小説 アンドロメダから僕は来た(第二校) 最終話
四国山地のど真ん中にあるじいちゃんの家からは天の川がくっきりと見える。彼方には、僕達のアンドロメダ星雲も肉眼で確認出来る程星の綺麗な所だ。
じいちゃんとおばあちゃんは僕達二人の為に盛大なお別れパーティーを開いてくれた。
この味をしっかり舌に焼き付けておこうと、僕達二人はカレーとシチューを何杯もおかわりし、お腹いっぱい食べた。
食事の後、僕達四人は並んで縁側に座り、満天の星空を見上げた。
「真夏、アンドロメダはどれだい?」
おばあちゃんが尋ねる。
「あそこに見える星雲、あの中に私達の星があるんだよ」
真夏ちゃんが指差す。
「そうかい」
しんみりと聞いているじいちゃんとおばあちゃんの横顔を見たら、僕は別れるのが辛くなった。
「ねえ、じいちゃんとおばあちゃんも一緒にアンドロメダに行こうよ」
一人乗りの僕達のUFOに四人乗れない事を知りながら僕は言った。
「ワシ等は死ぬまでここで暮らすよ、なあばあさん」
じいちゃんはおばあちゃんと顔を見合わせて笑った。
「アンドロメダからも、天の川銀河は良く見えるんだよ、見る度におばあちゃん達の事思い出すからね」
真夏ちゃんはおばあちゃんの肩に頭をもたげている。地球での最後の夜は静かに更けて行った。
アンドロメダに向けて出発の朝が来た。僕と真夏ちゃんはUFOに乗り込み、コクピットに並んで座った。
いよいよ出発の時だ。座席が一つだけのUFOに、じいちゃんは食卓の木の椅子を改造して真夏ちゃん用の座席を取り付けてくれた。
「おばあちゃん、おじいちゃん、必ず遊びに来るからね」
真夏ちゃんの目から大粒の涙がポロポロ溢れた。
「じいちゃん、おばあちゃん、本当に色々ありがとう、おかげで僕達はアンドロメダに帰る事が出来る、この恩は絶対に忘れないから」
泣きたい気持ちを堪え、僕はじいちゃんの目をしっかりと見て言った。
「おう、ワシ等は大丈夫じゃ、ばあさんと二人四国と秩父を行ったり来たりして、楽しく暮らしている。いつでも遊びに来い、楽しみにしとるぞ、達者でな」
手を振るじいちゃんのシワだらけの顔を見た時、僕の涙腺は完全に崩壊した。
「じゃ行くよ、じいちゃん、おばあちゃん、さようなら、お元気で」
僕はコクピットのカバーを閉じた。反重力装置をオンにするとUFOはフワリと浮き上がった。
空高く上がるに連れ、じいちゃん家の青い屋根はどんどん小さくなる。じいちゃんとおばあちゃんは、UFOを見上げて手を振り続けている。
僕はUFOをじいちゃん家の上空で三回旋回させた。そして反重力装置を全開にし一気に上昇した。じいちゃん達の姿はすぐに見えなくなり、宇宙空間に達すると窓から四国と日本の形がくっきりと見えた。
「いよいよ地球とお別れだよ」
美しい水の惑星、地球がみるみる遠ざかって行く、
「おばあちゃん、おばあちゃん...」
僕は隣で泣き続けている真夏ちゃんの肩を力強く抱き寄せた。
コクピット内の気温が急激に低下し、恐ろしい程の寒さが襲って来た。僕はUFOを自動運転モードに切り替え、じいちゃんに貰ったフカフカの羽布団に真夏ちゃんと二人で潜り込んだ。
ここから時空ワープして、アンドロメダ迄二日程掛かる予定だ。僕達は道中暖かい布団の中で二人抱き合って過ごした。
◇
僕達は無事アンドロメダに帰還した。
真夏ちゃんとその後どうなったかって、気になるかい?
真夏ちゃんは今家に居ないんだ。え、まさか別れちゃったのかって、フフフ、そんな訳ないだろ、
アンドロメダに帰ってから、僕達はすぐに結婚した。そして僕達の間には目のぱっちりした真夏ちゃん似の可愛いベイビーが生まれたんだ。
ベイビーが二歳の誕生日の時、真夏ちゃんは僕に、
「私、この星にもアイドルグループを作りたいの」
と言って、この星で初めてのアイドルグループ、ADM(アンドロメダ)46を結成したんだ。
グループのリーダーになった真夏ちゃんは地球でのアイドルの経験を生かし、ADM46を瞬く間に人気グループに作り上げた。ADM46は今アンドロメダ星雲ツアーの真っ最中で、真夏ちゃんは忙しく星から星へと飛び回ってるんだ。
真夏ちゃんの人気は地球に居た時よりも凄かった、だから僕は最初やきもちを焼いたりした事もあったんだ。
でも真夏ちゃんは家に帰ると、ただいまと僕とベイビーチューにチューをしてくれる。大人気アイドルの真夏ちゃんは、家では僕とベイビーの真夏ちゃんなんだ。どうだい?羨ましいだろ。
多忙な真夏ちゃんに代わり、家事と子育ては僕がやってる。家事は嫌いじゃないし、子育ても楽しいから、僕は充実した毎日を送っているよ。
主夫業の傍ら、僕は在宅ワークでUFOの設計デザインの仕事もしているんだ。僕が初めてデザインした「KT-1」と言うUFOは、近未来的でとても斬新なデザインで、UFO業界で高く評価された。
KT-1は昨年「UFOオブザアンドロメダ」を受賞して爆発的にヒットした。最近では僕がデザインしたKT-1をあちこちで見かける様になったんだ。
「と、ここまでが僕のお話。これで終わりかと思うだろ?でもこのお話は、もう少し続きがあるんだ。聞いてくれるかい?」
◇
僕達はベランダから夜空を見上げていた。僕と真夏ちゃんの間には可愛いベイビーがちょこんと座っている。遥か彼方に、星粒の様に小さな天の川銀河が見えていた。
「ああ、じいちゃん達元気かなあ。ベイビーあそこに見える天の川と言う銀河のはずれに、地球と言う名前の青くて美しい星があるんだ。その星に君のジジとババが住んでいるんだよ」
「ジイジ、バアバ」
ジジとババの意味を理解したのだろうか、ベイビーは両手を振って笑いながら言った。
「ツアーが終わったらしばらくオフになるの。ねえ、ベイビーと一緒に地球に行こうよ、おばあちゃん達きっと喜ぶよ」
「そうだね、孫を会わせてあげたいね」
その時だった。
「ガガガガガピー、、も、ガガガ、もし、ザザザ」
リビングにある時空変換無線から変な音がし始めた。
僕が時空変換無線のチャンネルを回すと、
「もしもし、もしもし?」
とじいちゃんの声がする。
「じいちゃん、じいちゃん、僕だよ!」
「おーやっと通じたわい、元気にしとったか?お主が帰ってから無線を色々いじくってたんじゃ、直った、おいばあさんや、直ったぞ、ワハハ」
無線の周波数はじいちゃん家に置いて来た壊れた無線機のものだった。
「バッテリーとコンデンサーを取り付けたら直った」とじいちゃんは言う。だけどそんな原始的な部品で時空変換無線を直せるなんて、じいちゃんやっぱりワイルドだ。
◇
僕達三人はKT-1に乗り、地球に向かった。新しい反重力装置を備えた最新型UFO、KT-1は乗り心地も良くスピードも早い。
僕達は時空ワープし天の川銀河の太陽系まで来ると、美しい瑠璃色の地球が目前に迫って来た。
「じいちゃん、おばあちゃん、ただいま!」
僕はガラガラと音がする懐かしい引戸を勢いよく開けた。
「おかえり、よう来たのう」
じいちゃんとおばあちゃんが出てきた。
「まあ!なんて可愛らしい」
おばあちゃんは僕達のベイビーに手を伸ばした。
「ジィジ、バァバ」
ベイビーは、ニコニコとおばあちゃんに手を広げた。
「よいよいよい、おお、いい子だねえ」
おばあちゃんはベイビーを抱き上げて嬉しそうにアヤした。
「さあ、長旅お疲れじゃろう、入った入った」
懐かしい匂いがするじいちゃん家のちゃぶ台には僕の大好きなご馳走が並んでいた。テレビでは広島vs巨人戦が放映されている。
これはまずいぞ、と僕は慌ててテレビのチャンネルを変えようとした。
「巨人戦は巨人を応援する事にしたから安心せい。でも他の試合はもちろん広島じゃがな」
とじいちゃんは笑った。
「お前等が乗って来たあの船、カッコいいのう」
「KT-1と言う最新のUFOだよ、僕がデザインしたんだ」
「おお!さすがじゃ、前の円盤みたいな古臭いのより断然カッコイイぞ」
とじいちゃんはニヤリと笑って親指を立てた。
じいちゃんの家から、賑やかな笑い声と、カレーとシチューの美味しそうな香りが漂っている。
そして庭には三台の軽トラが並んでいた。じいちゃんの軽トラ、おばあちゃんの軽トラ。
そして僕達が乗って来た軽トラの形をしたUFO。
KT-1
その正式名称は、
「ケイトラン1号」
アンドロメダから僕は来た 完
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