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その取締役の選任、定款違反じゃありませんか?~今宵、記述式答案構成力養成答練(商業登記法)ライブ劇場で(第2回講義)~

伊藤塾 司法書士試験科 司法書士 杉山潤一

【要注意】本稿は、記述式答案構成力養成答練第2回の問題の内容に触れている箇所がありますので、解説講義の受講後にお読みください。

こんにちは。
記述式答案構成力養成答練(商業登記法)の問題作成者の杉山です。

現在、東京校で実施されている記述式答案構成力養成答練(商業登記法)のライブ講義も、第2回が終了しているところです。

そこで、今回も、前回に引き続き、ライブ講義の質問受けでのある受講生からの質問について解説をしてみようと思います。

【質問】
第2回第1問の「登記することができない事項」の「取締役Eの就任」の理由として、「定款の取締役の員数に関する規定(取締役2名)に違反するから」と記載することはできませんか。

【回答】
解答例記載の理由を記載するほうが望ましいものと考えます(ご指摘の内容を記載した場合には、本試験では得点することができない可能性があります)。

【解説】
まず、取締役等選解任権付株式(会社法108条1項9号)について確認しておきましょう。
取締役等選解任権付株式とは、「種類株主総会において取締役又は監査役を選任する旨の定めのある種類株式」のことです。

まず、ポイントとなるのは、取締役の選任に関する取締役等選解任権付株式を発行している場合には、取締役の選任は、種類株主総会の決議によってしなければならないことです(会社347条1項、329条1項)。すなわち、この場合には、「株主総会の決議によって取締役を選任することができない」こととなります。

本問の場合には、取締役等選解任権付株式を発行していることから、株主総会の決議によって取締役Eを選任することができないため、その旨を登記することができない理由として記載することとなります。

ところで、本問の場合には、別紙の定款に「取締役2名」との規定が記載されています。そして、取締役Eの選任をする株主総会の直前において、取締役2名(B及びD)が在任中となっていることから、3人目の取締役を選任しようとする取締役Eの選任が定款に違反するのではないか、というのが質問者の疑問であるということとなります。

確かに、質問者のご指摘のとおり、Eが取締役に就任することとなると、取締役3名が在任中となり、その状態は定款の定める「取締役2名」に矛盾抵触することとなりそうです。

しかし、Eが「有効に取締役に就任することができた場合」に限り、定款の規定に違反する状態となるのであり、本問の場合には、すでに指摘したとおり、Eは有効に取締役に就任することができないことから、取締役3名在任中との状態になることがないため、実際には定款の規定に違反する状態とはなっていません。

したがって、本問の場合には、取締役Eが就任することができない理由として、定款の規定に違反している取締役の選任である旨を記載することは、あまり望ましくないと考えられます。

しかし、記述式問題を解く際に、法令又は定款所定の役員の員数を常に意識しておくことは極めて重要なことです。法令又は定款所定の役員の員数を欠いた場合に、ある定めが失効したり、役員の権利義務が生じたりすることがあり、そのことが「記述式問題の急所」となっていることは、本問や第1回第1問に取り組んだ受講生の皆さんにおいては、十分に痛感されていることでしょう。

問題作成者としては、受講生各位には、今後とも、「役員が就任又は退任する際に、そのことが法令又は定款所定の役員の員数とどのような関係にあるか」を強く意識しつつ、記述式問題に取り組むようにしてほしいと期待しています。

その意味において、質問者(及び同様の疑問を持った受講生)は、第2回第1問において得点することはできなかったかもしれませんが、記述式問題の急所についてより一層高い意識を持っている前途有望な受験生であるということができるでしょう。

回答は以上となります。

それでは、記述式答案構成力養成答練(商業登記法)も残すところあと4回です。受講生各位のより一層の奮励努力を祈念しております。

前回の記事はこちら

「重要な業務執行の決定の取締役への委任」よ、なぜ失効した!?~今宵、記述式答案構成力養成答練(商業登記法)ライブ劇場で(第1回講義)~

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