バターにまつわるエトセトラ
82歳一人暮らしの実チチ。面倒くさくなくて美味しいからと朝ごはんはトースト派だ。トースターに入れればすぐに焼けるし、鍋いらず。お皿も1枚で済むからだそうだ。母が亡くなる前はごはんに味噌汁、梅干しに納豆、ぬか漬けだったらしく、一人暮らしになった当初は、手順を娘の私に習い、食べていた。しかし、この歳になるまでなにも家事をしてこなかったので、味噌汁が冷めてしまっただの、ごはんを用意していなかっだの、すべてがそろってできたてで食卓に並んでいたのは、すごいことだったんだなと実感したそうだ。
朝は眠くてぐずぐずしているし(夜中にトイレで何度も起きる高齢者のためなおさら〜)、パパッとなにかをお腹に入れて目をさますのにも、トーストはうってつけらしい。
最近、料理やあとかたづけの食器洗いの面倒くささに、昼ごはんまでもトーストにする時もしばしばあるらしい。そんな時はチーズトーストにしたりジャムを塗ったり、ベーコンのせたりなど、飽きないように工夫をしていると自慢していた。あれやこれや自分で工夫するのはボケなくていいし、ほほぅやるね、とほめて伸ばす作戦を実行しておいた。
年金暮らしで貯蓄もない彼の生活はまーまーカツカツで、固定費を安くするにはどうしたらいいのかと、これまた自分で工夫をしているようで、電気代だの水道代だのを気にしていた。毎日食べるパンもしかり。安くて美味しい、ボリュームもちょうどいいのはこれだという食パンを決めているとのことだった。
固定費を気にする割に、トーストに塗っているのがバターなのが気になり、安いマーガリンを勧めたが、そこは譲らない。
「バターは栄養食だから、これは必要経費」
とのことだった。82歳一人暮らしはじめて半年くらい。ここは譲らないようだ。母の生前からふたりともバター派だったようで、マーガリンは食べないそうだ。
以前にここに書いたように彼はストック王のため(→こちらでどうぞ)、バターも今、使っているものの他にもうひとつ冷蔵庫に在庫がある。なのに先日、さらにもうひとつ買おうとするので「ストックがあるじゃない」と言ったら、「あれはいつも食べてるのじゃないから」という。
バターは雪印と決めているらしいけど、昨今のバター不足で他のメーカーのものしか買えないことが何度かあったそうだ。だから、雪印はみかけたら買ってストックするのだそうだ。
バター君であり、ストック王なのだ。
そのバター君、買おうと手にしたバターが無塩だったので「それじゃないよ」と教えたら「え、これでしょ。雪印」と言う。それは無塩バターだというと、わからない顔をする。バターには無塩と無塩じゃないのがあって、普段たべているのは塩入っているやつなんじゃないかと言っても、どうやらピンと来ていない。
「無塩バターはお菓子とか作る用だよ」と言ったら、やっとそうなんだという顔をした。その後に
「バターには塩が入っているのか?」
「いつも食べているのは塩入りなのか?」と質問。
そうだよと答えると、「知らなかった」と。あはは。
私は、無塩バターを知らないバター君がいることを知らなかったよ。
後で父が「どおりで先日の雪印は物足りなかった」と言った。雪印、味落ちたのか、いいや、老人だからとうとう味がわからなくなってきたのかと、ちょいとひとりで落ち込んだんだそうだ。
おもしろいなぁ、82歳のバター君。
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