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なんでもかんでも昆布〆にする

なにか物足りないな、または少し飽きたな、という魚が釣れた時は、なんでもかんでも昆布〆(こぶじめ)にします。頼りなかった魚や、倦怠期を迎えてときめかなくなった魚たちに、ハッとするような煌めきが加わり、改めて惚れなおすに違いないからです。


台風一過がもたらした真鯛

釣り人の間では、台風の後は海の様相が変わり魚が釣れるというの話が都市伝説のように語られます。

とはいえ、牛歩のごとくのろのろとした台風7号のせいで漁港でも被害が出ているかもしれないし、さすがに不謹慎かと自粛していたところ、知人から特に被害もなく変わりないと一報が入り、それならばと週末深夜に海へと向かいましたところ・・・

メタルジグで真鯛が釣れました。

小ぶりだけど細竿なのでかなり引いた

アジング用の細い竿でメタルジグを投げていると、突然ガツンと狂暴なアタリが。下へ下へと突っ込んでいく感じがいつものオオモンハタとは違う。こ、これはなんぞや?と思いながら寄せてくると、赤い魚体が浮き上がってきました。30㎝ほどで小さいですが、ちゃんと真鯛です。

何度も真鯛のアタリがあったけれど、釣れたのは3匹。修行が必要

陸っぱりからルアーで真鯛を釣るとは、いよいよ俺の釣りにも玄人の凄みがでてきたか...と悦に入っていると、もう一人いた若者が涼しい顔で真鯛を3尾ぶら下げて歩いてらっしゃる。

聞くと、台風対策で普段は沖に設置している養殖の筏を湾内に移動させたので、そこから逃げた鯛が釣れているのだとか。そりゃ週末素人アングラーの自分でも釣れるわけです。

「タイラバ」という船での真鯛釣り用のルアーに似た仕掛けを投げると、真鯛、オモンハタ、エソなどいろんな魚が釣れた

養殖の筏から逃げた真鯛をかご釣りで狙う人は多いですが、持ち帰っていいものなのかしらん。いざ自分が釣ると扱いに迷うものです。

自分が釣った漁港では、漁師さんが指さして笑いながら「おー、良かったなにいちゃん!」と言ってくれたので、お持ち帰りさせていただくことにしました。

養殖の真鯛の腹の中には・・・

投げるルアーの参考のため、何を捕食しているのか確認しようと鯛の腹を開いて胃の中身を確認したところ、見たことのない白いブヨブヨしたホルモンのようなものが出てきました。胃も通常より大きく広がっている感じがします。

一緒にいた人いわく、養殖魚はペレットの餌を食べているから、それがふやけたものだろうとのこと。うーむ。胃の中から小魚や甲殻類などが出てくるのは見慣れているけど、人工の餌が溶けたものが出てくるのを見るのはちょっと衝撃。

養殖って、ほんとに養殖なんだなあ。天然の真鯛に比べて色も明らかに黒ずんでいてその違いは一目瞭然。でも市場に流通する真鯛の8割は養殖なのだそうだから、これが普段食べている真鯛なのだ。

昆布〆で旨味を足す

30cm前後の真鯛、オオモンハタ、シオ

釣れてすぐに血抜き処理はしていたものの、この暑さ。30時間ぶりに家に帰ったころには鮮度が少し心配になってきました。さらに養殖真鯛のぶよっとした胃の中身がフラッシュバックし、なんとなく刺身で食べる気になれません。オオモンハタの刺身も先日食べたばかりで少々飽き気味だし、さて、どうしたものか。

昆布〆にしよう!

サイズが小さく脂も乗っていないだろうし、身も締まりがない感じがしたので、昆布締めにして余分な水分を抜き、旨味を足して、家族を「あ!」と言わせる一品を作ることに。

どいつもこいつも昆布〆にしてやるだわさ!キヒヒ・・・と卑怯な鼠のような顔で笑いながら昆布〆に取りかかったのでした。

酒で湿らせたキッチンペーパーで軽くふいた昆布に、柵にした真鯛とオオモンハタを載せる。身が大きければ食べるサイズに切ってから昆布に挟んでもいいけれど、今回は身が小さいので柵の状態で昆布〆にします。

※シオ(青物)は昆布〆に向かないそうなので、いつも通り漬けに。

昆布に乗せた刺身をミルフィーユのように重ねる
箸休め用に、かいわれ大根とキュウリも昆布で〆てみる
ぴっちりとラップで包んだら、適当な重しをのせて冷蔵庫でひと晩寝かせる
完成した昆布〆

ひと晩寝かせた鯛の昆布〆。余分な水分が抜けて身が締まり、透明感が増して見るからに美味しそう。

真鯛、オオモンハタ、キュウリ、かいわれ大根の昆布締めが完成です。

さっそく味見がてら、ひと切れ食べてみると、

ウマイ!!

これは本当に美味!
しょう油やわさび、いらん。昆布と鯛の旨味だけで十分ガツンとくる。臭み、一切なし。旨味、150%。

キュウリとかいわれ大根の昆布〆も、塩も振ってないのにほんのり塩気を帯びた感じで良い。はんなりしなびた姿が愛らしい。

刺身にカイワレ大根を乗せて巻いて食べるとこれも好相性。カイワレ大根の辛味がちょうどいいアクセントになっていくらでも食べられます。キリっと冷えたキンミヤ焼酎の水割りが止まりません。

あらでとった出汁で味噌汁を

「真鯛のあらを捨てると目が腐る」という慣用句がないなら、いますぐ作るべきだと思う。さすれば、目が腐る恐怖心からあらを捨てる人がいなくなり、代わりに皆が絶品出汁の味噌汁にありつける世の中になるでしょう。

鯛の油ニンニクスープ

1匹残しておいた真鯛は、アクアパッツァにすることに。簡単なのに絶対に美味しくなるので、白身魚が丸ごと1匹手に入ったらぜひ作りたいものです。

オリーブオイルでニンニク炒めて香りをだし、真鯛の両面に焼き目をつけて、酒と水を入れて野菜を放り込み、アサリを入れてフタをする。10分ほど煮てアサリが開いたらトマトを入れて、さらにひと煮立ち。味付けは塩コショウをさっと振るだけなのに、驚くほど奥深いスープになる不思議。

ちなみに、ニンニクとオリーブオイルは「ちょっと多いかな?」と思う2倍の量を投入するように心がけます。「アクアパッツァ」なんてピンとこない名前より「白身魚の油ニンニク」と呼べばいいのに。

マッハのダッシュでパン買いに行く奥さん

冷凍庫にあった2切れのパンをスープに浸して、家族3人で「ウマイウマイ」と貪り食ったところ、全然パンが足りない。

「ワタシ、パン買ってくるわ!」

奥さんがマッハのダッシュで飛び出していこうとする。

「その前にコレ食っていけ!」

と息子と昼間釣ったハゼの唐揚げを箸で口に押し込んでやると、「ウマイっ!」と叫びながら奥さんは廊下を小走りに去っていきました。興奮した猫が突然猛ダッシュで部屋をめちゃくちゃに走りまわります。息子が垢舐めのように皿を舐めている。皆が浮き足立っている。

その日、我が家では部屋中がニンニクの匂いと狂熱と祝福に包まれた。ハレルヤ。

3日間の幸せをありがとう、魚さんたち








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