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雨は今日も、降り続けている(いちびり一家⬜︎観劇記録)

私は彼女が嫌いだった。
嫌いに、なりたかった。
あの頃も、今も、この先も。
存在しない彼女を肯定する好意を抱くことなんて、まっぴらごめんだ。


見えない道の先から足早に現れた三人の女が、私について語っている。私は私であることを否定される。続いて、ここには何もないということをただ、突きつけられる。

そして、あの日の記憶が蘇る。
雨は、確かに降っていたのだ。


彼女は、困難な状況をいつも誇らしげに語っていた。動物園に行った時も、サンドウィッチを食べる時も、映画を観る時も、いつもそんな話ばかりしていた。

それが、彼女の道のりだった。
私は逃げることばかりを提案した。
なんの迷いもなく、ただ生きていくことを勧めた。でもきっと、彼女は知っていたんだろう。

長いだけのロープで繋がれた関係が、新たな女の登場で境界線へと変化していく。一人の女はただ力に従い、さらに一人の女はもどかしさに悶えていても逃れることが出来ずにいる。新たな女は傘をさして確認する。

「雨は、降っていました」

私が、私でないことを、私が私であるが為にしてきたことを、誰もが認められないでいる。
死は、私を除いた全ての人々に許されている。もしも「実感すること」が出来たなら、私もそこに飛び込むことができるだろうか?その時、私は、私でいられるのだろうか。


彼女がいなくなってから、
彼女が”死んだ”と聞かされてから
どのくらい時が経っただろうか
私は未だ私のまま、私を否定され、ないものであり、ふわふわと、揺れている。


誰かが彼女を称賛している。
誰かが彼女を”理解して“いる。

私は唾を吐き捨てる。


それは、彼女ではない
それは私ではない
彼女では、ない
私ではない
彼女で




傘を



傘をさしていた。
雨が降っていたから。

彼女は私と私だけの世界の中で
微笑んで
きっと大丈夫だよって

いった
夢のなかで


私は誰よりもきっと
この先ずっと
必ず

彼女を嫌いになる。




雨は今日も、降り続けている。



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この文章は以下作品の観劇記録です。本当に素晴らしい上演をありがとうございました。


現代地方譚11「郷と土のはなし」プログラム
いちびり一家ロ
トライアウト演劇公演『テトテトテ』

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