年目になって覚醒し、スターティングメンバーに食い込んだ黒澤丈選手など、個性の異なるさまざまな選手達がポジションを争っています。黒宮選手はこの争いに勝つため、どんなアピールをしていくべきなのでしょう。

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「僕の特徴はヘディングと球際の激しさ。ここはチームのDF陣で誰にも負けたくない。加えて、後方からのビルドアップ能力をもっと上げなくてはいけない。奥田選手や小田島選手といった、組み立てが上手い選手のいい部分を盗んでいきたい。

また最近は紅白戦では、ボランチに入ることが多くあります。今、ボランチでも勝負したい気持ちが出てきています。今、層が薄いポジションですし、チャンスがあるかもしれない。実は中学から大学まで、何度かボランチで試されたことがあるんですよ。どのチームでも、必ず一度試される(笑)。昔は『俺はCBなのに、なんでボランチなんだよ』という悔しさがあった。でもこのチームに入って、そういう気持ちはなくなりました。それよりも、成長したい。成長できるなら、ポジションにはこだわらない。自分の人に強く行ける能力は、ボランチでも発揮できると思います。あとは組み立てですね。

チャンスはいつ巡ってくるかわからない。でもこの先、必ずまた来る。その時にいいパフォーマンスを発揮して、それを続ける。そのために日々のトレーニングで一つ一つのプレーを突き詰め、いろいろな人からアドバイスもらって成長していきたいです」

そして唯一の地元出身選手として、黒宮選手は今後のキャリアをどのように考えているのでしょう。

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「このまま無敗で勝利を重ね、圧倒的なシーズンにしたい。そしてチームと一緒にJ3、J2、J1と上がって、自分自身も大きくなりたい。いわきFCがJ1の大舞台で戦えるようなチームになって、そこに自分も出場していることが夢。活躍して、ファンの方に『この選手はいわき出身なんだよ』と言ってもらえる存在になれたらと思います。

正直、地元出身として受けるプレッシャーも結構あります。でも今は、そんなことを言ってはいられない。とにかく次のチャンスを絶対にモノにする。そして継続します」

▼黒宮選手をもっとよく知る4つのQ&A
Q1:休日はどんなことをしていますか?

A1:車で出かけるのが好きです。今までで一番楽しかったのは、大学時代に出かけた横浜ですね。中華街とか、あとは湘南の海にも行きました。

Q2:お気に入りの店は?
A1:小名浜にあるLaugh_by_chillというお店が好きです。雰囲気がよくて、ハンバーガーがめちゃくちゃおいしいんです。ベーコンチーズバーガーが特に好きです。

Q3:チームで仲よくしている選手は誰ですか?
A3:吉澤柊や米澤哲哉、嵯峨理久、関野元弥、宮本英治など、同期はみんな仲いいですね。CB陣も、ライバル関係でありつつもみんな仲よくしています。実は妹がいわきFCパークの中でアルバイトしていて、米澤のファンなんです。クラブハウスでお弁当を取りに行く時などに、ヨネを連れて妹のバイト先にちらっと顔を出してあげたりします(笑)。

Q4:お手本にしている選手はいますか?
A4:好きな選手はリバプールのフィルジル・ファン・ダイクですね。対人で負けないしヘディングも強く、パスやロングフィードも上手い。参考にしています。

次回もまた、いわきFCの選手達の熱いVoiceをお届けしていきます。お楽しみに!

(終わり)


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