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いかにして反例を構成するか【一般のnについて】

2 以上の自然数 n に対して、実数成分の n 次正方行列に関する乗法に関して、交換法則が成立するとは限らないということを示すために、反例を一つ構成します。
 
数学において、命題が偽ということは、反例が一つあれば良いということですが、一般の n のときに、どうやって反例を構成するのかということを考えるときがあります。
 
今回は、行列について、よく使われる手で、反例を構成してみます。


二次正方行列についての反例

まず、$${n=2}$$ の場合について、反例を考えます。

$$
A=\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
3 & 4 \\
\end{pmatrix},\,B=\begin{pmatrix}
2 & 3 \\
4 & 1 \\
\end{pmatrix}
$$

この $${A,\,B}$$ について、交換法則が成立していないことを確かめます。

$$
AB=\begin{pmatrix}
10 & 5 \\
22 & 13 \\
\end{pmatrix}
$$

今度は、$${BA}$$ を計算します。

$$
BA=\begin{pmatrix}
11 & 16 \\
7 & 12 \\
\end{pmatrix}
$$

よって、$${AB\ne BA}$$ なので、$${n = 2}$$ のときに反例が見つかりました。

一般のnについてどうするか!

一般の $${n\geqq 3}$$ についても、反例を提示したいところです。ここで、$${n}$$ という一般の文字のときに、どうやって反例を提示するのかということが問題となります。
 
この問題を乗り越えるための一つの手として、行列を区分けするということを考えます。
 
行列を区分けしておいて、その一部に、既に知っている低次ときの行列を組み込むということをします。
 
以前にブログサイトに投稿した記事です。

クリックするとリンク先の記事へ移動します

 
区分けしておいて、先ほどの行列を一部に配置します。
そうすることで、一般の $${n}$$ についての反例となるようにします。
 

一般のときの反例

$${3}$$ 以上の自然数 $${n}$$ が与えられたとします。
 
このとき、次の二つの $${n}$$ 次正方行列が反例となります。
※ $${n\geqq 3}$$ という場合を考えているので、$${n-1}$$ は自然数です。
  

この二つの区分けされた行列が、交換法則の反例になっているのかを確かめてみます。
 

実際に計算

$$
\begin{pmatrix}
A & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
B & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
AB & AO_{1}+O_{1}O_{3} \\
O_{2}B+O_{3}O_{2} & O_{3}O_{3} \\
\end{pmatrix}
$$

ここで、$${O_{1},\,O_{2},\,O_{3}}$$ について、全ての成分が $${0}$$ なので、さらに計算ができます。
 
$${AO_{1}+O_{1}O_{3}=O_{1}}$$ です。
※ $${2}$$ 行 $${(n-2)}$$ 列の行列で、全ての成分が $${0}$$ だから $${O_{1}$$ に等しくなっています。
 
同じように、全ての成分が $${0}$$ の $${(n-2)}$$ 行 $${2}$$ 列の行列なので、
$${O_{2}B+O_{3}O_{2}=O_{2}}$$ となっています。
 
$${O_{3}O_{3}}$$ は、$${(n-2)}$$ 次の正方行列で、全ての成分が $${0}$$ です。
 
よって、

$$
\begin{pmatrix}
A & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
B & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
AB & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}
$$

今度は、行列の左右を逆にして乗法を計算します。同様の考察で次のようになります。

$$
\begin{pmatrix}
B & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
A & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
BA & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}
$$

 
ここで、$${2}$$ 次のときの反例だったことが効いてきます。
 
$${AB\ne BA}$$ なので、

$$
\begin{pmatrix}
A & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
B & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}\ne \begin{pmatrix}
B & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
A & O_{1} \\
O_{2} & O_{3} \\
\end{pmatrix}
$$

 
これで、$${n\geqq 3}$$ のときについても反例が構成できました。低次のときの例を、一般の $${n}$$ のときにも利用するときに、区分けをしておいて一部に組み込むということは、よく使う手の一つとなります。
 
それでは、これで今回の記事について終了します。


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