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【感想】だが、情熱はある 9話

この記事はドラマのネタバレを含みます。

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 お笑いは常にお茶の間と共に進化した、というのは言い過ぎだろうか。ゴールデン帯にバラエティーショーは付きもので、お正月になると漫才の特番が多く組まれる。

 それだけ、食べることとお笑いは近い場所にある。思えばこのドラマは、最初から「食事」をお笑いとうまく組み合わせていた。
 家族の団らん、先輩後輩での飲み。山里(森本慎太郎)の級友は常に食べているような友だちだし、彼女となった丸山花鈴(渋谷凪咲)もスイーツ好きの女の子だ。若林(髙橋海人)の大学時代はうどんで彩られ、恋人となる橋本智子(中田青渚)はクレープ屋さんで出会った仲だった。

 ただ、食べてばかりはいられないのだ。南海キャンディーズがM-1の決勝に上がったとき、その光景を見ている人が映し出されたが、誰も食事をしていなかったのが印象的だった。
 私には、(行儀が悪いかもしれないが)M-1は夕食時のイメージがあった。漫才番組は「この人たちが見たいから今お風呂に入っちゃおう」とか、いろいろ考えて見ていた気がする。
 常に食事を近くに、そして丁寧に描いてきたこのドラマ。真剣勝負の舞台の上で闘う彼らを、応援する人たちは食べながら見ることはできない。

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 今回のハイライトを挙げるなら、私はエクレアのシーンであると言いたい。

 オードリーはM-1予選にて、2回戦敗退というつらい現実を突きつけられる。若林が家に帰ると家族が高級エクレアを食べていた。残っていないと言われるが、部屋に戻った若林に、祖母である若林鈴代(白石加代子)がエクレアを持ってくる。

 そして、もらったエクレアを窓に向かって投げるのだ。そして、罪悪感からか食べられる箇所を食べる。ここに、全てが詰まっているような気がした。

 丁寧に食事を描いてきた中で、このシーンは印象的だ。食べるものを自ら手放す。食事とお笑いが近い場所にあることを考えるなら、お笑いを捨てようとする行為にも思える。
 それでも、捨てきれない。エクレアを食べることで、お笑いから逃げられない若林の心境と、食べないと生きていけない苦しさがひしひしと伝わってきた。

 そう考えるなら、山里もどうだろう。丸山が差し入れでくれたものをがっついて食べる。ゆっくり食べるわけでも、嬉しそうに食べるわけでもない。ただ、自分の不甲斐なさと向き合うように、甘いものを頬張る。お笑いがどんなに苦しく、つらくとも、食べなきゃ生きていけないのだ。

 まさに売れていこうとする二人のそばに、甘いものを持った二人はいない。芸能界で生きていくことは、そういうことなのかもしれない。

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   見どころがありすぎて、感想も一部分しか取り上げられていない。言葉を尽くせばこのドラマの面白さが伝わるわけじゃない。それは漫才を言葉で説明することはできず、見なきゃわからないのと同じような感じもする。

 丁寧に描いてきた食事のシーンは、やがて二人の出会いに繋がる。彼らはいつ、あの食事にたどり着けるのだろうか。終わるのがもったいないくらい、すてきなドラマを見つけてしまったなぁ。

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