紙の本とインターネット
出版不況だ、書店の廃業だの、巷で言われるようになってからも結構経つ気がするけれど、何年ほど経ったのだろう。
かつて、特例で守られてきた本屋さんだけれど、Amazonなどネット通販や電子書籍の登場は本屋さんもさることながら、それを守っていた出版社さえも易々と不況へと追い込んだ。
日本で最初に紙の本が作られたのが6世紀とあるので、かなり長い歴史がある。
その間に技術革新が繰り返され、現在の印刷、製本技術に行きついた。
こうして技術は進化を遂げてきたけれど、その原形は大昔からほとんど変わらない。つまりそれだけ本の形状や在り方は完成度が高く、そこに疑問を抱く人さえいなかったのだろう。きっと傘と同じくらいの大発明だったのだと思う。
ところが、ついに登場した類を見ないほどの大発明 インターネットは、世界中にパラダイムシフトをもたらした。またそれがインフラとして整備されはじめると今度は、電子書籍が現れる。インターネットありきではあるけれど、これもまた大発明だった。
本とは、こういうものである。
そんな当たり前すぎて、誰も疑問すら抱かなかったところへ登場した電子書籍は、いわゆる「車輪の再発明」をやってのけたのだと思う。
インターネットによる影響は出版物やその業界だけでなく、世の中にある多くの有形無形のものを変容させた。テクノロジーの急速な進歩によって、人々の行動様式がこれほどまで様変わりすることに改めて驚きを覚える。
しかし、人は往々にして急激な変化を望まないのも世の常である。めちゃくちゃ歴史が長く、紙の本に慣れ親しんだ人たちの中には電子書籍に抵抗を見せたり、拒絶したくなる人が一定数現れるのも自然な反応だと思う。
「消えゆく町の本屋さん」にしても活字離れなど複合的な要因があるだろうけれど、その一端にインターネットや電子書籍があったことは間違いない。
けれど、それを嘆く人たちの生活もまた、インターネットの恩恵を享受していることを考えれば、その是非は一概にはいえない。
そして、こういったテクノロジーをはじめとする技術は不可逆的に進歩し続けるものであり、それは世の中にあるほとんどの技術、モノに当てはまるとぼくは思っている。
とはいえ、それまであった他のモノがなくなってしまうのかといえば、もちろんそんなこともない。
それが好きな人もいれば、趣味の人、文化の一つと捉える人たちもいるだろうから、そういった人たちの手によって残っていくとは思う。だけど、今後それらがマジョリティになることはおそらくない。それは、昔のように紙の本や本屋さんが増えることは今後もないだろうと、ぼくが思っているということでもある。
誤解されると困るけれど、ぼくは本屋さんや紙の本は好きだし、決してそれらが消えてなくなることを望んでいるわけではない。
ただ、懐古主義などの感情論でなく、時代に合わなくなったもの、即さなくなったものが淘汰されていゆくのは自然なことだと捉えている。もちろん出版物に限った話でもなければ、良い悪いといった話でもない。
現状、ぼくは電子書籍の使い勝手に決して満足しているわけではないけれど、目まぐるしい技術の進歩を鑑みれば、それも早々に解消されるに違いない。
そしてそんな電子書籍だって、いつかは過去の文化となる日がやってくる。
特定の信仰はないけれど、やはりぼくは、万物は流転すると思っている。
世は諸行無常なのである。
つづく
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