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「身体的健康だけでは不十分」福祉従事者からみる真の「しあわせ」SDGs ゴール3:すべての人に健康と福祉を

「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」(日本WHO協会訳)

すべてが満たされた本当の「しあわせ」とは何なのか。「健康」と「しあわせ」にはどのような関係があるのか。直接的な和訳表現がない「ウェルビーイング」は、現代日本においてどう表現・実現されるのだろうか。SDGs ゴール3:「すべての人に健康と福祉を」について考える我々は、福祉の現場で働く谷川涼子(仮名)さんに話を伺った。


「健康」とは何か。
「体だけではだめなんです。」健康について、谷川さんは語る。彼女は、看護師として、東北地方にある障がい者支援施設に10年以上勤務している。「心身に健康を保つことは、施設の利用者の方々にはもちろん、自分を含めたスタッフにも大切なことです。」心と体は連動している。病気や怪我があれば、気持ちに余裕がなくなり、逆に精神的ストレスが体の不調につながることもある。施設では、衣食住や医療設備は整っているが、利用者の精神的健康を維持することが課題であるという。「気持ちに余裕がなくなって、人を傷つけてしまう利用者もいます。特にコロナ禍では、ご家族に会えない、外出できないなどのストレスから、暴れてしまう方もいました。」このような現状から、施設では、スタッフと利用者の良好な関係の構築に力を入れている。利用者と適度な距離を保ちながら、親しみと敬意を込めて対応する。特に、家族や兄弟を持たない利用者にとって、担当のスタッフは、世界で最も深い関係の存在である。涼子さんをはじめとする施設のスタッフは、衣食住や医療的サポートはもちろん、利用者の心に寄り添う努力を日々続けている。

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「しあわせ」とは何か。

「誰かを愛し、愛される、また、大切な存在がいる、ということは、しあわせの大きな指標だと思います。施設の利用者さんの中には、自分の担当のスタッフの出勤を玄関で出迎えたり、手紙を書いたり、手作りのプレゼントを下さる方もいます。また、利用者のご家族にとっては、わが子が安全に、健康で、しあわせに過ごしている、ということがとても重要です。ご家庭では大変な介護も、うちの施設でお預かりすることによって、ご家族の負担を減らし、お休みいただけることもあります。このように、福祉施設は、衣食住や医療設備の他にも、様々な面で、利用者とご家族のウェルビーイングに貢献しているのだと思います。」

次に重要となるのが、ヘルスケアワーカーの健康と福祉だ。「我々スタッフにとっても、自分の健康と福祉を維持することはマストです。」10数年前にうつ病を患った経験のある涼子さんは、50歳を過ぎた今、「しあわせ」の意味について考え出したという。「福祉業界のプロとして、利用者の方々の体調の変化にいち早く気付いたり、迅速な対応で命を救う事ができた際は、看護師冥利に尽きます。でも、誰かを救いたいという想いだけではだめなんです。奉仕精神を持っていても、それに見合う報酬がなければ、福祉従事者の幸福度は下がります。」

ほんとうの「しあわせ」は、心身の健康や労働に見合った社会保障、私生活の充実など、様々な側面が組み合わさってはじめて実現されるのかもしれない。

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これからの日本の医療、福祉はどうあるべきなのか。

高齢化が進む日本において、医療・介護・福祉の未来はどうあるべきなのか。涼子さんは、社会におけるヘルスケアワーカーの扱いについて考える。「日本では、医療従事者と福祉従事者への待遇が、もっと平等になるべきだと思います。介護・福祉従事者は、医療従事者に比べて社会的地位が低い現状があります。もちろん、医療職は高い専門性や有資格者が求められるので、その分報酬なども高くなります。しかし、福祉の業界でも専門的知識は必要とされます。人のお世話をする専門家という見方をすれば、社会的立場も、報酬も、見直されるべきです。人の役に立ちたいという熱意のみを搾取する構造では、昔の私のように、体調を崩すヘルスケアワーカーも出てきます。」

同時に、涼子さんは、「目に見えない障がい・病気」についても言及する。「聴覚障害を持つ方が車いすマークの駐車場を利用したら咎められた、という話を耳にします。日本では、病気や障がいと言えば、目に見える身体的なものが注目されがちです。脳や心の病気など、一見しただけでは判別しづらいものも考慮できる社会をつくっていきたいですね。最近だと、車いすマークに限定されず、十字マークのヘルプカードも普及しています。誰にでも病気や障がいのリスクはあります。他人事で終わらせないようにしたいですね。」

大日寮車いす

涼子さんが働く施設での様子


最後に:
新型コロナウィルス感染拡大の影響で、医療、福祉の現場はさらに厳しい状況に追い込まれた。サービス提供者である医療、福祉従事者の健康やウェルビーイングも保護されてはじめて、より質の高いサービスの提供が可能になるのではないか。

ウェルビーイングという英単語の日本語訳は存在しない。あえて世界共通の定義を作る必要もないのではないか。私たちの幸福度を測る際、物質的に豊かであるのか、または精神的に満たされているのか、またはそれ以外の指標があるのかは、人によって異なる。
私たち1人1人が、自分にとって、大切な人にとっての「しあわせ」や「健康」のあり方を考える転換期に差し掛かっているのかもしれない。


〈記者:ぴなこ〉
国際エデュテイメント協会インターン生


参照:

公益社団法人日本WHO協会. 「健康の定義」.https://japan-who.or.jp/about/who-what/identification-health/, (参照 2021-02-15)

※本インタビュー内容は、弊社のSDGsをクリティカルに考える英語教材「Thinking Critically about SDGs」のSDGs ゴール1:Lesson4に収録されています。

「Thinking Critically about SDGs」では、中高生がSDGsを英語で学びながら、社会に対してクリティカルに考え、自分の意見を表現することができる教材です。「誰一人取り残さない」社会の実現に向けて、一人でも多くの方が社会を見つめ、考え、自分なりに意見を持つ、ことが重要だと考えています。本教材は、それらを習得できる教材です。

また、この度本教材については、”環境に配慮したFSC認証紙で書籍化のためのクラウドファンディング”を9月に実施することを予定しております。

ぜひ本教材の普及にご協力いただける方は、本note記事のシェアやクラウドファンディングページ(9月下旬公開予定)へのご支援をよろしくお願いいたします。

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