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行列式|AB|=|A||B|の証明を解説【行列の積について重要】

線形代数学で行列式を学習するときに、1つの行列をいくつかの区画で分割した区画を考えることをするときがあります。

このnote記事では、対角上に区画が並んだ行列について、その行列式を求める公式(定理)を証明します。

この記事で扱っている行列の成分は、すべて複素数の範囲内としています。この証明をするために、行列式についての1つの定理を使います。

それは、2つの p 次正方行列 X と Y について、積 XY の行列式の値 |XY|が、|X||Y| となるという定理です。この定理については、記事の後半で解説をしています。

また、上三角行列の行列式は、対角成分すべてで積をとったものになります。

今回のnote記事で証明しようとしているのは、上三角行列をブロック対角行列にしたものです。

上三角行列だと、1 行 1 列の行列である対角成分が対角上に並んでいますが、ブロック対角行列は、対角上に正方行列が並んでいるものを扱います。


重要な区画と行列式の等式

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1つの行列がこの図のように、対角上に2つのブロックに分割されていたときに、その行列式の値は、2つのブロックになっている部分の行列式の積になります。

対角上に2つのに分割されているときに成立することが証明できると、対角上に3つ以上の有限個のブロックで分割されているときについても、同じ手順の繰り返しなので、数学的帰納法から成立することが分かります。

そのため、2つのブロックに分割されているときについての証明を書いていきます。

先ほどの証明

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まず、定理「2つの p 次正方行列 X と Y について、積 XY の行列式の値 |XY|が、|X||Y| となる」ということを使って、はじめに与えられたブロック対角行列を図のように変形します。

この右辺に現れている3つの行列式の真ん中の行列式は、よく見ると、対角上に単位行列Eがあるので、対角成分はすべて1です。したがって、上三角行列の行列式なので、対角成分をすべて掛け合わせると行列式の値となります。

有限個の1の積なので、値は1です。1を掛けても値は同じため、求めたい3つの行列式の積は、2つの行列式の積ということになります。

そこで、残った2つの行列式について考えます。

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対角上に m 次と n 次の正方行列が並んでいるので、(m + n) 次の行列式を求めることになります。行数を対称群 S(m + n) で置換するという行列式の定義通りに行列式を表します。

ここで、対称群の置換という並べ替えに注意します。1 から (m + n) までの自然数を並べ替える操作が対称群の置換ですが、置換 σ∈S(m + n) で単位行列 E の 0 が成分となる部分や、零行列 O の成分が現れる項は、値が 0 になってしまいます。

そのため、σ(m + 1)、・・・、σ(m + n) がそれぞれ、m + 1、・・・、m + nとなっていない置換 σ について、その項は 0 となります。

つまり、σ(m + 1) = m + 1、・・・、σ(m + n) = m + n となっている置換 σ だけを考えれば良いということです。

このとき、σ によって現れるのは、単位行列 E の対角成分ですから、値はすべて1です。したがって、シグマ Σ 計算をするときに、1 から m までの並び替えを考えれば良いということなので、m! 個の項だけを考えることになります。

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先ほど述べたように、(m + 1) 行目から (m + n) 行目までの成分がすべて1となっている項だけを見るので、1はシグマ Σ の外へ出し、m! 個の項をすべて足し合わせることになります。

これらm!個は、1 から m までの自然数を並べ替える置換 σ に応じて1個ずつ出現するので、シグマ Σ の下の対称群の表記を S(m) としても、現れる項に変わりはありません。

そうすると、これは、添え字が 11 になっているブロックの行列の行列式です。最後の行列式も、同様に証明できます。

行数が E のブロックが絡んでくるところがすべて 1 になっているところ以外が 0 だから取り除くと、添え字が 22 になっているブロックの行列の行列式になります。

したがって、求める行列式は、図の赤色で書いている2つのブロックの行列式の積ということになります。

対角上のブロック行列の行列式たちをすべて掛け合わせるというものなので、覚えやすい公式です。

今回は、対角上に2個のブロックが並んでいるものについて証明をしましたが、3 以上の自然数 r について、対角上に r 個のブロックが並んだときは、左上から (r - 1) 個のブロックを1つと考え、右下の最後のブロックとで、2個のブロックが並んでいると考えれば、2個のブロックの場合に帰着できます。

数学的帰納法を使うと、結局、対角上に並んでいるブロックの行列式すべての積ということになります。

同様にして示せる内容

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一番はじめの行列式の変形をこのようにすると、真ん中に下三角行列ができます。

下三角行列の行列式も対角成分をすべて掛け合わせたものなので、真ん中の行列式が1となり、残った2つの行列式の積となります。

上で示した考え方で、結局、対角上にある2個のブロックの行列の行列式の積となります。
 
ブロック分割についての基本理論は、岩井の数学ブログというサイトで解説をしています。

 
それでは、ここからは、複素数を成分とする n 次正方行列 A と B の積 AB の行列式 |AB| が、行列 A の行列式 |A| と行列 B の行列式 |B| の積に等しいことを証明します。

【定理】行列の積ABの行列式|AB|=|A||B|

複素数を成分とするn次正方行列AとBについて、|AB| = |A||B| となる。

この定理を証明するために、まずこのnote記事で使う記号の説明をします。
n 次対称群を S(n) と表すことにします。この n 次対称群が、行列式の定義に関わってきます。

n 個の元(要素)から成る有限集合 P があったときに、P から P への全単射のことを置換 (permutation) といいます。高校数学の場合の数で学習するように、異なる n 個のものを並び替える方法が置換なので、n! 通りの全単射が存在します。

そのため、n 次対称群の元である置換の総数は n! 個となっています。

任意の t∈S(n) について、t は偶数個の互換の積か奇数個の互換の積で表すことができるということが証明されています。このことから、S(n) の各元 t について、次の符号が定義されます。

tが偶数個の互換の積で表されるとき、
sgn(t) = 1 と定義。
tが奇数個の互換の積で表されるとき、
sgn(t) = -1 と定義。

定理1

多くの線形代数学の本では、上の等式を行列式の定義としています。それから行列式の諸性質を導いていき、その結果、下の等式が成立するということを証明する流れになっています。

シグマ記号で和をとっている各項は、n 個の複素数の積で、複素数の乗法が交換可能ということと、全単射の逆写像も置換で、逆写像をすべて集めると S(n) に一致しているということから、下の等式が成立することを証明できます。

群論に慣れていると、この定理はほぼ明らかなのですが、そうでない場合は、結構理解に苦労する内容かと思います。

大学の数学では、線形代数学の講義とは別の講義で群論を学習するくらいですので、群論を知らない方にとっては、定理1は重たい内容かと思います。

定理1の証明まですると、かなり長い記事になるので、今回の記事では、あくまで |AB| = |A||B| を証明するときの要点の部分に焦点を当て、他の既に証明されている部分は証明無しで使うことにします。この定理1は、次の定理2の証明と、|AB| = |A||B| を証明するときの最後に使います。

定理2

定理1からさらに考察を進めると、この定理2が得られます。この定理2は、|AB| = |A||B| の証明で、始めの方ですぐに使います。

【定理】行列の積ABの行列式|AB|=|A||B|の証明

複素数を成分とするn次正方行列AとBについて、
|AB| = |A||B| となる。

<証明の解説>

まず n 次正方行列の積の定義に基づき、AB の各成分を (1, 1) 成分から (n, n) 成分までをシグマ記号を使って表しておきます。その AB という n 次正方行列の行列式を考えます。

次に、行列式の多重線形性を使って、|AB| を (n の n 乗) 個の項の和に変形します。

行列式の性質で、2つ以上の列が等しい行列の行列式の値が 0 ということから、値が 0 になっている項を除きます。

シグマ記号の中に書いている行列式で、2つ以上の列が等しいというときには、n 個の添え字のうち2つ以上が一致しているということです。

このような値が 0 になっている項を除外した残りの項については、n 個の添え字がすべて異なる状態になっています。

n 個の異なるものを一列に並べる並べ方は n! 通りです。つまり「1, 2, ・・・, n」を並び替えた全 n! 通りの項の和ということになります。

そして、シグマ記号の中の行列式の添え字が、対称群の置換によって移された表記になっているので、定理2を使って変形することができます。

そうすると、n! 個の項のどれも、シグマ記号の中に同じ行列式が現れるようになります。

シグマ記号の中にある行列式は、どれも |A| なので、分配法則を使ってくくり出せます。

そうすると、シグマ計算をしている固まりは、行列 B の行列式の定義の式を書き換えた、定理1の下側の式になっています。

したがって、|AB| = |A||B| となっていることが示されました。

行列式関連については、以下の note 記事たちで、様々なタイプを説明しています。

関連するnote記事たち

行列式については、内積と同様に、多重線形性をもちます。この性質も重要なので、一般のnのときと、2次の正方行列のときについて説明をしています。


行列式の余因子展開の求め方が分かれば、具体的な4行4列の行列を使って、練習すると、より理解が定着するかと思います。難しい証明はおいておいて、具体的な行列式の計算に焦点をしぼって説明をしています。



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