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今夜、すべてのバーで 3.

※こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

若い人があまりお酒を飲まなくなった理由を「時代が変わった」と言ってしまえばそれまでだけれど、きっとそういうことなんだと思う。
時代の何が変化し、いつごろから世の中がそんな雰囲気になったのかと考えていたら、一つ思い出した言葉がある。

「夜カフェ」

もう何年前のことかも覚えていないけれど、一時期どの女性誌を開いてもこの何とも微妙な夜カフェなる言葉を散見した。
「昼は喫茶店あるいはカフェでお茶(コーヒー)、夜はやはりお酒でしょ」といったそれまでの一般的な習慣を破壊するトリガーとなったのが夜カフェだった気がする。
この言葉は何とも微妙なせいか、ぼく自身記憶が曖昧なことを思うと言葉そのものは短命に終わったに違いない。それでも夜にお酒でなくお茶(コーヒー)という雰囲気だけは定着したように思えた。

他にも時代の変化と共に変わってしまったとぼくが思うことの一つに「お酒の似合うヒーローがいなくなった」ということがある。
これをぼく的に直訳すると松田優作さんがいなくなってしまったということになる。小学生のころには、キカイダーや仮面ライダーといったフィクションの中に生きるヒーローがいたけれど、これが中学生にもなると実在するぼくにとってのヒーローが現れる。それが松田優作さんだった。
ぼくら世代の男子の多くが憧れ影響を受け、とにかく何から何までカッコよかった。これが少し上の世代の方になると恐らくその対象がショーケン(萩原健一さん)になる。

ぼくが19のときにお世話になったお師匠さんから「ショーケンに憧れて板前になったやつがいっぱいおった」と聞いたことがあった。
これは、萩原健一さんがドラマ「前略おふくろ様」で板前さんを演じられたことによる影響で、昔のスターやヒーローには多くの人にこれほどまで影響力があった。
いまなら木村拓哉さんぐらいか・・・それなら深刻な人材不足のパン業界や飲食業界のために木村拓哉さんか福山雅治さん、向井理さんあたりに職人役でドラマをやってもらえるのが一番手っ取り早い気もするな。

松田優作さんから連想するものの一つにバーボンがある。
本当に惜しまれ早逝されてしまったけれど、その人生の後期にはワインに凝っておられたという話も読んだ。それでもぼくの中では松田優作さん、お酒とくれば、バーボンのイメージが強い。
若いころ、ぼくらバカな男子が集まってお酒を飲もうというときには、当時流行りだった缶チューハイやビールをみんなが持ちよる中、ぼくだけがバーボンを持って行ったことがある。
それがどんなお酒なのかも知らず、酒屋さんのご主人に「バーボンをください」とだけ言って初めて買ったお酒だった。
友人らに「何を飲んでいるの?」と訊かれたときに「バーボン」と言いたかっただけということもあるし、優作さんがバーボンって言っているんだから男は黙ってバーボンだろ、くらいのことを本気で思っていた。

匂いだけで倒れそうになるほど臭いとしか思えなかったし、40度もあるアルコールを下戸であるぼくが飲んだらどうなったのかは書くまでもない。
それでも涙目になり、前後不覚になりながらも飲もうとしていたのは、松田優作さんへの憧れに他ならなかった。

やはりいまの時代、若い人たちのお酒離れの要因の一つには、お酒の似合うヒーローの不在があると思えてならない。

つづく




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