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「重要な業務執行の決定の取締役への委任」よ、なぜ失効した!?~今宵、記述式答案構成力養成答練(商業登記法)ライブ劇場で(第1回講義)~

伊藤塾 司法書士試験科 司法書士 杉山潤一

こんにちは。
記述式答案構成力養成答練(商業登記法)の問題作成者の杉山です。

現在、答案構成力養成答練(商業登記法)も、東京校で実施されているライブ講義が開始しており、第1回講義が終了しているところです。私も、問題作成者として、ライブ講義終了後の教室で受講生の質問受けをしているところです。そこで、今回は、そのライブ講義の質問受けでのある受講生からの質問について解説をしてみようと思います。

【質問】

第1回第1問では、監査等委員会設置会社において、重要な業務執行の決定(支店設置の決定)を取締役に委任する取締役会の決議がされています。
〔質問1〕本問では、委任の効力が失われており、取締役の決定によって支店設置をすることができないとのことですが、どのような理由でそうなるのでしょうか。
〔質問2〕重要な業務執行の決定の取締役への委任に関する規定の設定による変更の登記を申請しなくてもよいのでしょうか。

【回答】

〔回答1〕「親亀が転んだから」です(?!)。
〔回答2〕登記申請をする必要はありません。

【解説】

まずは、監査等委員会設置会社における業務執行の決定(及びその委任の可否)についておさらいしておきましょう。原則と例外(①②)とをきちんと分けて理解することがポイントとなります。

<原則>業務執行の決定は、取締役会が行います。(会社399条の13第1項1号)。
<例外>以下の①又は②の場合には、取締役会の決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができます(同条5項、6項)。
①取締役の過半数が社外取締役である場合
②定款の定め(重要な業務執行の決定の取締役への委任についての定款の定め)がある場合

本問では、<例外>①の規定によっています。すなわち、取締役の過半数が社外取締役であること(A)を前提として、支店設置の決定を取締役に委任する取締役会の決議(B)がされ、その取締役会の決議に基づき取締役が支店設置の決定(C)をしようとしています。このことを「親亀の背に子亀が乗り、子亀の背に孫亀が乗っている」イメージで表すと、以下のとおりです。

孫亀(C)…支店設置をする取締役の決定
子亀(B)…支店設置の決定を取締役に委任する取締役会の決議
親亀(A)…取締役の過半数が社外取締役であること

さて、ここで〔質問1〕に回答することといたしましょう。この部分は、「事後的に取締役の過半数が社外取締役でなくなったときは、重要な業務執行の決定の取締役への委任は、将来に向かってその効力を失うこととなる。」(江頭憲治郎『株式会社法』p612参照)という実務上の見解に基づいています。

しかし、ここでは、難しいことを考える必要はありません。端的に言えば、「支店設置の決定の前提条件(取締役の過半数が社外取締役であること)が失われてしまったので、支店設置をすることができなくなった」というだけのことです。上記のイメージ図の表現でいえば、「親亀が転べば子亀が転び、子亀が転べば孫亀が転ぶ」ということです。

というわけで、〔質問1〕への回答は、「親亀が転んだから」ということとなります。問題作成者としては、受講生各位に、「くれぐれも可哀想な親亀をいじめないように」とお願いしておきます。

さて、最後に〔質問2〕に回答することといたしましょう。本問では、すでに説明したとおり、「①取締役の過半数が社外取締役であること」に基づいて委任をしています。「②定款の定めがあること」に基づいているわけではありません。このことは、問題中に示された別紙の定款、株主総会議事録等の内容を一瞥すれば、判断することができるでしょう。

ここで、監査等委員会設置会社に関する登記事項を定めている会社法911条3項22号を見てみましょう。

㉒ 監査等委員会設置会社であるときは、その旨及び次に掲げる事項
イ 監査等委員である取締役及びそれ以外の取締役の氏名
ロ 取締役のうち社外取締役であるものについて、社外取締役である旨
ハ 第399条の13第6項の規定による重要な業務執行の決定の取締役への委任についての定款の定めがあるときは、その旨

ハを見てみれば、一目瞭然です。「②定款の定めがある場合」には、定款の定めが登記事項となりますが、「①取締役の過半数が社外取締役である場合」には、登記事項となるのは、社外取締役である旨だけであって(ロ)、委任することができる旨の定めは登記事項とはなりません。

ということで、本問では、「①取締役の過半数が社外取締役であること」に基づいて委任をしているのであり、「②定款の定め」がないことから、定款の定めに関する登記事項の変更が生じていないため、重要な業務執行の決定の取締役への委任に関する規定の設定による変更の登記を申請する必要はありません。

回答は以上となります。今回において説明した部分は、監査等委員会設置会社のポイントの一つとなります。記述式問題における出題の可能性はそれほど高くないかもしれませんが、択一式問題における出題の可能性は十分に想定されるところです。問題作成者としては、受験生各位に、十分な復習をすることをお願いする次第です。

それでは、記述式答案構成力養成答練(商業登記法)も残すところあと5回です。受講生各位のより一層の奮励努力を祈念しております。


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