見出し画像

【記述式】申請の個数の判断-数個の法律関係を1個の原因関係と評価する例外②(蛭町講師)

 今回は以下の記事の続きとして,「数個の法律関係を1個の原因関係と評価する例外」の「取得時効と相続」を取り扱う。

取得時効と相続

【1】占有者の相続

 ⑴ 原 則

 BがAの甲地を平成3年4月1日に占有し,長期取得時効を完成させ,令和3年7月1日に時効援用の意思表示をすれば,時効の効力はその起算日に遡るため(民144),Bが平成3年4月1日の占有開始時に甲地を取得し,時効取得を原因とする所有権移転登記を申請できる。

 ⑵ 占有者の完成・相続人の援用(過去問)

 過去問では,BがAの甲地を平成3年4月1日に占有し,長期取得時効を完成させて死亡し,その相続人である配偶者C,子DEのうち,Cから相続分の譲渡を受けたDが令和3年7月1日に時効援用の意思表示をした場合の事例が出題されている。

 この場合,時効期間は満了しているが,占有者Bが時効援用の意思表示をしておらずBが甲地を取得していない。判例により時効を援用した相続人Dが,占有開始時に遡って,甲地について相続分(相続分譲渡を含む)に相当する割合の権利を取得する(最判平13.7.10)。

この場合,法律関係は,取得時効と占有者Bの相続と明らかに2個存在するが,時効の遡及効により初めから相続人Dが甲地の一部を時効取得した法律関係だけを原因関係と判断すれば足りることになる。

78・平17-甲地同時1 仮処分による一部失効による4番所有権更正
79・平17-甲地同時2 判決による時効取得のA持分全部移転登記

 ⑶ 相続人完成・相続人の援用

 未出題だが,占有者Bが時効を完成させずに死亡し,相続人Dが承継した占有を継続するか又は自己の占有により取得時効を完成させ,時効援用の意思表示をした場合も,Dの時効取得のみが原因関係となり,同様の結論となる。

過去問との違いは,この場合の取得分量は,占有不動産の全部となる点である。

 ⑷ 占有者の完成・援用後の相続

 これに対して,BがAの甲地を平成3年4月1日に占有し,長期取得時効を完成させ,Bが令和3年4月2日に時効援用の意思表示をし,Bが同年5月1日に死亡し相続人がDの場合,時効援用の意思表示をしたBが甲地を取得し,Dが相続でさらに甲地を取得する。

 この場合のみ,法律関係は,取得時効と占有者Bの相続と明らかに2個存在し,原則どおり,Bのための時効取得による所有権移転登記,Dのための相続による所有権移転登記をする。

 過去問の焼き直しプラスアルファの出題傾向を考えれば,⑶,⑷の事例には注意が必要となる。

【2】所有者の相続

 BがAの甲地を平成3年4月1日に占有し,取得時効を完成させる前にAが甲地をCに移転し登記を完了させた後に,Bが取得時効を完成させ,BがCに対して,令和3年7月1日に時効援用の意思表示をした場合,Bは登記なしに甲地の取得をCに対抗できるため,Bのために,時効取得による所有権移転登記をCを登記義務者として申請すれば足りる。

 他方,BがAの甲地を平成3年4月1日に占有し,取得時効を完成させ,時効援用の意思表示をした後に,Aを被告とした登記手続請求訴訟を提起したところ,Aが甲地をCに移転し登記を完了させた場合,BとCの関係は登記による対抗関係となるため,Cが既に登記を完了している以上,Bは対抗要件を備えたCに時効取得を対抗できず,勝訴できない。

 この不都合を回避するために登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分が活用することになる(平17)。

※ こちらの記事に関する質問は受け付けておりません。

画像1

画像2

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?