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雲行きが怪しくなってきたと思ったら、つぎの瞬間には雨が落ちはじめ、どんどんと勢いをまして…
兄の浩二は西に行った。弟の重道は東に行った。西には明日はなく、昨日しかなかった。生物は暗…
おじいさん犬のトニーが知っていることといえば、10年昔のことだ。あのころ、トニーの家の隣に…
「先日の大風の止むころより、極楽鳥の羽がこのような命を宿したのです」 親王の言葉に、麗和…
奥の間に導かれた円儀が目にしたのは、人間の頭ほど大きさの、七色の光彩を放つ繭だ。かたちは…
剛毅な性格の円儀でも、麗和の死はさすがにこたえた。魂を抜かれたように床に臥する日々を送る…
麗和の声が、ここではない何処か別の場所より発せられたかのように聞こえる。天を飛ぶ神鳥のさえずりが、風にのって遥か下界の円儀のもとへ届く。床に入って夢の世界へと向かっていくときのような、自分が自分でなくなる瞬間に感じられる、あの不思議な心地よさ。 本当に自分は女を抱いているのか、いや自分自身が果たして本当にこの夜空の下に存在しているのかすらわからない。自分を構成していた原子が風と混ざり、大地と混ざり、渾然一体とした何かへと変わってゆく。 しきりに首を振って正気を保とうとして
小屋の外では風が吹き荒れ、木々を揺さぶっていた。円儀に抱きかかえられた麗和は、ただ暗闇の…
不意のひと言に虚を突かれ、言葉を失った円儀を尻目に、麗和はなおも続ける。 「山海経に五彩…
「苦労して日本まで戻ってきたんだから、こんなみじめな生活とはおさらばだ。お前に美しい衣を…
風の強い晩だった。やかましい虫の声が、この夜は少しも聞こえなかった。円儀の暮らす粗末な小…
そうこうしているうちにも、またいちだんと月日は進み、親王が三十歳を迎えた年の、秋の日のこ…
後年にいたっては、政争に敗れた王家の人間が、厄介払いとして仏門に入る、といったことが多々…
鏡子のいる天竺へ行ってみたい、という願いは、つねに親王の心のうちにあり、青い炎となって静かに揺れている。しかし、年月がすぎて、夢のなかで聞いた鏡子の言葉は、父、平城上皇のついた嘘を自分が信じた結果でしかない、という疑いをいだいた。 しょせん夢のなかの出来事なのだ、という気持ちを、いや、そうではない、別れを惜しんだ鏡子が、夢に現れたのだ、たしかに鏡子は天竺で暮らしているのだと、必死に思い直そうとした。 夢の中で聞いた言葉を信じることが、生きるための心の支えとなっていたのであ