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綾瀬はるかも凄いけど麻生久美子が! --- 映画「はい、泳げません」レビュー ネタバレあり

本作、なかなか時間が合わずに観れないでいて、U-NEXTでは配信も始まったということで映画館で観ることをあきらめていたのですが、こちらの記事を読んで再度鑑賞意欲がムクムクと湧いてきたので久しぶりにキネカ大森を訪ねることにしました。

最近はシネコン以外だとキノシネマばかり通っていたのですが、久しぶりのキネカ大森、やっぱいいですねぇ。何がいいって、ロビーに溜まってる客の雰囲気です。まあ普通の映画好きの方々なんでしょうが、なんとなくツワモノ揃いというか、無頼な感じというか、鬼滅の刃でいうなら選別試験を受けに集まった剣士のようなちょっとピリッとした感じ。これはキノシネマにはまだまだない空気です。大森に来たという実感があります。

では、いつもの通り、公式サイトからあらすじを引用します。

大学で哲学を教える小鳥遊雄司(たかなしゆうじ)は、泳げない。水に顔をつけることも怖い。屁理屈ばかりをこねて、人生のほとんどで水を避けてきた雄司はある日、ひょんなことから水泳教室に足を運ぶ。訪れたプールの受付で、強引に入会を勧めて来たのが水泳コーチの薄原静香(うすはらしずか)だった。静香が教える賑やかな主婦たちの中に、体をこわばらせた雄司がぎこちなく混ざる。
その日から、陸よりも水中の方が生きやすいという静香と、水への恐怖で大騒ぎしながらそれでも続ける雄司の、一進一退の日々が始まる。
泳ぎを覚えていく中で雄司は、元妻の美弥子との過去や、シングルマザーの恋人・奈美恵との未来など、目をそらし続けて来た現実とも向き合うことになる。それは、ある決定的な理由で水をおそれることになった雄司の、苦しい再生への第一歩だったーー。

映画『はい、泳げません』公式サイトより引用

公式サイトのあらすじがこんな感じですので、現在プール通いでバタフライの習得に四苦八苦している私としてはあるあるネタとしてもいろいろ楽しめそうだと思って臨んだわけですが…。

ここからは完全にネタバレですのでご注意を。

まず、上記の公式サイトのあらすじの誤りを指摘しておきたいのですが、主人公の雄司が水泳教室に通い始めるのは「ひょんなことから」ではありません。冒頭、彼がいかに水に恐怖心を抱いているかが語られますが、そんな彼が自らの意志で水泳教室に足を運びます。まあ、そこでコーチの静香になかば強引にプールにひきずりこまれてしまうのは「ひょんなこと」なのかもしれませんが、彼がなぜ水泳を習おうと思ったのかが、この物語の大きな軸となります。

雄司と元妻の美弥子の間には息子がいました。その息子は川遊びの最中に誤って流されてしまうのですが、泳げない雄司は無我夢中で川に飛び込んでも息子を助けることができず、それどころか自らも岩に頭をぶつけて川の中での記憶を一時的に失ってしまいます。

ここがこの話のつらいところで、妻の側からしてみれば最愛の息子を目の前で流されたショックもあり物凄く悲嘆にくれるわけですが、大事な所の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっている雄司は、上手く美弥子と一緒に悲しむことができません。それがやがて二人の溝となって別れることになってしまうわけです。

この息子を助けられなかったことと、息子を失ったのに上手く悲しめなかったこと、この二つがずっと雄司の中で大きな悔いとなって彼を苦しめています。

雄司は美弥子と別れた後、シングルマザーの奈美恵と出会い将来的には共に暮らしたいと思っているわけですが、彼女の息子は失った自分の息子と同じくらいの年。同じ過ちは犯せないということで、彼は水に対する恐怖を克服すべく、スイミングスクールの門を叩くのです。

最初それこそ水面に顔を付けることすらできない雄司ですが、静香コーチはなかなか優秀で雄司の泳ぎもそれなりに上達してきます。この指導の過程はなかなかリアル、というかとてもわかりやすく参考になるところが多かったです。

で、上達してくると水の中でいろいろと考え事をする余裕が生まれてくるわけですが、人間というのはおかしなもので、なにも考えずにいると突拍子もないことが頭に浮かんできたりしますよね。

私も苦手なバタフライの練習をしているときはタイミングやらフォームやらで忙しく頭を使っているのですが、もはや何も意識せずとも泳げる平泳ぎで泳いでいたりすると頭が空っぽにはなるんですが、それが「無の境地」かと言われるとそんなことはなくて、色々と余計なことや自分が思いもよらなかったことが頭の中をよぎっていきます。

おそらくこれは皆さん寝る前だったり、トイレだったり、通勤電車に揺られているときなんかに同じような経験はされていると思いますが、特に水泳の場合は、体の力を抜いてぷかぷかと泳いでいると頭の中もひときわ柔らかくなっていく気がするんです。それがこの映画の前半にすごくいい感じに描けています。わかるわかる!という感じです。

そして、やっぱり脚本上手ですね、確かに水の中で雄司には余裕ができた。ところがその空っぽの頭の中に飛び込んでくるのが、同じ水の中の失われた記憶、つまり息子を失った時の記憶です。その記憶を前にして、雄司は一度はひるんでしまうわけですが、それをどんなふうに克服していくのかがこの作品の見どころということになります。

私も今まで生きてきて凄くつらい出来事が何度もあったわけですが、それを踏まえてこの作品を見ながらつくづく思うことは、夫婦であっても本当に同じタイミングで同じように悲しんで同じように泣くのって本当に難しいよなってことです。この映画の元妻のセリフに「ただ一緒に泣いて欲しかった」という言葉があるんですけど、私もほとんど同じ言葉をカミさんの口から浴びたことがあります。

男女の差なのか育ちの差なのかはわかりませんが、自分を抑えられなくなるほどの波が押し寄せるタイミングは人それぞれで、それが一致しなかったからといって後ろめたく思う必要はないはずなんですが、渦中にいるとなかなかそれがわからない。雄司の場合、それが訪れるまでに時間がかかってしまったがために、いろいろなすれ違いが起きてしまう。その微妙な人間関係が、この作品はすごく良く書けているなと感心しました。

それにしても特筆すべきは麻生久美子さんの演技です!

まーあすごい。もはや怪演と言ってもいいくらいのすごい演技。
確かにこの映画は綾瀬はるかさんの華やかな水着姿と明るいキャラクターが支えている部分が大きくて、彼女がメインの作品であることもよくわかるのですが、この作品の麻生さんの凄みには言葉を失ってしまいます。

麻生さん、rentaのCMを見てもわかる通り、2面性のある女性を演じるのが得意なのはわかってます。わかってますが、今回はもう別格。

麻生さん演じる美弥子は普段は関西弁のサバサバした女性で別れた旦那とも友だち関係で飲みに行けるんですが、実はやっぱり子供を失ってどこか壊れてしまっていて、一緒に泣いてくれない雄司も許せずにいる。そんな女性です。

問題のシーンは中盤の雄司と美弥子の居酒屋の場面。カウンターで並んで飲んでる姿を真正面から撮ってます。この場面では最初サバサバモードで飲んでいる元妻がだんだんと壊れた一面を見せてきて、終いには旦那に食って掛かってしまうのですが、ここの麻生さんの演技のキレを見ていただきたい。ものの数十秒ですが、私は冗談抜きで震え上がりました。すげえです。彼女が「泣くな、はらちゃん。」というドラマで演じた越前さんは私の中では生涯不動のマドンナなんですが、それを演じた麻生さんにここまでビビらされるとは、恐れ入りました。

一方の綾瀬さんですが、ほん…………っとに華がある。素敵です。水着姿もとても良く似合っているし、水泳のインストラクターとして十分に説得力のある肉体も素晴らしいし、泳ぎのフォームも美しい。本当に競泳の経験があるのかと調べてみたのですが、特に無いようですから運動神経がいいんですね。

彼女のようなインストラクターがいるなら私だって通いたい…と思った、そんなあなたに現役プール通いじじいから一言忠告しておきますと…

確かに美人のインストラクターはいます!当然スタイルも抜群です!

ですが、そういうインストラクターのクラスにはこの映画と違って私のようなじじいもわんさか習いに来てるはず。ライバル多い!

しかも、そういうスクールにはあなたより若くてイケメンのインストラクターもいることをお忘れなく。

まあそういうわけで、理想は理想、現実は現実ではありますが、とはいえ我々がたるんだ腹をつまみながら美人インストラクターの夢を見るには最高の映画ですw

キネカ大森ではまだ終映未定っぽいので、映画館でご覧になりたい方はぜひ。

それにしても長谷川博己がしてたあのゴーグル、すごく視界が広そうなんだけど、どこのメーカーだろう。度付きあるのかな…。


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