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留学生盗難後②

盗難後二日目
 9月16日土曜日、盗難の翌日。眠い目をこすりながら、はっきりしない脳をフル回転させるべくベッドの横に置いてあるコップ一杯の水を流し込む。洗面所に行き、顔を洗い、ユニットバスのトイレに腰掛け、大きなあくびと共に用を足し終え、シャワーを浴びる準備に入る。何一つ違いのない私のモーニングルーティーンにここで亀裂が入る。シャワー中に音楽をかけようといつものスマホ充電スポットに私のスマホがないのだ。あ〜そういえば、スマホ盗まれたんだった。ここで気付く鈍感な私のスマホ盗難生活が始まったのである。幸いなことに古いスマホも持ってきていた私は、当分の間そのスマホを使うことを決意しながら、スマホ2号で音楽をかけ、いつものルーティーンに戻るのであった。ホストマザーにいつも朝一番に聞かれる“como le fue?”、どうだった?という質問に対し、開口一番で笑いながら携帯を盗まれたと伝える私。彼女にとっては最悪な朝の始まりであろう。かわいそうに、ごめんねと続ける彼女に何があったかを伝えながら朝ごはんを食べる。次々と現れるホストファミリーも会話に混ざっては、一ヶ月ほど住んだ私が一度も聞いたことがない汚い言葉が飛び交う。あのクソ野郎、ち○こ野郎、クソだな、F#CK。びっくりしながら笑う私に釣られ、みんなで笑う。警察についても期待をするなと言われ一度解散をした。しばらくして、留学ディレクターがホストマザーに連絡をしてきた。どうやら私の相方のスマホのありかが分かったらしい。技術の進化は素晴らしいものである。私も幸いスマホの製造番号やシリアルナンバーがわかったのでエレディアにあるOIJに盗難届の情報更新のため繰り出すのであった。
 
OIJ エレディア
 相方と合流した私が見せてもらった彼女の携帯のありかはサンホセのAguilaという名の中央市場に近いところであった。ネットで調べるとゴリゴリの闇市であるAguila、どんな人にその場所を伝えても危ないと渋い顔で返される。銃を所持しているOIJの係員でさえ“俺一人ではいかんな”と言わせるほどの場所に我々のスマホは売られているのだ。サンホセのOI Jと比べるとずいぶんと小さな建物の中で盗難届の完成を待つ我々にもう一人のディレクターから連絡が入る。実際にAguilaに行って自分のスマホを目視で確認しようではないかというのだ。“ちょっと待て、危ないんじゃないのか”と遮る私にディレクターの彼女は“OIJはどうせ何もしないんだから、私もあまり行きたくないけど貴方たちが行きたいならサポートをする”と。行くとしてもディレクターと相方と私とあまり強面な人がいないメンバーだったため、あまり乗り気ではない私とは裏腹に、相方は行く気満々であった。経験が一番とわかっている私は二つ返事で“OK”と闇市へと足を運ぶのであった。
 
サンホセ
 昼食を済ませた我々はすぐにUBERに乗り込み、昨夜の熱気まだ冷めやまぬサンホセへ向かっていった。サッカー好きの運転手さんと会話が弾む中、何をしに行くのか聞かれ、起こったことを伝えるとかわいそう、ごめんねと一言。そしてやはり今から行く場所へ行くことをおすすめされなかった。到着すると、今回も“cuidado”と一言伝えられ、気を引き締めながらに車を後にした。ディレクターはまだついていなかったため人通りの多い通りで彼女を待つ我々。中央市場から一本入っただけなのに垣間見える治安の悪さを横目に持ち前の楽観主義でなんとかなるだろと相方と楽しく会話を続けること十数分。ディレクターから警察を連れて行くというメッセージに心躍る我々。ドラマのような潜入捜査を期待し、待つこと数分、マウンテンバイクにまたがる二人の警察官とディレクターが現れる。絶対に休日ジムを楽しんでいたであろうディレクターと短パンの警官が自転車に跨ってくる姿はとてもシュールであったが、笑うと何が起こるかわからず笑いを堪える我々。自転車をそこら辺に置いてやってきた警官二人とディレクター、そして携帯を盗まれた二人で縁を作り道端で話をし始めるのはさながら、日本のおばちゃんが繰り広げる井戸端会議のよう。作戦はこうだ、アジア系の顔をしているディレクターと私が一緒に闇市に入り、あたかも新しい携帯を探しているように見せかけ、盗まれた私ともう一人の携帯を探す。見つけたら外で待機している警察に連絡し、店を閉めさせ周りに人が逃げないようにブロックしながらOIJに電話をし、彼らに携帯を押収してもらうというものだ。しかしどうやら潜入捜査には法的、そして安全面で難があるようなのである。やはり闇市はギャングに関係しているらしく、報復が怖いディレクターは怖いと言いながら初めての経験に目を輝かせている。ただ法的問題でもし私たちが違う携帯を報告した場合虚偽報告で我々に問題があるというのだ。さあどうなるかとしていると道の反対側で盗難が発生。やはり危ない地域のようだ、警官は銃に手をかざしながら走っていく。彼らがいない間にどうするか話をするが答えが決まらない。帰ってきた警官はディレクターに携帯を渡し、弁護士と話すことを勧められる。全く同じことを言われる我々。もう一度サンホセのOIJに行くことを勧められ、警官に別れを告げ渋々とUBERに乗り込みOIJに向かう我々であった。

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