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ケツァール

不意のひと言に虚を突かれ、言葉を失った円儀を尻目に、麗和はなおも続ける。

「山海経に五彩の文様をもち、五つの音で鳴く、鸞鳥(らんちょう)という鳥のことが書かれてる。『鸞鳥、雌を和と曰ひ、雄を鸞と曰ふ』」

「お前の名の謂れか」

「あなたは後世のことには疎いけど、江戸の頃の和漢三才図会にも記されてるの。そこに描かれた鸞の姿は、コスタリカに生息している、ケツァールという鳥にひどく似通っているそうよ。いにしえの神鳥のイメージに、南米の鳥の姿が重ね合わされた。ケツァールは、とても美しい鳥。生涯を樹のうえで過ごし、地上に降り立つことは滅多にないのです」

異国の生まれ故と深く気にかけることはなかったのだが、この女は変わり者だ。しかし今、滔々と、熱に浮かされたように、訳の分からぬことを話す眼の輝きは、昼間に会った、みこ法師のそれとそっくりだ。

黙り込んで思案している円儀をよそに、「すこし風にあたりたい」といってせがむので、その体を抱きあげる。病に冒された麗和の体はなるほど、鳥のように軽かった。

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