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納税する君と僕のために 3.

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

2度目の税務調査からしばらく経ったころ、東京から京都へ戻り店へ行くとスタッフから「西山さん、税務署の方が来られていましたよ。なんか、封筒を置いて行かれました」と言われたので見に行くと、例のわずかな追徴課税の納付書に黄色の付箋紙が添えてあり、そこには手書きの文字で応援のメッセージが書かれていた。
ぼくはすぐ、あのとき最後に言葉をかけて下さった年配の税務調査官の方だと確信し嬉しくなった。
このことを税理士先生に伝えると「納付書を郵送でなくわざわざ持って来られたこと、手書きのメッセージまで添えられていたというのは初めて聞きました」と、かなり驚かれた様子だった。

商売を始めると必要経費をまるで自由に使えるお金かの如く「経費、経費」と言う人がいるけれど、自称のものもきっと多い。
あれもこれも必要経費と思うのも言うのも自由だけれど、それらの判断は税理士先生に助言を求めることはできても最終的な判断は税務調査官次第になる。

ぼくのお師匠さんの中には、近所の本屋さんから毎週配達してもらうサンデー、マガジン、ジャンプ、スピリッツを必要経費と言って領収書をもらっていた方もおられたし(完全にアウトだと思う)、お店をされているお師匠さん仲間が集まり税務調査の話題になったときには、調査に入られた人が「○十万円持っていかれたわ。やっぱり抜かんと損やわ(笑)」なんて会話を耳にしたこともあった。
訳すと「追徴課税で○十万円支払うことになった。でも脱税した額の方が多いから、やはり脱税しないと損になる」ということだけれど昭和の終わり頃、この時代というのは、やはりいろんな面でゆるかったのだと思う。

税務調査の流れとしては、お店やオーナーへ直接でなくまず顧問の税理士先生へその旨が伝えられ、そこからぼくらへ連絡が来る。
商売をやっているので必要であれば、日程だって調整をしてもらえる。
来られる税務調査官は1名(あるいは2名)、過去3年間分を2日間調べられる。
ここで何かしら問題があると判断されると引き続き過去5年、悪質だとなれば7年と遡って調査されることになる。
と、これが一般的な「はじめての税務調査」だと思う。

ところがぼくに近い世代、下の世代の人であっても税務調査においては、なかなか経験することのない恐ろしい思いをした強者が何人かおられる。

「予告なしでいきなり店に来られた」

「いきなり7人で来られた」

「初めてで7年間分、遡られた」

「税務調査が半年間も続いた」

「店でなく、家にまで段ボールを持って来られた」

「税務署に呼び出され、取り調べ室みたいな部屋で何時間も調べられた」

「危うくニュースに実名が出る基準まで行くところだった」・・・

もう、それってマルサのレベルじゃないの?と思うようなエピソードが次々と出てくる。
我がごとでないから傍で聴いている分には小説や映画のようでおもしろいし、自分にはできない経験だと思うと少しばかりの羨望を感じなくもない。

ぼく自身がそういった経験もなければ、今後も恐らくないので詳しいことはわからないけれど、その状況を少し想像してみただけでもいくつかの懸念が思い浮かぶ。
不足分の追徴課税は当然として、これに延滞税、利子、加算税も加わるし、悪質とみなされれば重加算税という重い罰にもなる。
また、それらが本来あったはずの利益や収入と見直されるのであれば、その期間に伴う所得税や住民税(延滞税も含め)も変わってくる筈なので、その分も遡り支払うことになるのでは、とも推測する。

昔、ぼくのお師匠さん仲間が話されていたような昭和の脱税額>追徴課税なんてことは、いまや恐らくないし「こんなに払うことになるくらいなら、初めから真面目に納税しておけば良かった」と、きっとなるに違いない。

税務署を舐めちゃいけない。

これも少し前に書いた経営の話につながるけれど、「それ(料理やパン、お菓子)を作るのに、そんなに高額な設備や道具って本当に必要ですか?」といったことを思うことがある。
それが合法な必要経費や節税のつもりであったとしても現金(キャッシュ)の流出であることに他ならない。もし安全経営のために現金、内部留保を残すことを重視するのであれば、だからこそきっちりと納税すべきだとぼくは思うし、それが合法な節税であったとしてもやはり無駄遣いはすべきでないと考える。

これも独立した元スタッフの子たちに伝わるといいな、と思い書いてみた。


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