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パンの名前 3.

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

先日、日比谷と渋谷の店のプライスカードをつくり直していて、そこに併記するフランス語表記にかなり手こずった。

「あれっ、これは複数形になるのかな」

「これをフランス語表記にできるのか?」

といった具合。
いまでは別に日本語表記さえあればフランス語は要らないのではないか、それか英語か中国語の方が必要なのでは、とも思うけれど、このプライスカードのフランス語表記は京都の1軒目をつくったときからの名残りといえる。

1軒目の内外装をご覧になったことのある方ならおわかりになると思うけれど、あの店をつくったときにぼくが狙った客層というのは、フランス人をはじめとした外国人のお客様だった(だったら英語表記でしょ、という身もふたもない意見もあろうかとは思うけれど)。
当時、外国人のお客様だけでも成立する店にできないものかと思っていたぼくは、多少の誤字脱字があったとしても、彼らからすればよくわからない日本語表記だけのお店よりは選択してもらえる動機の一つになるのでは、とも考えた。
もちろんコンセプトや演出上、フランス語表記があちらこちらにあった方が良いといった意図もあった。

あのころも、これは複数形になるのか、じゃあこっちにもSが付かないとヘンだよな、とあれこれ調べながら書いてはフランス人の常連様が来店された際に「この表記は間違っていませんか」と確認をしたり教えてもらっていた想い出がある。
前置詞や複数形による変化、その単語が男性名詞なのか女性名詞なのかといったことにつまづくのはいつものことだけれど、そんなつまづきの一つに「デニッシュをどう表記しよう?問題」があった。

今回、表記をDanoise ○○(ダノワーズ 「デンマークの」)にしたのは、一般的にデニッシュと呼ばれているのだから素直にそうしようと思ったからだけれど、当時はDanoise か、Viennoise(ヴィエノワーズ「ウィーンの」)じゃないのか、とかなり迷った。
フランスではクロワッサンやパン・オ・レザン、ブリオッシュといったものを総称で Viennoiseries(ヴィエノワズリー)と呼ぶし、パンにまつわるフランス語表記でよく目にする言葉もles pains et viennoiseries (パンとヴィエノワズリー)だから、やはりViennoise ○○だと思い、そうすることにした。

いまではどちらでも間違いではないと思うけれど、あのころというのはそんな何でもないようなことが一々気になった。
若かったなぁと思う。

つづく


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