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私が好きな「条文」~蛭町浩の場合~

【不動産登記法】
(共同申請)
第60条 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。

この規定は,2005(平成17)年3月7日から施行されている全面改正形式で制定された現行法が,1899(明治32)年6月16日から施行された旧不動産登記法第26条1項の「登記ハ登記権利者及ヒ登記義務者・・之ヲ申請スルコトヲ要ス」旨の規定を引き継いだものです。

旧不動産登記法26条1項の共同申請は,明治19年ドイツ留学組(司法省法学校首席の梅謙次郎は4か月先行しフランス留学)の1人である田部芳(たなべ・かおる)によって起案された条文であり,これはドイツの「コンゼンス・テオリー」の主義にならったものであることが明言されています。

この考え方は,登記の他に意思を物権変動の効力要件とする考え方です。ドイツでは,「物権行為の独自性」が求められるため債権契約である売買契約とは別に所有権を移転させる物権行為が必要となります。
ドイツ民法の原始規定は,仮想訴訟の伝統から公証人の面前で債権契約を締結し,登記官の面前で物権契約を締結(登記申請)し,登記がされることで権利変動の効力が生ずる旨を規定しています。これは,公証人の関与と登記官の面前での物権契約こそが登記の真実性を確保するための核心となるメカニズムです。

それにも関わらず,立案者の田部は,公証人の証書を提出する点につき,公証人の数が増加し,責任が強化されない限り採用できないとしており,加えて,物権行為の独自性が否定(大判大2.10.25)され,登記官の面前での物権契約が観念できないことを考えれば,田部が共同申請という形式に託したものは,何だったのか。

時は,まさに「進化論」全盛の時代であり,「若い日本」を代表する秀才たちは,フランス,ドイツの制度を進化の余地を残すものと捉え,それを超える登記制度を目指していたのかもしれず,妄想を膨らませて楽しめるという意味で,不動産登記法第60条が私の好きな条文なのです。

ちなみに,梅謙次郎も田部芳も酒と鰻が大好物であり,この時期になると鰻の連想で田部の顔がちらつくのです。もしかしたら,私の好きなのは酒と鰻なのかもしれませんが。

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