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les pains et viennoiseries

パン屋さん時代に考えたこと、やってみたこと、使ったもの 5.

ぼくはフランス産の小麦粉や発酵バターなど高価な材料を基本的には使用しなかったけれど、それは単に売価が高くなるからという理由で、そこは善し悪しといった話でもない。
より良い材料(素材)が手に入る時代や環境になれば一流や腕の良い職人さんが それを使いたい、もっと美味しいものを作りたいと考えられるのは自然なことだし、売価は高くなるだろうけれどそれができるのも自信と人気がある証拠とも言える。
それに昨日書いたクロワッサンの折り込みにフランス産発酵バターを使用するといった方向性は、料理人やパティシエの素材重視といった考えに近い。

日本ではクロワッサンやブリオッシュもパンという大きな枠で括られるけれど、以前にも少し触れたようにフランスにおいては「les pains et viennoiseries (パンとヴィエノワズリー)」 と分類され、クロワッサンやブリオッシュといった卵が入ったり加糖生地のものは、ヴィエノワズリーに分類される(パンオショコラやパンオレザンも)。

日本のお菓子屋さんでも特にフランス菓子にこだわるお店の中には、パンも出されているところがあるけれど、その場合クロワッサンやブリオッシュ、パンオショコラ、パンオレザンくらいまでで、バゲットやカンパーニュまで作られているお店はほとんどないと思われる。
これは、お菓子屋さんにはパイがあり、デトランプ(生地)でバターを包んで折り込むといったパン屋さんに共通する技術や機器があるといった事情もあるけれど、本当のところは「ヴィエノワズリーはお菓子屋さんの仕事、パンは別。」といったパティシエさんの認識や考えからだと思う。
だからパティシエさんは、お客さんに便宜上「パンも作っています」と話されるだろうけれど、内心では「ヴィエノワズリーも作っています」と思われているに違いない。

そしてこのヴィエノワズリーとパンの境界線こそが、ぼくの考える「料理とお菓子」と「パン」との決定的な違いになる。
つまり、ぼくが「必ずしも素材至上主義とは思わない」と書いているパンは、ヴィエノワズリー以外のパンのこと。

これを書いていて思い出したことがあった。
昔、パティスリー界の重鎮、西原シェフから依頼され、当時グルニエ・ドールさんのスーシェフをされていた加藤さん(現 ラ・クラッシックのオーナーシェフ)が長期休暇を利用されパンの研修に来られていたことがある。
その際、西原シェフと雑談をする中でぼくが「お店でパンは出されないんですか?」と訊ねると「店でやるなら、まずヴィエノワズリーをやりたいですね」と仰っていたことがあった。

つづく

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