
使ってみた。 『100均の霧吹き』
パン屋さん時代に考えたこと、やってみたこと、使ったもの 21.
昨日、大きなドゥコンの話を書いたので、今日は小さな話を。
パン屋さんやお菓子屋さんの動作にdorer(ドレ)というのがある。
「そろそろクロワッサンにドレして」とか、「このパンはドレしますか?」とか。
生地に卵液を塗る動作のことで、そこで使用する道具が刷毛になる。
今ではシリコン製の刷毛を使用されているお店が多いと思うけれど、じゃない方を使っていると刷毛の毛が抜けることがある。
気づけば良いけれど、これがクロワッサンなどの表面に付いたまま焼成してしまうと引っ付いたままになり、ここでも気づかずお客さまが購入されると当然クレームにつながる。
「クロワッサンに、髪の毛が付いていた」
これ、結構あるのではと思う。
昔、ぼくもこういったっことがあると仕事を止め、交換するクロワッサンあるいは返金のお金を持って、お客さま宅まで伺ったことが何度かある。
「これ」と見せてもらったものが、 ”これは髪の毛でなく刷毛だな” と自信を持って思うことがあっても無論それは口にはせず、平謝りに謝って交換なり返金をさせていただいた。
それが髪の毛であろうが刷毛であれ、異物が付いている時点でこちらの落ち度なのだから当然のこと。
その後、気をつけていても毎日100個、200個と作っていると、稀に同様のことが起こる。そこで、こういった心配のないシリコン製の刷毛が登場することになる。
ところがシリコン製のものは通常の刷毛に比べ、早く上手に塗るのが難しい(ぼくだけか)。
お菓子に塗るならともかく、最終発酵を終えたクロワッサンなどはとても柔らかいので慎重に塗ることになる。それも朝の一番忙しい時間帯に数多く焼くことを思うと、新人の子や不慣れな人だとなかなか困難なのではと思う。
そこで、何か他に早くキレイにできる方法はないかと厨房を見回したとき、ぼくの目に止まったのが霧吹きだった(なんてことない100均でも売っているアレ)。
試しにこれを使ってみることにした。
卵液はパン屋さんだと卵黄+水+塩少々、あるいは全卵+水+塩少々かと思うけれど、卵白が入ると粘度で霧吹きの目が詰まる可能性があると考え、前者で作った卵液を霧吹きに入れ、天板に並べたパンにかけてみた。
あっという間に塗れる(かけれる)上に、こうして焼成したものは驚くほど均等でムラなくキレイな焼き色だった。
デメリットとしては、刷毛で塗ったときよりも天板が汚れるくらいなので、ベーキングシートを敷くなりすれば済む。
何よりも朝の忙しい時間に多くのクロワッサンを焼くのであれば、かなり早く効率的だと思う。
何年か前、大阪の先輩パン職人さんの結婚式に参列した際、たまき亭の玉木さんと同じテーブルで隣同士になったことがあった。
そこで「分割、どうされていますか?」など話が盛り上がったので(ぼくは内心、超緊張していた)、もしかしたらガチ職人さんである玉木さんから叱られるかなと思いながら、この霧吹きの話をしたら「それ、良いですね。うちも真似させてもらいますわ」と言われた。
きっと冗談で言われたのだと思うけれど、なんだか嬉しかった。
イタリア料理店 Germoglio(京都)のオーナーシェフ、天谷さんがお店を開業するときに挨拶へ来てくれた際にも、「天谷さん、めっちゃええ方法思いついて」と、この話をしたら「西山さん、ぼくはイタリアにいるとき、お菓子屋さんでも少し働いたんですが、それと同じことやってましたよ」と教えてくれた。
手を抜こうと考える人間の思考は、万国共通ということか・・・
やるな、イタリア人。
つづく