シェアしよ!【短編小説】2000文字

1年生にはルールがあった。
白いスニーカーじゃないといけない。カバンは黒いリュックじゃないといけない。髪の毛が肩より下は1つに結ばないといけない。スカートは膝より下じゃないといけない。下校時に飲食店に寄ってはいけない。など。
校則にはない謎の伝統のルール。
上級生に目を付けられたくないので1年生のときはこのルールを守っていた。

2年生になり、胡桃くるみは赤色のスニーカーに変えた。
紺色で白いリボンのセーラー服に赤色のスニーカーはよく映えた。
柚子ゆずはカバンを赤色のリュックに変えた。
大きくて真っ赤なリュックは小柄な柚子を華奢に引き立てた。
ももは髪の毛をツインテールにした。
赤いリボンの飾りゴムが耳の上ではねる髪を束ねている。
3人だけじゃなく、2年生のほとんどの生徒がルールから解き放たれて変身した姿となっている。
この3人は同じクラスで仲良くなり、次のルール解放を楽しみにしている。

「この学校に合格したらね、帰りにイマムラのビッグパフェ食べるのが夢だったの。」
新緑の季節は中等部の校庭周りが人気の休憩スポットだ。
手入れされた桜や欅、桂の木々が木陰を作り、いくつかのベンチで2,3年生がお弁当を食べている。
胡桃はお弁当に入っていたオレンジの皮を剥きながら言った。
「柚子はねー、伊太利亜のスーパークアトロピザがいいなー。あ、京都のこばやしやの抹茶パフェおいしそー。」
お弁当を食べ終えた柚子は京都のガイドブックを眺めている。修学旅行に行った部活の先輩から譲り受けたようだ。
「あたし、お腹いっぱいで今は考えられないよぉ。でもぉ、行くなら明日?みんな部活休みだから行けるんじゃなぁい?」
桃は片方のツインテールの髪をくるくる指に巻きつけながら、紙パックのジュースを一口飲んだ。
「ピザはー?」
「ピザは土曜日の部活帰りにしようよ。じゃあ、明日はイマムラだね。」
胡桃はルール解放が待ち遠しかった。

イマムラのビッグパフェは数人で分け合って食べる前提で作られている。
たっぷりの生クリームとバニラアイス。そこにチョコレートアイスやイチゴミルクアイス、チーズケーキやプリンがドッキングし、ブルーベリーソースやマンゴーソースで彩られている。
店員さんがトレイではなく手で持ってきた。大きな花瓶のようなガラスの器の底には、コーンフレークが敷き詰められている。後から店員さんが取り分け用の小皿とスプーンをトレイにのせて持ってきた。
「いただきます。」胡桃は手を合わせてた。
「いただきまーす。」柚子はプリンを1つ小皿に取った。
「いただきまぁす。」桃はマンゴーソースのかかった生クリームを口に運んだ。
アイスがしみこんだコーンフレークにスプーンが届く頃、柚子はピザを食べに行く計画を考えていた。

3年生になる頃、スカートを切ってさらに短くする生徒が現れる。
その姿は桜の満開と共に現れたかと思うと消え、次に姿を見たのは紫陽花が色づこうとする頃だった。
3人は久しぶりの再会を喜び、変わりゆく日常に戸惑いながら、取り戻した学校生活を楽しんでいた。
もっと一緒に分かち合えるはずだった楽しみは、なんとか来年に思いをつなげている。中高一貫の女子校なので来年も3人は同じ学校だ。

「またイマムラのビッグパフェ食べたいな。」
赤色のスニーカーは茶色のローファーにかわっている。
「イマムラさー、閉店したみたいよー。伊太利亜はもうスーパーサイズ扱ってないってー。」
「いつでもねぇ、行けると思ってたのにねぇ。」
真っ赤なリュックはいつの間にか柚子の身体にぴったりと馴染んでいた。
桃はゆるくパーマがかかった毛先をくるくる指に巻き付けている。
「なんだか楽しみが奪われてくみたいだよ。」
「そういえばー、1組のー名前忘れちゃったー可愛い子でー、帰りに彼氏が近くまで迎えに来てたんだってー。」
「どこで出会ったのかなぁ?いいなぁ、彼氏欲しいなぁ。」
6年間女子校のため、学校の外で出会わなければいけない。
「それ知ってるよ。電車で声かけられたみたいだよ。」
校則でも伝統ルールでも男女交際に関するルールはこの学校にはない。

「大山くんから文化祭に誘われたよ。入場者限定で1日目になったよ。」
「柚子はねー、後夜祭行くよー。1人だけ外部の連れ参加OKなんだってー。」
「珍しいよねぇ。後夜祭に連れ参加OKってぇ。あたしは2日目だよぉ。」
中等部と同様に高等部の校庭にもいくつかベンチが置いてあり、この時期はハナミズキと紅葉の色彩を楽しむことができる。
「リョウくんねー、そろそろキスしたそうだよー。柚子はいいけどさー。」
「えぇ!あたしはもうちょっと待ってもらおうかなぁ。胡桃はどうするのぉ?」
「お先にどうぞ。」
3人に彼氏のような存在ができたのは2学期が始まった頃だった。
「あのねぇ、日曜日にたーくんちに行くんだけどぉ、おみやげ何にしたらいいかなぁ?」
「え!その日は家の人いるの?この前、お母さんがまつばやの栗ようかんにハマってるって言ってたけど・・・。」
「桃すごーい!おみやげどころじゃないじゃーん。桃ならちょっと派手な下着の方が、リョウくん好きそー。」

3人は大山亮太りょうたを分け合って、違う楽しみを見つけていた。
彼はシェアされているとは知らない。

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