”いい意味で”より苦手な言葉がある。 ーーー 映画『犬も食わねどチャーリーは笑う』レビュー ネタバレあり
先日靴ひものロンドを観た際に予告編を観て、最後の岸井ゆきのさんの啖呵が素晴らしすぎたので、観に行ってしまいました。
その啖呵というのが、↓これ。
”いい意味で”って何なの!? 私ホントにそれ嫌い!”
ひゃー、相変わらず岸井さんステキです。
というわけで、公式サイトよりあらすじです。
私は夫婦円満の秘訣は、互いに不満を溜め込まないことだと思っているわけですが、うちのカミさんはなかなかそれが苦手らしくて、しばらく機嫌良さそうな日が続いてるなと思うと必ず内心でなにか溜め込み始めていて、最終的に何かのタイミングで爆発してしまうわけです。
まあさすがに四半世紀も共に暮らしていれば、そろそろかな?という予感も覚えるようになりましたし、爆発したらしたでああまたか、と思うだけなのですが、こういうのってうちのカミさんに限らず世の主婦は皆さんそんな感じなんでしょうか。
と思わずにはいられないほど、裕次郎と日和のぎくしゃくしていく過程は上手に描かれてます。まあ、主婦の不満あるあるはかわいいものと感じますが、ぐつぐつと日和が不満を煮詰めていく感じを岸井さんがとても上手に演じてました。
この映画を観ていてすごくいいなと思ったのは、変な誤解をしないでほしいのですが、旦那がホームセンターの副店長なんですけど、割と身体を使うガテン系の仕事なのにいい意味で泥臭さが無いというか、ちゃんと小奇麗な生活をしてるのがいいです。
奥さんがコールセンターのオペレータなんですが、確かに二人の稼ぎを合わせればこれくらいの生活できるかもしれません。ここで旦那が普通にサラリーマンだったりすると、なんか急にオシャレ上級国民風な空気が流れかねないところですが、この夫婦の場合旦那さんと奥さんの収入って意外と拮抗してるんじゃないかなと思える。だから家事を奥さん任せにしている旦那に腹が立つという構図にすごく説得力があるなあと。(繰り返しますがホームセンターの副店長の給料が安いとか、そういう話をしているのではありません)
で、色々あって終盤に大事件が起こるわけですが、この大事件からの物語の決着の付け方が、ちょっと強引すぎるかなと思いました。
離婚届けを叩きつけて出て行ったカミさんを夫が追いかけて、ついにはカミさんの職場になだれ込んでいくわけですが、それをきっかけに周囲の人間(=コールセンターのオペレータ)まで一斉に本音をぶちまけ始めます。ここがどうしてそうなるのかよくわからない。
いや、そこまでは映画的な展開として許すとしましょう。ただ、肝心の裕次郎が日和に謝る場面で「俺は自分から逃げていた」とか「自分に向き合っていなかった」とか言い出しちゃう。そんでもって「いい意味でって何なの!?」とか勇ましく言い放ってた日和なのに、このドタバタの空気の中でなんとなく裕次郎を許しちゃう。
これどうせまた揉めると私は思います。
そもそも私は「いい意味で」も嫌いですが、私はそれ以上に最近よく聞く「自分に向き合う」という言葉が嫌いです。
その理由は、なんとなく聞こえはいいしわかったように聞こえるけれども、何ひとつ具体的じゃないから。私が「自分に向き合え」と言われてもどうしていいのかさっぱりわからないからです。
ここで「何をどうするのか」が提示されることなく、テンションが上がるにまかせてゴミ袋を追いかけてしまうのでは、同じ過ちを繰り返すだけだと思うんですけど、どうなんでしょうか(ゴミ袋を追いかける理由はこの作品の大事な部分なので、ぜひ劇場でご覧ください)。私が唯一スッキリしなかったのはそこでした。
役者さんですが、香取さんと岸井さんの夫婦の雰囲気はすごくいいです。特に岸井さんは魅力全開。この人ははにかんだ時に見せるクシャッとした表情がすごくいいですね。
あと岸井さんはなんといっても次の↓これが楽しみ!
香取さんの芝居も今まで見てきた中で一番良かったと思います。中盤に夫の後輩の結婚式があるんですが、ここがなかなかいいシーンで、凪待ち以降彼の芝居をずっと気にしてきましたが、ようやく彼の内面に持っているものが芝居に活かされ始まったと感じました。できればあと10キロ痩せてほしい。普通の人を演じるにはガタイが良すぎます。
あと、的場浩司さんは良い感じになってきました。面白い役者になりそう。
香取さん、岸井さんのファンは見て損しないと思います。
楽しい映画でした。
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