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映画の質感が随分古いなと思っていたら、世界大戦後のイギリスが舞台だった。昔の映画のフィルムを観ているような、ゆっくりとした音楽と映像に、渋くてどこか寂しさを感じさせる。宣伝のポスターは、名優ビル・ナイがあまりにもでかでかと映っているので、彼が主人公なのかと思っていれば、地味な青年ウェイクリング(アレックス・シャープ)が転職初日の駅で電車を待っているところから物語が始まる。

ウィリアムズ(ビル・ナイ)は青年の配属先の上司で、役所の市民課で働いている。歩く大樹のようなウィリアムズに、色んな人間が敬意を払い挨拶をする。彼と一緒に働く職員たちは流されるままに、日々、何の感情も無く仕事をしているように見える。そこへ、地域に住んでいる女性が近所の公園の整備について問い合わせて来て、役所の中でたらい回しにされてきたと抗議しに来る。課の先輩はまず別の部署に問い合わせるべきと助言し、入ってきたばかりのウェイクリングに別の部署へ案内するよう言い(押しつける)、彼は喜んでと勇みながら女性を案内する。

診療所で座るウィリアムズは、患っている病気の進行が芳しくないことを聞かされ、自宅に帰っても呆然としてしまう。息子には少し話せないかと言っても、息子は歯切れ悪く言い訳をして取り合わない。後日、ウィリアムズはバッグを持って旅に出る。

海沿いのカフェ、脚本を書いているという陽気な男サザーランド(トム・バーク)が、寝られないんだとウェイトレスに言う。ウィリアムズは彼に話をしたいと申し出、よかったらどうぞと男に睡眠薬の瓶を差し出す。有難いと陽気に話す男に、次から次へと幾つも瓶を並べるので、男が言葉を失っていると、自殺するためじゃない、寝られないから持っていたが、自分には必要がなくなったのだと言い、続けて、医者に余命半年だと言われてしまい、どうすればいいのか分からず、貯金を半分下ろして出てきてしまったと語る。心底同情した男は、夜の街にウィリアムズを連れ出す。

ピアノバーで歌手が歌っている。何かリクエストが無いか客に聞く。ウィリアムズが手を挙げ、古郷スコットランドの民謡「ナナカマドの木(The Rowan Tree)」をリクエストする。彼はピアノに体を預けるように立ち、命を振り絞るように歌い上げる。


私の中では、ピアノ伴奏に合わせて歌い上げるシーンが印象的で、涙のピークでした。それから、ウィリアムズは余命を全うしようと行動し、周りの人間に影響を与え始めます。物語としては複雑では無く、あくまでいち老人の晩年を切り取った作品です。

彼の行動は人々の心に功績として残りますが、彼は青年に「偉業を成し遂げたわけじゃない」「これからどうなるかは分からない」と語ったことが、寂しさを感じますが、悲観的でもなく、何とも言えない気持ちになります。

原題の「生きる」には「毎日を一生懸命生きる」とともに、転じて、「死ぬ気になれば何でもできる、行動できる」「生きている間にやらなければならないことがある」「必死で生きていないことは死んでいるも同然なのだ」というメッセージを感じさせます。

映画館には多くのおじさまがいらっしゃいました。黒澤明さんファンであろうと思いますが楽しそうでした。私ももっと年齢を重ねたとき、違った印象を受けるのだろうと思います。

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