ファーストステップ司法書士7「胎児は「人」なのか?【権利能力】」
【1】意義
例えば,AがBから車を買う契約(売買契約)をした場合,AはBに対して「車を引き渡せ」という権利を持つ一方,「お金を支払わなければならない」という義務を負います。このように権利を持ち,義務を負うことができる能力のことを「権利能力」といいます。民法上,権利能力が認められている主体は「人」であり,「人」は「自然人」と「法人」の2種類に分けられます(※1)。では,自然人が権利能力を取得するのはいつでしょうか?「私権の享有は,出生に始まる」と第3条1項の条文にあるように,自然人は生まれた時点で権利能力を取得します。つまり,0歳の赤ん坊であっても,権利能力を持っており,財産を取得することや,契約をすることができます(現実的には親に代理してもらう必要はあります)。逆に言えば,出生前である「胎児」は原則として権利能力を持ちません。ただし,例外として,相続・遺贈などについては,「生まれたものとみなす」とされています(886条1項,965条)。つまり,これらに限っては,胎児も例外的に権利能力を持つのです。
※1 権利能力を持つ主体は「人」に限られるので,人間同等の知能を持つチンパンジーがいたとしても,権利能力を持つことはできません。
【2】趣旨
第3条1項は,権利能力を取得するタイミングが「出生」であることと同時に,出生すればみんな平等に権利能力を持つことを規定しています。ただし,相続や遺贈のように,出生のタイミングによって,利益を得ることができるかできないかの結論が変わってしまうことが妥当でない場合については,例外的に胎児に権利能力を認めることにしました(※2)。
※2 相続や遺贈は,被相続人・遺贈者が死亡した時に効力が生じます。出生の時期がそれらの者の死亡より遅いか早いかで結論が変わってしまうのは妥当ではありませんよね。
【3】解答
原則としては,胎児に権利能力はありません。となると,この遺贈を受け取る権利がないとも考えられますが(3条),例外として遺贈の場合は胎児も権利能力を持つので(965条・886条),Aはこの遺贈を受け取る権利を持つことになります。
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