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空想サンドウィッチュリー 3.

※こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

久しぶりに空想サンドウィッチュリーのロケをやった。これで、ちょうど10回め。
1回「本屋」
2回「4月の魚(poisson d’avril)・桜の木」
3回「こどもの日」
4回「サバイバルゲーム場」
5回「京町家」
6回「海」
7回「駅舎」
8回「暴れん坊将軍」
9回「ディンケル畑」

ちなみに7回めの「駅舎」は、唯一ぼくがリクエストをしたロケ地。

で、今回のお題は「熱帯植物園」。
4回めの「サバイバルゲーム場」、8回めの「暴れん坊将軍」という本当に困ったお題に比べると今回はそれほど難題でもない気がしてくる。
とはいえ熱帯と聞いてぼくが想像するのはアマゾンとかインドやネパール、インドネシアくらい。ということは今回の具材などに使うものは香辛料の効いたもの、辛いものというイメージになる。
いわゆるエスニック料理の要素が必要になるけれど、ぼくにとってこのジャンルは完全に守備範囲外で、これまで特に意識したこともなければ自ら選択して食べに行ったことさえない。

この企画はサンドイッチに仕立てないといけないけれど、だからといって東南アジア辺りの料理を挟んだだけでは驚きもなければおもしろくもないし、特に印象にも残らないものになる気がする。
何を作るかは後で考えるとして、ぼくはとにかく先に食材を決めることにした。
熱帯地方、アマゾンといえば・・・ワニ。
そういえばワニの肉は美味しいと聞いたことがある。でもワニの肉が普通のお肉屋さんで売られているとも思えず、とりあえずアマゾンつながりでamazonで検索してみると、なんと売っていた。
使い途は決めていなかったけれど、一応バナナの皮も一緒に購入。

時間や予算も限られているため試作をするわけでもなく、いつものようにぶっつけ本番。おまけに今回は、マンゴープリン以外は初めて作るものばかり。それでもいざ作りはじめると、いろいろとわかってくることがある。
ぼくが普段エスニック料理を作ることはまずないけれど、作ったことのない料理も賄いで作ってきたという経験がこういったときに少なからず役立っているのが自分でもよくわかる。それは技術的なことでなく、手探りで作っていく過程の中で気づく、だから美味しくなるのか、といった部分。

使用する食材や香辛料などは国やジャンルによって違うけれど、美味しい料理にするための考え方や過程、目指す着地点は似ている部分が多い気がする。これが恐らくコツで、これがわかると大抵のものはそれなりの形になるとぼくは思っている。
それでも今回、ワニの肉だけは慎重になった。届くまで見たこともなければ食べたこともなかったし、何よりも用意したものが少量のため、もし失敗したら文字通り後がない。

知識としてわかっていたのは、脂肪が少なくクセもない。
鶏肉よりは味があり、唐揚げなどにも向いているということくらい。
唐揚げでは固くなる可能性もあるし、焼くにしても身がパサパサになったら美味しくないからオーブンは使わず、少ない脂肪を補うように焼く調理法にしようと考えた。
味はエスニック料理らしくするために香辛料を効かせたソースを少し塗って、最後にその部分だけ焼いてみる。
これなら単にエスニック料理の調理法をそのままやるのでなく、フランス料理の技法の良さも取り入れた上で美味しいエスニック料理になるだろうと考えた。

フライパンにバターを溶かし、バターがムース状(泡)になればワニの肉を焼いていく。火加減はバターがムース状を維持するように中火くらい。スプーンで何度もバターをかけながら焼いていく(アロゼ)。バターの泡の中で火を入れる感じ。
火が通りかければ肉を取り出してアルミホイルで包み、焼いた時間と同じだけ温かい場所で休ませる。
これに作っておいたエスニック味なバーベキューソースを塗り、表面を上火だけで焼く。

みんなで少しずつわけて食べてみると・・・ワニの肉は驚くほど美味しかった。

まったくというほど興味がなかったエスニック料理だけれど、やってみるととてもおもしろい。「エスニック料理はハマる」とよく耳にするけれど、食べる人だけでなくきっと作る側の人もハマる。
ヨーロッパの一流シェフたちにも香辛料に凝る方がおられるけれど、とてもよくわかる気がした。それにパン屋さんも勉強すれば、サンドイッチなどに使えるものがきっとたくさんある。
こういった機会をいただいたお陰で気づくことはたくさんあるし、とても勉強にもなる。何よりおもしろい。

そういえばこの空想サンドウィッチュリーは、あと1回か2回やって最終回となり書籍化するらしい。
終了すると思うと少し寂しい気もするけれど、「つづける?」と訊かれれば、それはそれで辛い。

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