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組織改革:テレワーク制度のこと

テレワーク制度を利用している?

テレワークにせざるを得ない時代の流れとなり1年半超。
昨年は早急にテレワーク環境を整える必要がありました。
テレワーク規程(就業規則)もその1つで昨年はたくさんご依頼いただいたのですが、世間ではどうだったのでしょうか。
で、あれだけ早急にテレワーク環境を整えてどのくらいの企業さんが今現在もテレワークを行っているのでしょうか。

テレワークがどのくらい進んだか等の調査や取材結果が記された『テレワーク大全』(日経BP)という本を見つけたのでちょっと読んでみました。

この本は緊急事態宣言が出された昨年(2020年4月)の2か月後(2020年6月)に発行されたものなので、今現在もテレワークを行っているか、行っていないのであれば何が問題だったのか、テレワークを一度やったのにやらなくなった理由は推察するしかありませんね。

まず調査時点のでの回答ですが、約4割がテレワークを週5日以上利用しており、週3日以上を合わせると6割強がテレワークを利用しているようです。(n=2917)

テレワークをしない理由は?

次にテレワークをやらない(できない)理由として挙げられているもののうち、当然テレワークに適さない業種や職種があるのはわかりますが、それ以外の理由として以下が挙がっています。

・テレワークに必要なITシステムを整えていない
・必要な機器を支給できない
・テレワーク制度を導入していない
・テレワークを推進すべき部門や司令塔が不明確
・情報セキュリティーの確保に不安がある

これらはやらない、できない理由となるのでしょうか。

新しいことを行うにはお金も時間も労力もかかりますが、それでもどうやったらできるかを考えたり、テレワークに移行するかしないか両方のシミュレーションをしてそれでもなお”やらない”という結果になったのでしょうか。
選択式の回答だったようなので裏の事情はわかりません。

自由回答(その他回答)の具体的な中身に
・経営者であるため
・管理職だから
といった内容が多かったとのこと。

なぜ経営者や管理職だとテレワークができないのでしょうか。

そのほか
・自宅と職場が近いため通勤による感染リスクが低い
・現時点で外出自粛要請対象都道府県ではない
という回答があったようです。

一つ疑問なのですが、
「”現時点で”は自粛要請されていない」
との回答、自粛要請対象となったときはどうするつもりなのでしょうか。

テレワークをしてみて生産性は上がったか。

「テレワークをしてみて生産性は上がったか」との回答には6割以上が”下がった”とする回答だったそうです。
詳しく見ていくと生産性が下がったと回答した中に、

・予想以上に業務を進めることができほとんど支障がなかった。
・オリンピック開催に向けてテレワーク環境を整備していたので
スムーズに業務を継続できている。

という回答もあったようで
・ほとんど支障がなかった(が、結果として少し下がってる)
・前々から準備していたことが功を奏して生産性にはほとんど影響がなかった
とする、「(業務に支障はなかったが)生産性は下がった」というものも6割の中に入っているようです。

緊急事態宣言が出てから2か月後の調査なので、突然働き方が変わり、慣れないこともあったと思いますし、生産性が下がった原因もきちんと調査して改善していければテレワークでも支障がなさそうな感じはしますが、どうでしょうか。

また、テレワーク業務の生産性に関して以下のような指摘があったようです。

「業務の進捗状況の可視化が進まない限り、業務の生産性を把握するのは難しい」

そして自由意見欄には以下のような趣旨の意見が多く見られたようです。

「テレワーク推進は人事評価制度の見直しとセットで進めるべきである」

テレワークの生産性について議論するにあたり、人事評価制度は避けて取れない課題であることがわかります。

ここは私も同意見ですが、疑問があります。

〇そもそもテレワーク以前にどの程度業務を可視化できていたのか
〇また生産性は図れていたのか
〇人事評価制度はどのように行われていたのか、そして機能していたのか

こちらのアンケート結果ではわかりません。

ここまでは生産性の話。

テレワークだと業務に支障があるか。

さて、生産性が低下したこの事態がどのくらい深刻かを探るため、次にテレワークにしたことで業務に支障が出ているかとの問いかけがなされています。

その回答のうち6割強が「支障なし」とのこと。
反対に業務に多くの支障があるまたは業務がまったく進まないは15%程度だそうです。

そしてテレワークに対して肯定的な意見もありました。

・通勤ストレスがない。
・(通勤時間がないことで)時間の有効活用ができる。
・オフィスでの無駄話に煩わされることがなくて良い。

テレワークに否定的な方々も
・メリットデメリットを比較してどの程度許容できるか
・デメリットを改善する余地があるのか
などを検討するとテレワークという働き方も視野に入ってくるのかなと思います。

さて。

テレワークにより働かない社員が顕在化?

弊事務所にはテレワーク導入のご相談の他、テレワークを導入した会社さんが相談にやってきます。

相談内容は様々なのですが、その中で気になる相談は以下のことです。

・テレワーク中の社員がさぼっていないか。
・さぼっているようなのだが、どう対応したらいいか。

話を聞いていくと「さぼっている”ようだ”」なのです。
実際さぼっているかどうかははっきりとわかっていないご相談者さんもいます。

でも”雰囲気”でなんとなくさぼっているみたいだとわかるようで、でも実際ははっきりしないので指導もできない、ということなのでしょう。
さぼっていることを確かめたいということが先にきているんですね。

そこで、業務指示書はあるのか、または「どうやって業務指示をしているのか」と聞いてみるとそこもはっきりしません。
朝礼や終礼では何をしているのか、日報などの報告はさせているのか、させているのであればどのような内容を報告させているのか、会社でのやり方を聞いていきます。

それぞれの部署や上司によってやり方が違っていたり、そもそも部下のマネジメントをやっていなかったり、そのときそのときで指示する内容が違っていたりで、会社として統一した”マネジメントの仕組み”ができていないこともあるようです。

”さぼらせない仕組みづくり”というのは何とも情けない話ですが、きちんと仕事をしてもらい、生産性を上げてもらう仕組みづくりをしなければなりません。

仕事の見える化がまず必要。

実際、さぼっている”ようだ”と推測でしかないのは、部下がどんな業務をやっているのか、その業務にはどのくらいの時間がかかるのか、部下の能力などがはっきりとわかっていないからです。

また、業務内容はある程度把握しており、業務指示もしっかりしているし、かかる時間もわかっていても、ミスが多い部下がいれば同僚や上司が手を貸すことになったり、修正したりで通常よりもずっと多くの時間と人力が必要になってきます。
業務の指示はミスしたくてもできない設計個人の裁量が入らない設計にしなければなりません。

さぼらせない仕組みは、パソコンのログを自動的に取っていくなどのように物理的に行うことも可能ですが、それでは”テレワークの自由度”が失われてしまうと思います。
通常オフィスにいるときであっても、そんなふうにガッチガチに”監視”はしていないのでは?

またオフィスにいるとき、たまに同僚と雑談をしたりして業務からいったん離れる時間があったりするでしょう?
そのような時間がテレワーク中は持てません(雑談ツールもありますが)。
いったん業務から離れることで思考がすっきりすることも多く、(テレワーク場所が自宅であれば)在宅勤務の利点を生かして仕事の息抜きがてらに家事をしたりすることを禁止するのはあまり得策とは私は思えません。
なので、仕事さえしっかりやっていてくれれば就業時間中だったとしても(程度はもちろんありますが)家のことをやってもOKにしたり、育児等の都合に合わせて勤務時間をずらすなど、ある程度の自由度を許容したほうが良いのではないかと思います。

そこでその自由度を”さぼり”とさせないために、テレワークのルールをしっかり決めることと業務内容の把握や部下の能力を把握しておかないといけないのです。

『さぼらせない仕組み』とわかりやすく言いましたが、要は『人と人をより生産的に働かせるための仕組み』を作ることで、会議の仕方=意思決定の伝達方法、人をどう動かすか、どう動いてもらうか=人に”正しく”動いてもらい、組織としてきちんと機能するようにすることです。そして評価制度と報酬の決定までもが一連の流れになります。

テレワークをやらない理由は何ですか?

・テレワークに必要なITシステムを整えていない
・必要な機器を支給できない
・テレワーク制度を導入していない
・テレワークを推進すべき部門や司令塔が不明確
・情報セキュリティーの確保に不安がある

テレワークに必要なITシステムや機器類がないという理由が、何を準備したらいいのかわからない、ITシステムに精通した社員がいないことだとしたら、少なくとも電話やメールを使っているのであればそれを設定した企業に相談してみる(それを足掛かりにして必要なサービス等を紹介してもらう)、お金をかけられないということであれば、IT補助金等の助成金制度を利用したり、チャットシステムや会議システムなど無償で使えるツールはたくさんありますのでそれを使ってみるなど、できることはあります。やってみましたか?

お金をかけられない、テレワークにかたくなに反対する管理職等がいる場合など、いきなり全社的にテレワークにするには抵抗があるのだとしたら、お試しで一部の部署や一部の社員から始めてみましょう。そして支障があったところは改善できるのかなどの検証をしていくなどして、全社で導入できるか検討しましょう。

テレワーク環境を整えてみませんか。

テレワーク制度や運用については伊藤事務所にご相談ください。テレワーク環境をどのように整えるか、できるできない職種の選別やテレワーク時のルール=勤怠管理・労務管理・業務指示はどのように行うか、必要な機器類やツールは何かなど御社に合わせたテレワークのルールを1から組み立てていきましょう。

また、テレワークを災害時や育児介護の期間中だけなど、臨時的一時的な制度とするか、就業場所が”オフィス”ではないというだけで通常と変わらない働き方の制度とするか、それによっても力を入れるところは変わってきます。しかし、今後は1つの働き方として会社の制度に組み込んでしまう方がメリットは高いのではないかと思っています。

その理由として、健康上の理由でフルタイム勤務はむずかしい、遠方で通勤はむずかしい、しかしとても優秀(会社にとって欲しい能力を持った人材)だったとしたら、雇い入れたいでしょうし、長く勤めてもらいたいと思うでしょう。少数精鋭の中小企業においては特に、会社に必要な能力を持つ人材を確保し、長く勤めてもらうことが大事ですよね。そういった人材に選んでもらえる企業となるためにも、いろいろな働き方を選択できる方がいいのではないでしょうか。そういった人材を受け入れられる土壌を作るのは、国がテレワークを推進している(=助成や支援がある)”今”やるのが得策ではないかと思います。

テレワークは組織改革の1つにすぎませんが、自然災害が起こったときや、この時代のように感染症が流行ったとき、出社しなくても仕事ができる環境を整えておくことは、事業主の安全配慮義務の観点からも重要なことだと思います。

安全配慮義務とは従業員が心身ともに安全に働けるように職場環境等に配慮することで、労働契約法第5条にて明文化されています。
【労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)】
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
≪Profile≫伊藤社会保険労務士事務所
東京都社会保険労務士会 所属
特定社会保険労務士 伊藤 綾子
2005年4月 渋谷区にて事務所開設
2011年11月 豊島区に事務所移転
★組織改革支援★組織・人材活性化支援★
伊藤からの質問「どういう組織をつくりたいですか?」


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